表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/167

5-11 リトの過去7 軽蔑したりしない ・弓が襲われた本当の訳

 記憶を見終えたので、ラムールが部屋の照明をつけてカーテンと窓を開けた。

 明るい日差しが部屋に入ってくる。

 涼しい空気が部屋のこもった空気と混ざり合った。

 リトの祖母はただ俯いて立ち、リトも半ば呆然と立ちすくんでいた。


「リト。 記憶を見せてくれてありがとう。 とても懐かしい映像でした」


 穏やかにラムールが告げてリトの肩をポンと叩いた。


「にしても佐太郎。 なに? 老師って最初は二人の結婚に反対してたの? ボクにはそんなこと全然愚痴らなかったけど」

「反対っつーか、早すぎるって感じでだな。 そーいや、ライ……ラムールもかなり、ごねたらしーじゃんか?」

「だって結婚したら新世も一夢も陽炎の館を出て行くって思ったんだもん」


 懐かしい映像に浸ったせいだろうか、ラムールの口調はいつもより子供っぽかった。


「……ごめんなさい。 ラムールさま」


 そんな中、リトが小さな声を絞り出した。 そしてそんなリトを支えるように弓はリトの手をしっかりと握っていた。


「本当に申し訳ありませんでした……」


 続いてリトの祖母が再び深々と頭を下げようとした。

 が。

 ラムールは祖母の肩に手をやり、頭をそれ以上下げさせなかった。


「もう、気になさらないで」


 優しく、告げる。


「この記憶の時の貴女は新世のことよく知らなかっただけです。 そして今は新世がとても優しい人だったと分かってくれている。 本来ならば破壊され消えているはずのこの羽がその証拠。 今日までの長い間、新世の翼を大切に保管して下さった、だから私は再び新世に会える。 ――私としては貴女にお礼を言いたい位です。 本当にありがとう」


 ラムールは祖母をそっとハグした。 すみませんと泣いて謝る祖母の背中をさすって落ち着かせた。


「――それで、この新世の羽ですが、私が頂いてもよろしいですか?」


 少し落ち着いた祖母を見てラムールが尋ねる。 当然拒否するはずもなく、祖母は頷いた。


「ありがとう。 ――リト、おばあさまのフォローをよろしくお願いします。 本当に、本当に。 もう気にしないでくれと。 私は一度、さっきの牢に戻ってきます。 佐太郎、弓。 後は頼みましたよ」


 感謝の気持ちだろうか、ラムールはそっと祖母の頬に唇を寄せてから、身を翻して部屋を出て行った。

 部屋に残された3人のなかで、まず佐太郎がポリポリと頭をかいた。


「つーことだ。 リト。 フィリー。 あいつがいいっつってるから、もう気にすんな」


 しかし祖母は黙っていた。


「おばあちゃん」


 そしてリトも、もう気にしなくていいのよなんて言葉、気軽に口には出せなかった。


「リト」


 やっとのこと、フィリーが口を開いた。


「ばぁばのこと、軽蔑したであろう?」

「ううん! そんなことない!」


 リトは慌てて祖母に駆け寄りその手を取った。

 祖母の目は真っ赤で、涙が浮かんでいた。


「リト。 わしらはな、何の反省もしてなかったのじゃ。 その後も真剣に考えなかったのじゃ。 我々がどれだけ惨いことをしたかということに。 やっとこの前、そのときにいた村人何人かで試しに閉ざされた地下牢に入ってみたのじゃ。 ――もう、言葉にならなんだ。 日が暮れると明かり一つ無く真っ暗になる洞窟。 海が満ちてくる気配。 一晩どころか半日ももたなかった。 そんなところにわしらは15になるかならないかの少女を何日も閉じこめた……」

「……」

「そこでやっと、われらは、新世どのを牢に繋いだということがどんなに酷いことだったかに気付いた。 しかし詫びすらできぬ。 じゃから、詫びの代わりにわしらはせめて同じ目に遭おうと話し合った。 リトは何も悪くないが、わしらは過去の自分たちが行ったことを罰として、リトの15の祝いに参加しなかったのじゃ。 そして、今ならよく分かる。 カイ老師がどんなに新世どのの15の祝いを楽しみにしていたか、祝ってやることもできずにどんなに口惜しかったか。 すまぬ。 すまぬ。 リトよ。 ばぁばを、ばぁばを嫌いにならないでおくれ」


 再び泣き出した祖母を、リトは慌てて優しく抱きしめた。


「やだおばあちゃん。 嫌いになんてならないよ? ね、ラムールさまも言ったでしょ? もういい、もういいんだって」

「そうですよ。 おばあさま」


 弓も祖母に寄り添い肩を撫でて慰めた。


「だな。 奴も言ってたとおもうが、新世は間近いなくお前達を許してらぁ。 そんな奴だった。 もう気にすんなって」


 佐太郎も優しく告げると祖母はだだ黙って頷いた。

 それからリト達は祖母をベットに連れて行き横にさせた。 なにしろ、祖母はとにかく疲れ切っている。 今は眠らせて、すこしでも心の傷が癒えることを祈るばかりだ。

 佐太郎が魔法の杖を使って祖母を穏やかな眠りへと導く。

 リトはちいさな寝息をたてはじめた祖母の神をつまむようにそっと撫でた。


――おばあちゃん。 心配しないでいいよ。 私、おばあちゃんのこと軽蔑したりしないから。


 そう心で呟きながら、そっと撫でた。

 だって。

 リトは翼族が危険で忌まわしいモノで条件反射的に嫌がられる存在だって、知っていたから。

 もう今では他人の記憶でしかないが、シンディの記憶が混ざっていたとき、訳もなく翼族を拒否した自分を知っていたから。

 理屈ではなく、実体験で。

 今は新世に対してどんなに可哀想事をしたと感じても、シンディが混ざっていた時の自分には絶対その気持ちは届かなかったと分かっているから。

 だから。





+++





 それからリト達は陽炎の館に帰る前にもういちど閉ざされた地下牢へと足を運んだ。 やはり入り口は土で埋められていたので崖側からローブをつたって下りる。

――私、この崖を落ちたんだ……

 下りながらリトは岩肌を見つめる。

 15歳になった今でも、この崖から落ちたら多分大けがして、下手したら死ぬだろう。

 自分が生きていることは、あのとき新世が助けてくれたからだ。

――なのに私、お礼も言えてない。

 そう考えると涙が出そうだった。


「あらっ」

「ん?」


 弓が声を上げたのでふと下を見ると、海の一部が不自然にせせり上がって牢内に浸水していた。


「ちょっとまてお前ら、動くな」


 上から佐太郎の声がしたと思うと、佐太郎は綱を外して飛び降りる。 そして海に飛び込む直前、着ていたマントをバサリと広げその上に座った。 マントは佐太郎が乗っても沈むことなくまるで船のようにぷかりと浮かんだ。


「大丈夫だから落ちてこい」


 佐太郎が見上げてリト達を呼ぶ。 これも科学魔法だろうか。 便利なものである。

 リトと弓は言われるがままその広げられたマントの上に飛び降りる。 四つんばいになって牢の中を覗いてみると――

 膝ちかくまで海水に浸かったラムールが新世の羽を両手で目の前に捧げるように持ち上げていた。

 新世の羽がふわりと宙に浮き、と同時に、そのすぐ側に白色の小さな球体が、霧をはらうかのように姿を現した。

 その球体の中には何か小さなものが入っている。 ――人間の大人の小指程度の大きさの小さな羽だ。


「共鳴起こして姿を現した移動羽か……。 マジでここにあるとはな……」


 佐太郎が呟いた。

 ラムールの手がその球体に触れると、球は音もなく割れ、その移動羽が掌にそっとおさまった。


「新世」


 ラムールが嬉しそうに呟いてその移動羽に軽くキスをする。 するとリトの記憶が入っていた羽の方が役目は終えたとばかりに粉々に崩れて消え去った。

 そして、不自然なほどに盛り上がっていた海面が一気にその潮位を下げた。


「うわ!」

「きゃっ!」


 マントの上に乗っていたリト達は一気に3メートルほど下に落ち、動ぜずに立っていた佐太郎にひしとしがみつく。


「あれ? 佐太郎? 何してるの?」


 柵の間からラムールが何事かとばかりの他人顔でこちらを見た。


「あほたれ」


 佐太郎が苦笑しながら言い返すとラムールは無邪気に微笑み返した。


「さぁ、陽炎の館に帰りましょう」


 ラムールはふわりと浮いて牢から出ると軽く手を振って魔法陣を描いて佐太郎達のマントの下にある海面をギュンと崖上まで上げた。

 なんというか、噴水の頂上とはこんな感じだろうかと思いながらリトは崖上の地面に降りたった。


「ええと」


 面食らいながらリトは言葉をさがしつつラムールをみて、ちょっとびっくりした。

 そこには嘘いつわりなく、とても上機嫌な雰囲気を醸し出しているラムールがいた。

 まるで憑きものが落ちたような、希望に満ちあふれた、ラムールが。




 

 

 そのころ、陽炎の館ではジンのことについて羽織に報告し終わったアリドが巳白の部屋に連れ込まれていた。

 ベットの上にアリドは腰掛け、ポケットの中からガムを差し出した。


「食うか? 数が足りねーから内緒でな」

「ふーん」


 巳白は意味ありげに目を細めながら素直にそれを受け取る。


「なんだよ何が言いてーんだ」


 少し視線をそらせながら呟く。


「いや。 ……ま、何にしろ今日はリトを連れてきてくれて助かったよ」

「もののついで」

「デートをもののついで扱いするなって」


 その言葉にアリドは噴き出す。 巳白は軽く笑ってから隣に座る。


「で? 何処行ったんだ?」

「テキトー」

「いーだろ教えろよ。 で?」

「……待ち合わせしてホテル行って3発ヤって帰ってきた」

「と、はぐらかす事しか出来ない真面目なデートをしてきたと」

「黙れ畜生この馬鹿巳白っ!」


 アリドは悔し紛れに枕を巳白にむかって投げた。 「図星図星」と笑いながら巳白は枕を受け止めた。


「あーも! そーなんだよな、お前らが知ったら絶対何か言うって思ったけどさぁ~!」


 アリドはベットの上で数回のたうち回り、勢いよく跳ね起きる。


「つか! 15の祝いをしてやっただけだっつーの! バイト代が出るのが今日だったから仕方なく」

「仕方なく、ペンダントをプレゼントした?」

「良く見てんなお前」

「今度俺にも何かおごれよ」

「しゃーねぇなぁ」


 アリドは軽く苦笑しながら軽く巳白をこづいた。 山サソリの薫製だけはいらないぞと注文をつけてから、巳白は少し神妙な顔になった。


「ってことは、リトに弓の事件のことを話したのか?」

「結果だけな」


 アリドは頭をかいた。


「俺が原因だって言ってもよかったんだけど、言えなかった」

「……そりゃあ、そうだろうなぁ」

「ちくしょー。 ……リト達には言うなよ?」

「まぁそこんとこ確認したくて部屋に連れ込んだ訳で」




 そう。 実は、弓が男達に襲われたのには裏があった。

 その頃、一夢と新世がいなくなったことが災いし、アリドは遊びを二つ覚えたのだ。

 夜遊びと――女遊びである。

 当然、無理矢理に襲うということは無かったが、アリドは容姿もよく、運動能力も高い。 均整のとれた体つきとビロードのようにしっとりとした褐色の肌は予想以上に女の子達をとりこにした。 腕が6本あろうとも見慣れてしまえばさほど違和感も感じず、また逆に便利であった。

 西地区で鍛えられたアリドは、幻のような甘い言葉と、ほんの少しの強引さで沢山の女を抱いた。 そこにはゲームを攻略するような感覚しかなく深い意味はなかった。 覚えたての性行為。 覚えたての女とのゲーム。 しかも面白いくらいにアリドは勝利した。 女達もアリドが一人のモノにならぬことを受け入れ甘やかした。

 怒ったのは、その女達の友人や、兄弟、そして恋人。

 女達が同意の上であったとしても、大事な人が誠意のかけらも無い男の手中に堕ちていくのをまざまざと見た彼らが怒ったのも当然であろう。

 そして、仕返しをしてやろうと企んだほんの一部の男達が弓を襲った男達だった。

 その事件以降、アリドは拠点を西地区に移したのだ。 陽炎の館と自分の関係を出来うる限り断つために。




「なぁアリド。 お前、リトのことはどう思っているんだ?」

 ゆっくりと巳白が口を開いた。


 アリドは何度か自問したことがあるのだろう、過去の結論を引き出しから出すように口にする。


「愛しているかと言われれば、違う。 大切かと言われればイラネーとは思わないけど捕まえておきたいとは思わねぇ。 でも」

「でも?」

「どうでもよくはねぇ。 側にいるだけで俺は確かに、嬉しいんだ」


 きっとそれは今のアリドの素直な結論だった。 巳白は優しく笑う。


「リトが聞いたら喜ぶな、それ」

「馬鹿いえ巳白。 逆だ。 女は愛していると言われただけ、大切と断言されたぶんだけ喜ぶ生き物だ。 たとえそれが口だけでもな」

「その、口だけがリトには出来ないんだろ?」

「うるせー」


 そうふて腐れるアリドを見ながら巳白はもらったガムを口に入れた。


「ん?」


 そのガムを味わう間もなく巳白が部屋の入り口に目を向けた。

 リビングが何やら騒がしい。


「――清流!」


 すると階下からラムールが清流の名を呼びつつ上がってくる。


「ラムールさん、帰ってきた」


 巳白が素早く反応して部屋を出た。



 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ