4-2 初デート、初プレゼント
アリドの褐色の指と、リトの薄黄色がかったクリーム色の指が絡まると、なんとなくマーブルクッキーを連想させた。
祈る時のように指を交差させて二人は手をつなぎ、今、城下町を歩いている。
そんな仲の良い二人を、時々、店頭で掃除をしている店員が目を向ける。
――うわぁあ~! 恥ずかしいよぉ!
リトは思わず視線を伏せた。
何と言ったって、初めてのデート、初めてのお手々つなぎ、しかも公衆の面前である。 先ほどアリドに手を繋ごうか、俺と腕を組むか、肩を抱くのがいいかと尋ねられたのだが、そりゃあ最初はお手々つなぎでしょう!
いや、それしか無理。
確かアリドが西地区の女の人達と一緒にいた時、彼女達はアリドの腕にべったりと絡みつき肩を抱かれて密着していたから、そこまで構えなくてもいいかと思わなくもないが。
アリドにはお姫様抱っこな感じで抱えられた事だってそりゃあ有りますが。
だからって腕くんだり肩を抱かれたりはハードルが……いやいやそうじゃなくて。
イヤじゃないけど自分からはしてとは言えませんって。
だからお手々つなぎしか選択肢は残っていなかったはずなのに!
これがね、いざ、やるぞと決めてやる時の恥ずかしさ。
――しかも私主導ですよっ?
いや、正確にはアリドが主導したのだが、選んだのはリトで。
しかも手を繋ぎたいとかそんな願望がずっとあったならともかく、いきなりですし。
初めてお互いの合意のもと繋がれた手は心なしかしっとりと汗ばんでいて。
指と指の間にかかるアリドの指の存在感が妙に気になって。
心臓のどきどきは止まらないわ、人様の視線に敏感になるわ。
ああ、これが初デートなのですねミチねえちゃん、と、妙な相手に心を飛ばしていまう有様だった。
「羽織達は平気そーにやってるけど……なんか、手を繋ぐってのは、こそばいな」
アリドまでそんな事を言う。
「ま、そのうち慣れるべ」
そう告げてキュッと軽く指に力を入れられた日には、目まい起こして卒倒しそうだ。
手をつないだまま、アリドはどこか行くアテがあるらしく、さっさと進んでいく。
「どこに行くの?」
何か話さなくては悪いと思い口を開く。
アリドはこちらを向かずに答える。
「金取り」
――金取り……って、ゆすり? たかり? もしかして強盗?
リトの心臓は真っ青になる。
やはりサボリという不良の一歩から、積み木崩し的に堕ちていくのだろうか?
――そ、そんなはず、無いよね
脳内で色んなシチュエーションを妄想しながら二人が行き着いた先は。
「ここって」
アリドがバイトしていたガーデンカフェ。 ジムと清流の3人でお茶したところである。
確かあの時、清流がボクは翼族だと公言し緑螺旋まで使ったものだからアリドが後始末をしたのだ。
――クビにならなかったんだ
リトはちょっと胸をなで下ろす。
「マスター」
アリドはリトと手を繋いだまま店内に入り、声をかけた。
「やあアリド。 きたか」
マスターと呼ばれた人物は頬から顎にかけて整った髭を生やしたダンディな紳士で、アリドを見るや胸元から白い封筒を取りだした。
「ホイ、給料」
「さんくすっ」
差しだしたそれを気持ちよく受け取り、軽く頭を下げる。
カップを拭くという作業に戻りながらマスターが話しかける。
「また頼むよ。 お前がいると女性客は増えるし用心棒にはなるし、一石三丁だ」
「マスターが人使い荒いから、無理無理」
「言うなぁ」
二人は楽しげに笑う。
リトが目を細めながらそんな二人のやりとりを見ていたら、マスターがこちらを向いた。
「で、このお嬢さんが本命って訳だな?」
「!!」
リトはとりあえず言葉が出てこない。
「そんなんじゃ……ねーって」
アリドが否定する。 が、マスターはニヤリと目尻を下げて、リトの目の前に顔を突き出した。
「お嬢さん、アリドの本命だから安心しなって。 今日の金は全部こいつが真面目に働いて稼いだ、ごく真っ当な金だから、安心してじゃんじゃん奢ってもらいなよ? 西地区にいるコイツだってその位の甲斐性はあるんだ。 使ってやらなきゃ金が泣くからね」
「ば、バッ……、マスター、も、もー、いいからっ」
アリドがとても慌ててマスターの側からリトを引きはがす。
「あ、ありがとうございます」
リトは反射的にマスターに向かって礼をした。
「いってらっしゃい」
マスターの声が優しく心に届いた。
「……つまりだ、アレだ、せっかくの、その……」
次の目的地にたどり着くまで、アリドはかなり狼狽えながら、先ほどのマスターの台詞にどう注釈をつけようか悩んでいた。
「つまりは遠慮しねーで、欲しいモンは言えってことで」
あえてリトの方を向かずに告げるところを見ると、相当恥ずかしいらしい。
「うん。 そうする」
リトは素直に返事をした。
アリドはリトの15の祝いをしてくれているのだ。 きっと色々考えたのだろう。 何を送るかを。
弓が話してくれた昔のアリドのことを思い出していた。
モノを送るのは簡単だったろうが、いざそれの資金を誰からも疑われたく無かったのだろう。
「ふふ♪」
そこまで考えてくれていたかと思うと、やはり嬉しい。
じゃあ今日は遠慮せずに御馳走になろう。
リトが喜んでますオーラを出しまくったせいだろうか、いつの間にかアリドの照れも収まり、普通に手を繋いだまま並んで歩く。
「おっと、ここ」
途中でアリドが手を引っ張って止まった店を見てみると、雑貨屋さんだ。
「何か買ってやる」
アリドがニコリと微笑んだ。
雑貨屋「モモ」は、文具からネックレスやバックまで、色んな可愛いものが沢山置いてあるお店である。 天井から下がるモールが風にひらひらと揺れて、足下には木彫りのウサギとかまである。
女官同士で来たら何時間でもキャアキャア言って見て回ることだろう。
――指輪、は流石に早いよね~
リトはガラスケースに並べられたシルバーリング達に一瞬だけ視線を向けた。 ここで自分の指のサイズをそれとなくアピールして後日、って手もあるが、そこまでの手腕は持っていない。
「うわ、かわいい~」
リトは思わずスプーンセットに見入った。 シルパーの杖の先にクマさんの浮き彫り付きである。
幼児サイズなので可愛さ倍増。
その声を聞いたアリドがちらっとリトに視線を向けるので。
「さすがに使えないけどねぇ」
と、予防線。
ダメ。 ヤバイ。
何か買って貰えることは確かだし、買って貰うつもりだけど、そんなにすぐ欲しい物なんて見つからない訳で。 女官達となら気軽に買いた~い!と叫ぶことも出来るが、ここで下手に欲しいと言っておねだりと思われても危険極まりない。
――男の人との買い物ってこんなに神経使うのか?
微妙に論点のずれた疑問の答えを探している時、それが目に入った。
シルバーチェーンのネックレス。 トップは十字架でその中心にブルーの石が埋め込まれていた。
「わ、これ……」
リトはアリドと繋いでいた手を離して思わずそれを手にする。
ちょっと大人っぽい感じに惹かれた。 だが……。
「それって、ルティに見せられねーんじゃね?」
アリドが突っ込んだ。
「……だねぇ」
そうなのだ。 ルティは言わずと知れたシスター見習いで、実は大のクロス信奉者だ。
ルティに言わせると十字架は神に対する真剣な宣誓を兼ねた信仰心のシンボルであって、クロスを胸から下げる者は、その精神に恥じぬ行いが求められているのであり、気軽にアクセサリー感覚でとっかえひっかえして良いものではない、と考えている。
もっとも彼女自身の考えであるから、友人達にそう考えろと強制することはまずない。 しかし、友人が心の底から大切にしているものを気軽に扱うことなど、ちょっと無理があった。
「ネックレス、か~」
惜しそうな顔をしているリトを苦笑しながら見て、アリドは壁の上の方にかかっている商品を眺める。
「……ふーん」
そう言いながら一つのネックレスを手に取った。
それはブラウンのスエード風ひものネックレス。 トップには五枚の花びらをモチーフにしたコスモスのような花がちょこんとついている。 オレンジっぽい小さな石が花の下に縦二列で並んでいた。
「これ、お前に似合う」
唐突にアリドが告げた。
「つか、お前みてー」
掌の上で転がしながら優しい眼差しでそれを見つめる。
何と返事をしてよいか迷っていると、アリドはさっさとそれを持ってお会計に行き、戻ってきた。
そしておっかなびっくり立ちすくんでいるリトに手を差し出すと、そのネックレスをリトの首にそっとかけた。
首から胸にかけて、その小さな重みが優しく存在を告げた。
「やる」
アリドが照れくさそうにそう微笑む。
リトは右手でそっとネックレスを掴んで頷いた。
――ああもぉ、ものすごく嬉しいです!!




