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2-15 15の祝い

 日も落ち、村長宅に明かりが灯る。 大広間にはひな壇が設けられ、そこはリトの席だ。 

 長机がひな壇と垂直に3列に並び、一番上座には当然、ラムールや佐太郎達の席。 窓から見える庭先には風流な松明の明かりと所狭しと並べられたバイキング式の御馳走。

 いったい何種類の料理が出されているのか。 おそらく思いつくまま全部だろう。


「うっわ~! おいしそ~!」


 オルガノ村名物料理をぐるっと見回し、デイ大興奮。

 つまみ食いをしないのは、先ほどの脅し?が効いているせいか。

 15の祝いを始めるのは日没後という話だったが、会場には既に沢山の人が入場している。 半分以上はラムールと会いたい出席者達だ。


「弓、どこに行ったんだろ?」


 会場内を見回しながら羽織が呟いた。


「リトと一緒にいるんだろーぜ」


 なぜか村の小さな子供達に懐かれて、6本の腕に何人もつかまらせて遊ばせているアリドが答えた。

 なんとなく物足りなさそうに頷いて、羽織は会場を歩いてまわる。 壁にかけられた絵画やパッチワークのタペストリーを眺めては、やはり物足りなさそうに周囲を見回し弓の姿を探す。

 会場の入り口ではリトの両親が訪問客からの祝いの品を受け取っている。 羽織達も会場入りするときにお渡し済だ。 


「それじゃあ皆様、お席にお着き下さい!」


 村長がよく響く声で伝えた。

 羽織は自分の席に座る。 どこにも弓の姿が見えないので挙動不審なまでにキョロキョロと辺りを見回したのでラムールから目で制された。

 会場の席はみな埋まり、庭先にも村民があふれかえっている。


「さあリト、おいで」


 村長が促すと、入り口の扉が開き、リトと弓が姿を現した。

 ほぅ、という感嘆の声と、おいおい、という戸惑いの声が同時に会場を満たした。

 会場に入ってきたリトと弓。 二人とも髪には白い花飾り、そして薄いに碧色と黄色に染め上げられた布と白い光沢のある布を何枚も重ねて巻き付けた長いドレスを身につけていた。 布の裾には色とりどりの刺繍が施され、帯紐をベルトのように腰に巻いてた。


「オルガノ村の村民衣装ですね。 いやこれは見事」


 ラムールが感心しながらゆっくり拍手をした。 拍手はざわついていた客達にもひろがり、会場は大きな拍手で二人を迎え入れた。

 弓がリトを先導してひな壇に上がり、リトのために椅子を引く。


「ゆみちゃん、きれーい」


 不意に義軍の声が会場に響き、弓は顔を真っ赤にする。 確かに弓は村民からの感嘆の声を独り占めできるほど綺麗であった。

 続いて、リトがゆっくりとひな壇に上がる。 その姿を見て、再度会場がざわめいた。


「あれ、ホントにリトか?」

「さ、さあ……」


 村民がそんな呟きを漏らしたのも仕方がなかった。

 弓は先導役だったせいもあり殆ど化粧は施されていなかったが、リトは違った。

 長いつけまつげと目元に引いたシャープな青色のアイライナー、気高い薔薇のように染まる頬、初々しい朱色の口紅。

 幼なじみのガイが、いや、リトを昔から知っている村民達が思わず息ををのむほどの艶やかな変貌ぶりを入り口の扉の側で村娘達が誇らしげに目を細めて見つめていた。

 リトはゆっくりと前に進み、弓が引いてくれた椅子へと手を伸ばす。

 そして――右足で、ドレスの服の裾をふみつける。

 体が、バランスを崩した。


「う、きっ、きゃぁあっ!」


 リトが見事につんのめり、大きな音をたてて転んだ。


「ヤダ、リト!」


 弓が慌てて駆け寄る。


「ん、もぉっ! 裾が長すぎたってばミチねえちゃんっ!!」


 リトが叫ぶと、会場のみんなが安心してドッと沸いた。


「いやあ、一瞬、ホントにリトかとびっくりしたのぉ~!」

「15になるとこんなに変わるもんかと思ったら、やっぱり、リトはリトだな!」

「ミチ~。 あんた、もっと丈を短くしないから~」

「私のせいにしないでよ~! 弓ちゃんは平気だったでしょ? リトよ。 リトだからよ」


 等。

 厳かで張りつめていた会場の雰囲気が一気に和やかになる。

 リトが真っ赤になって着席し、自分の席に戻ろうとした弓はリトに腕を掴まれ、なぜか隣に着席するハメに。

 笑いながら村長が司会を続けた。


「本日、リトゥア=アロワは15になる。 彼女の健やかな成長と輝かしい未来を皆で祝おう。 ――えー。 本日は錬金術師の佐太郎様と、王子付教育係であらせられるラムール様も、わざわざお越しいただいている。 光栄なこと、このうえありません。 この村を代表して心より御礼申し上げ奉ります」


 村長が深々と頭を下げ、佐太郎とラムールが軽く会釈した。


「佐太郎さんっ?!」


 リトが思わず素っ頓狂な声を上げ佐太郎が軽く笑って手を上げ応えた。


「いよー。 リト。 おめでとう」


 その隣でラムールも優しく微笑んでいるのでリトは胸をなで下ろした。

 二人が仲直りしたとなれば、これはホントに嬉しいことである。

――でもどうしてわざわざ、来てくれたんだろう?

 佐太郎の心が読めないリトは少し考える。

 なんといっても、二人が喧嘩別れした理由は陽炎の館にいた、新世と一夢の墓の場所や死亡原因をラムールが教えなかったからだ。

 だから佐太郎は翼族の名簿を見つけ出して、新世が死んだ理由を探り当てた。

 それはおそらくリトが見た名簿と同じものだろう。 ただ佐太郎は新世を殺した委員会メンバー名の通称しか知らないが、リトはそれが誰だか知っている。

 隣に座るラムールが殺したと知れば、佐太郎はどうするのだろう?

 いや、もしかして、それを確認するためにここへ来たとか?

 もしばれたら、この会場はどうなるのか。

 みんなラムールによって殺滅されるとか?


「リト、リト」


 ふと我に返ると弓がつついていた。


「え? 何? 弓」

「リトから一言、どうぞって」

「え?」


 いつのまにやら村長の前置きは終了し、リトが挨拶する番になっていたのだ。 皆の視線がリトに集中している。

――ひ、ひと、一言?

 リトは混乱しつつ立ち上がる。 そうと分かっていたならばあらかじめカンペでも用意していたのに、今のリトは丸腰である。

 

「え、えとー。 あのー。 今日は……」


 おろおろしていると、心配そうに眼差しを向けているアリドの顔が目に入った。 視線が合うと、アリドが励ますように小さく頷いた。

 嬉しくて勇気百倍にはなったが、だからといって、気の利いた台詞が出てくるほどリトは器用ではない。


「がっ、頑張りますっ!」


 思わず大声で言ってしまった。

 会場は一瞬、ポカンと時間がとまり、次の瞬間、皆が笑って大きな拍手でリトの15を祝った。

 






 それから約2時間後。

 15の祝いは無事に終わり、招待客はお土産を持って各自帰宅した。

 リト達は祝いの最中はひな壇にいたために殆ど御馳走を食べることが出来なかったので、今頃食べている訳で。


「リト、いきなりで大変だったわね」


 クスクス笑いながら、弓が料理を取り分けてリトの前に差し出した。


「んも、ホント。 いきなり一言って振られてもさぁ、出来るわけないって」

「そうかしら?」

「そーう! 絶対、そう! はい、弓、一言どうぞっ!」

「え? あ、えーと、……頑張ります?」

「違ぁうっ!」


 リトが吠え、そして二人は仲良く笑いあった。


「お疲れ様。 リト」


 そこにミチねえちゃんやお母さんがやってくる。 その両手には抱えきれないほどのお祝い品が。


「御礼返しが大変だわー」


 お母さんが苦笑する。 御礼返し、と言っても金品を返すのが習わしではない。 健やかに、正しく生きていくように、という願いがつまったプレゼント。 その御礼は祝いをしてくれた人達の気持ちに恥じないよう後ろ指さされることなく真っ直ぐに生きていくことである。

 ミチねえちゃんがプレゼントをより分けながらしみじみと呟く。


「でも、いい15の祝いだったわよねー。 オルガノ村名物も沢山食べられたし、余興だって歌あり、舞あり。 ……私、今まで行ったどの村祭りよりも楽しかったわ。 リトのおかげね。 ありがとう」

「ふふふ。 15の祝いレベルを超えてたもんねぇ」


 リトも苦笑する。 みんなに祝福されて、本当に自分は幸せ者だと感じながら。

 選別中の山積みになったプレゼントが、バランスを崩して雪崩を起こした。


「にしても、沢山貰ったわねぇ。 プレゼント。 リト、あんた、持って行けるものだけ持って行きなさいね?」

「そうする」

「あら、これ、ラムールさまからだわ。 ねぇリト、開けて良い?」


 ミチねえちゃんの顔がぱっと晴れ、言うが早いか、開けている。


「まあ! 永久万年筆よ! インクが決して切れないの! メッセージつきだわ。 なになに、勉学に励んで下さいね、ですって!」


――ラムール様らしい!


「おやおやこっちは佐太郎様からだよ! 開けるね、リト!」


 母親まで遠慮無しである。

 母親は佐太郎から送られた赤ん坊くらいの大きさの箱を開けて、「まぁー!」と裏返った声を出した。

 間違いない。 母親がそんな声を出すのであれば、かなりいいものだったのだろう。


「魔法の杖8点セットだよぉ! リト。 これはお母さんが預かっておくね!」


 その喜びの言葉通り、中には百科事典2冊分くらいの大きさの桐箱の中にずらりと魔法の杖が並べられている。 これさえあれば魔法が使えない者でも気軽に科学魔法で火をおこしたりできるのである。


「こーんな高級品をねぇ。 さすが佐太郎様」


 母親とミチねえちゃんは杖を一本一本手に取りしげしげと眺める。 説明書までついていた。


「火、水、風、光、闇、温、冷、音消し。 うわぁ~! 使い勝手あるわぁ!」

「ちょっとした嫁入り道具レベルよね。 リト、あんたスゴイわね」


――スゴイと言われても返答のしようがないのだが。


「あら? 記憶の鏡まであるわよ」


 ミチねえちゃんが箱の奥から、大きな紫水晶の中身をくりぬいて楕円形の鏡がはめ込まれた、少し大きめの手鏡を取りだした。


「リトにこれは必需品だわ」


 そう良いながら母親とミチねえちゃんは笑う。


「それ何?」


 記憶の鏡という位だから何かを覚えてくれるのだろうが。


「これはね、右の手で縁をぐるりと一週なでれば3時間の間、この鏡は鏡に映っていたものを記憶するのよ。 見たい時は左の手で縁をぐるりと一週なでるの。 この鏡に映っていた時間が戻るわ。 早送りや停止もできるみたいだから、よく取扱説明書を読んでいなさいね」

「……これって、何になるの?」

「使い方は自由よ。 再生は誰でもできるけど、記憶させるのと記憶を削除するのは持ち主しかムリだからね。 気をつけて使いなさい」

「いや、だから、これが何に」

「寝ている時に一番よく使われるわよ。 泥棒避けでもあるし、また、自分の寝姿がどんなものか確認するためにね。 寝ている時は自分がどんな状態か分からないでしょ? これで例えばいびきとかしているって分かったら、先に治療できるじゃない。 ……ああ、寝相の治療って……あったかしら?」


 母親が真面目な顔で首を傾げるのでミチねえちゃんがクスクスと笑った。


「リトは一度、自分の寝相を見て自覚したがいいよ」


 しかしそこで、弓が入り込んできた。


「リトってそんなに寝相悪かったかしら? このまえお邪魔したときも気付かなかったけど……」

「そ、そーよねっ!? 弓!」


 リトは胸を張るが母親達は”なんて心優しい娘なのだろう”って視線で弓を見ていた。


「そ、それにしても佐太郎さんって意外と有名なのね、びっくりした!」


 仕方が無いのでリトはさっさと話題を変えた。

 

「リト、あんた、何言ってるの?」


 すると母親が呆れて眉を八の字に寄せた。


「佐太郎様はこの国に何代も前から仕えていらっしゃる錬金術師様なのよ? 佐太郎というお名前を代々襲名されているの。 魔法の杖を発明されたのも佐太郎様だし、あんたが小さい頃に国で奇病が流行った時も治療薬を作って無償で提供してくださったのよ? ――ラムール様よりもある意味すごい御方なのよ?」

『ええっ?』


 リトと弓は同時に声を上げた。

 まさかあの山男さながらの佐太郎さんがそんなに崇め奉られている人間だったとは。


「だから15の祝いを行う時はね、佐太郎様のところに必ず招待状は送るのよ。 昔から。 そしたらまさか、リトの祝いに来るってお返事が来て! もうびっくりだよ!」


――びっくりはこっちだ。


「もしこれでデイ皇太子まで、ラムール様つながりでいらしたら、天地がひっくりかえるわねって村では大騒ぎだったんだから」


――ゴメン。 来てる。

 リトは複雑な笑顔で誤魔化した。

 しかしそれで納得した、村長の挨拶や席順。


「さ、ほ、他は何があるかなぁ?」


 リトは話題変更とばかりにプレゼントを漁った。


 弓からは手編みのカーディガン

 羽織、世尊、来意の三人からはリト好みの肩掛けバッグ(おそらく来意が勘で選んだと見える)

 清流とデイから、アロマソープとハーブのセット

 巳白から、コーヒーカップ

 義軍から、リトの似顔絵つきのメッセージカード

 そして。

 アリドからは、何も無かった。



 期待していた訳ではないが、やはり目茶苦茶ガッカリだった。 






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