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2-9  金髪の店員さん

 城下町もかなり端の方まで来た時だった。


「リ、リトっ! ここにいたのか、お前!」


 急に背後から聞き覚えのある男の声がした。

 リトと清流が一緒に振り向くと、そこにはリトの幼なじみ、ジムがいた。


「ジム? どうしてここに?」


 リトが目を丸くすると、ジムはしっかりと手紙を握りしめて駆け寄ってきた。


「リトに会いに来たに決まってるだろ? 白の館に行ってもいないから探し回ったんだよ」


 早口で告げるジムに清流が呟く。


「リトちゃんなら館で待っていれば、そのうち帰ってきたのに」


 ジムはそこでやっと隣にいる清流に気付く。


「……あ、……ども」


 ジムは警戒しつつ、軽く頭を下げる。


「どうも」


 無表情に清流も返す。 ジムはリトの手を引いた。


「ち、ちょ、リト、何してんだよ? デートか?」

「バカ。 違うって」

「そっか。 あのさ、実は聞きたいことがあって。 ちょっと時間いいか?」


 ジムはホッとしつつ、チラチラと清流を見ながら小声でささやく。


「時間、って。 私は今から清流くんにケアしてもらわなきゃいけないから、あんまり時間取れないよ」

「あ、俺もお前から話を聞いたらすぐ村に帰らなきゃいけないから、そんなに時間はかからないって」

「じゃ、お茶でもしながら話す?」


 リトはここから少し先の、先日オープンしたばかりのガーデンカフェに視線を向けた。 まだ行ったことは無かったので一石二鳥だ。

 ジムはもう一度、確かめるように清流に視線を向けた。


「いいよ。 行こう」

「清流くん。 ジムがちょっと話があるっていうから、そこのカフェに入ろう?」

「え? ぼくも行かなきゃいけないの? そこの――あれ?」


 清流は一瞬、とても嫌そうな顔をしたがカフェに何かを見つけたらしく顔色を明るく変えた。



 ガーデンカフェはその名の通り、お洒落な庭風の敷地に白いテーブルとチェアが置かれ、城下町を行き交う人々を眺めながら優雅に?お茶ができる店である。 季節の花が植えられて、なかなか良い雰囲気だとリトは思った。

 3人で空いている席に座り、小さなメニューを広げる。 3名ともアイスティーで決まりだ。


「じゃ、店員さん呼ぼうか。 えーっと……」


 リトが辺りを見回すと、清流が妙にニヤニヤしながら「ぼくが呼ぶよ」と告げた。


「すみません、注文、お願いできますか?」


 清流はまるでアテをつけていたように、身を逸らしてその店員を呼んだ。 茂みの向こうにちらりと見えた金色の髪が、ぴくりと動く。


「て・ん・い・ん、さーん」


 清流が再度、からかうかのように明るく呼ぶ。

 訳が分からず見ていると、その店員は渋々ながらこちらにやってきた。

 きちんと襟付きシャツの制服に身を包んだ、その男の店員は、腕が6本あり――


「……お客様、ご注文は?」


 微かに頬を染めながら悔しそうに注文をきく。


「アリドっ?!」


 リトは思わず大声で叫んだ。

 腕が6本あるためシャツの脇には切り込みが入り、一番上の腕しか袖は通していないが、その店員は間違いなくアリドだった。

 清流が軽く声を上げて笑う。


「やっぱりアリドだ。 隠れてもぼくには分かるって」

「ご・注・文・はっ?」


 アリドはおきまりの台詞をくり返す。

 だがリトも注文どころではない。


「な、なんで? アリド、バイト? ここで? いつから?」

「ご、ちゅー、もん、はっ!」


 アリドはくり返す。


「あ、アイスティー、3つ」

「かしこまりました」


 勢いに負けたジムが注文するとアリドは恭しく頭を下げてその場を後にする。


「すごい。 清流くん、よく気付いたね」

「ぼくたちの気配に気付いた途端、動きがぎこちなくなった店員だなぁって思ったんだよね。 アリドが真面目に働いている姿なんて初めて見た。 帰ったら兄さんや羽織達に教えてあげようっと」


 清流はクックッと声を殺して笑う。


「お前、羽織達にばらしたらタダじゃおかねーからな」


 その時、いつのまにやら清流の背後に、注文の品を持ってきたアリドが立っていた。


「うわ、早」

「俺様をなめんなよ」


 そう言いながらグラスを一つずつテーブルに置いていく。

 無駄がない流れるようなその動きはどこか色気があった。

 リトの目の前にもグラスがそっと置かれ、ストローとガムシロップが添えられる。

――うわわわわっ!

 リトは大興奮である。



  一人チェアに座るリトと、そのすぐ脇に立つ、アリド。

 「お嬢様。 お望みでしたら俺がガムシロップをお入れ致しますが」

 「いえ、自分でできます」

 「かしこまりました」

  アリドに見守られながら、ガムシロップを注ぐリト。 しかし、見られている緊張からか手が震え、

  シロップがほんの少し指に垂れる。

  するとすかさずアリドの手がリトの手を掴む。

 「ただ今、お拭きいたします」

  アリドはそう言ってそっとリトの指を唇で拭く。

 「――甘い。 まるであなたみたいだ」



――なあんてっ!

 リトは思わず足をバタバタと激しく動かし、両手で顔を覆って恥ずかしがった。


「ど、どーしたんだ? リト?」


 ジムが怪訝そうな声で尋ね、清流が苦笑いした。


「予想はつくけど、心は読めなくてホントに良かった」  

「で、ガイ。 話ってなによ?」


 リトは気を取り直してアイスティーを飲みながら尋ねた。


「あ、そうそう。 お前のくれた手紙なんだけどさ」

「手紙?」


 ガイに手紙なんて一度も送ったことはない。 しかし彼が差し出したそれを見ると、それは確かにリトが書いた――


「あ、15の祝いのやつで出した返事。 というか、どーしてガイが持ってるの? ウチあての手紙」

「この手紙で村が大騒ぎだからに決まってるだろ?」

「大騒ぎ?」


 リトはちょっと首をかしげるが、ふと、巳白のことが原因ではないかと考えた。 翼族の血が入っている奴を連れてくるのは正気かとか何とか……

 しかし自分からそれを言い出す訳にもいかない。


「人数、多かった?」


 リトはあえてそう言ってみた。 もしそうだと言われれば、減らさないと。 減らす、となるとやはり真っ先に辞退するであろうは巳白であって。

――でもこれって、角のたたない良い口実じゃない?

 なぜかナイスアイディアだと思いながら、ガイの返事を待つ。


「いや。 人数は15人までは平気って村長さん言ってた」


 じゃあ、やはり巳白ではないかと。

 しかし今更「巳白は翼族のハーフだから辞退してくれ」なんて言いにくいではないか。 しかも清流の前で。 ……いや、そうなればきっと清流も憤慨して行かないと言い出すだろう。 それは逆に、もうけものではないのか? 普通の人間だけで15の祝いをしてもらえるんだから。

 

「えー……? じゃあ、何?」


 リトは聞きにくそうに尋ねた。

 ガイは手紙を広げ、指さした。


「ラムール様が来るって書いてある」

「は?」

「ほら、女の子は1人、男の子が9人って。 巳白さんも来るけど、保護責任者のラムール様も来るから平気だよ、って」


 確かにそう書いたが。 来る「から」平気、って語句をここで見せなくても。

 ちょっと青くなりながら横目で清流を見るが、清流は別段気にしたようには見えなかった。

 ガイはリトの目を見てゆっくりと、確認するように尋ねた。


「で、本当にラムール様に間違いないのか?」

「え? そうだよ?」

「王子付教育係のラムール様で間違いないんだな?」

「そうだよ?」

「ラムールサマーとかいう、全くの別人じゃ、ないんだな?」


 なんじゃその名は。

 リトは少し機嫌悪そうにガイを睨んだ。


「ラムール様って他にいないでしょ」

「へー。 間違いないのか」


 ガイは感心しながら腕組みをして息を吐いた。

 それを見ていた清流が面白く無さそうに口を開いた。


「どうせラムール様が来るので盛大におもてなしをしないとって、張り切ってるって事じゃないの?」


 リトもそれには同意だった。 しかしガイは首を横に振った。


「普通そうだよな? でも村じゃ、爺ちゃん婆ちゃん達が怯えてるって感じ」

「怯えてる?」


 リトと清流は思わず声を合わせてしまった。


「どうしてかは分からないんだけど、みんな真っ青。 それと逆に父さん母さん達は異常に興奮して喜びまくってる。 リトの15の祝いなんかほとんどそっちのけで、もてなすつもりでいるぞ。 おまえんとこの親戚陣」


 釈然としないが、まぁ、ラムールは有名だし簡単には会えないので仕方が無い。

 というか、それよりもっと貴重な皇太子も来るのだが。


「で、もしかしてその確認するためだけに、ガイって来たの?」


 その問いにガイは頷いた。


「村長さんも爺ちゃん達が怯えてる訳が分からなくてさ。 とりあえず本当にラムール様が来るのかリトにきちんと聞いてこいって言われてきた」

「そう手紙に書いてるのに?」

「お前の事だから、すっごい勘違いとか書き間違いもあり得るって」


 それを聞いてリトはふくれるが、清流はクスクス笑った。


「……で、ガイ。 とりあえずそれだけ? 聞きたいことってのは」


 リトはアイスティーを飲みきって尋ねた。


「あ、いやいや。 まだある」


 ガイはそう言うと胸元から紙とペンを取り出してテーブルに置いた。


「巳白さん、だっけ? 翼族は」


 あまりに気軽にガイが言うのでリトは青くなる。


「翼族と、人 間 の、ハーフの人だって」


 人間の、に力を込めてリトは訂正する。

 清流は顔色を変えずただアイスティーを飲む。 ガイは頷き、ペンを握りしめて尋ねた。


「そのハーフに出す食事は何がいいわけ? 何を出せばいいのか分からないから、こっそりリサーチしてこいって言われた」


 ”こっそり”って、この時点でそれはない。 しかもさすがリトの幼なじみというべきかオルガノ村の村民性というべきか、ガイはさらっと続ける。


「で、清流さん。 家で巳白さんは何食べてるの?」


――ガ、ガイ、待って!

 リトに悪い予感が走る。

 

「何って普通に何でも食べるよ。 肉でも魚でも」


 清流の答えにガイが目を丸くして驚いた。


「えっ! 肉も魚も食べるの? 翼族が? それって超危なくない!?」

「危ないって、危なくなんかないよ」


 清流はガイをバカにするように浅く笑って返事をした。

 ただ、慌てたのはリトである。

 翼族が「人喰」の【狂った翼族】に変化する直前にはある傾向が見られる。

 それは「穀物を異常なまでに摂取できない」ということである。 つまり、ご飯やパン等を食べなくなるのである。 実際のところ巳白は翼族と人間のハーフであるから【狂った翼族】に覚醒することはないのだが、純潔とハーフの違いは見た目さほど変わらないので殆どの人間は翼が生えていれば翼族だと思う。 よって安全な翼族であることを証明するため、昔から何か合った時は翼族の血を引く者はみんなの前で穀物、いわゆるおにぎり等を食べるのが常識だった。

 しかもその踏み絵に似た行為は翼族の血を引く者のみならず、その周囲にいる人間にも及んでおり、実際、巳白が一度捕まった時、弓達はラムールの作ってきたおにぎりを食べたのだ。 

 ただ常識とはいってもリトがその現実を知ったのはその時の後の話で、弓から聞いたところ、清流は翼族の血を引く者が食事によって検査されていることは知らないとのことだった。

 結論的には肉や魚を食べていたとしても穀物も平気で食べきれるようなら全く心配はないのだが、ガイの驚き具合から察するに、彼は翼族の血を引く者が肉や魚を好むとそれは【狂った翼族】になる危険性があると思っているようだった。

 案の定、ガイは目を大きく見開きながら信じられないとばかりに首を横に振った。


「だって、危ないさ! 肉とか食べさせて【狂った翼族】になったらどうすんのさ?」


 その言葉を聞いた清流の片目にひんやりと冷たい色が浮かぶ。


「ふーん、肉を食べると危ないんだ」


 ゆっくりと確認するようにそう言いながら、清流は背もたれに寄りかかるように体を反らして足を組み、片手を上げて近くの店員を呼んだ。


「お客様、ご注文ですか?」


 店員が恭しく頭を下げる。 

 清流はにっこりと笑って続けた。


「ガイくんだっけ。 お腹、空かない? これから村に帰るの大変だよね。 ぼくがおごるから、ミニステーキでも食べていかない?」


 ガイの顔がパッと晴れる。


「マジ? 食べてく食べてく!」

「じゃあ、店員さん。 この、ミニステーキセット、2つ。 焼き方は――」

「俺、ミディアムで」

「じゃあ、彼にはミディアム。 僕にはブルーで」


――ブルー?

 聞き慣れない言葉にリトとガイが眉を寄せる。 店員が去っていくと清流は嬉しそうに椅子に座り直して少し前屈みになった。


「えっとね、ガイくん。 兄さんが何を食べるか、なんだけど。 えーとね、生春巻きとか大好きだよ。 あとは大豆系。 冷や奴にはショウガと白髪ネギのっけて醤油派。 湯葉の刺身とかも好きだね」


――それはそれで美味しそうだ。


「フルーツグラタンとか、甘い物はそこまで好んで食べないかな。 ソフトクリームよりシャーベット派、スープは根菜スープ……」

「あ、ち、ちょっと待って」


 ガイは慌ててメモを走らせる。 リトが横からちらりとメモを見ると、生春、とうふ、ソフだめ、しゃーベト……と、とりあえず走り書き。 正しく伝わっているのか少々、心配だ。

 清流の言葉をききながら、リトはふと気付く。

 見事なまでに肉や魚が除外されたメニューばかりだ。 これは――わざとなのか? わざとなら、何を考えて――


「ご注文の品でございます」


 その時、先ほどの店員がステーキを二つ、持ってきた。 先にガイの席の前に、ほどよく焼け目のついた、ジュウジュウと香ばしい音を立てている美味しそうなステーキが置かれる。


「うわっ、うまそ!」

「あっ、いいなぁ!」


 リトは思わずガイの皿の方に身を乗り出す。 そういえば清流はリトの分は頼まなかったではないか。 これは自分で頼んで自分で金を払えということなのかそれとも――


「?」


 その時、テーブルから少し離れたカウンターの脇に立っているアリドが険しい顔で清流の背中を見つめているのが目に入る。

――夕食前に勝手にステーキなんて頼むなってことなのかしら?

 リトがそんな事を考えていると、


「お客様のご注文の品でございます」


 店員が清流の前にもう一つのステーキを置いた。 それは確かにステーキの表面が焼けてはいたが――


「ありがとう」


 そう言って清流はナイフとフォークを使い、ステーキを切る。 しっとりと柔らかい赤身が彼の口の中へと入る。


「うん、美味しい」


 清流は満足そうに口を動かした。 それを見てリトとガイが目を丸くする。 清流の食べているそれは、ミディアムレアとか、レアとか、そんなレベルよりもっと生肉に近い状態、それが――


「ブルーって焼き方なんだ!?」


 ガイが感心したかのように声を上げる。


「うわーっ、すっげー。 ほとんど生だし? かっこいー! 俺なんかきちんと焼かなきゃ無理無理」


 そう言いながらガイは自分のステーキを口に運ぶ。


「うわ、このステーキ、めっちゃうま!」


 育ち盛りに肉はご馳走である。 ガイは嬉しそうに食べる。

 そんなガイを見て、清流が冷めた目で微笑む。


「ぼくはこっちの方が好きだな。 肉本来の味がよくわかる」


 リトはそれを聞いて青くなる。 

 しばしの間、ナイフとフォークの音が響く。


「――ところでさ」


 清流が食べながら口を開いた。


「翼族が肉を食べると、危険なんだって?」


 その質問に、ガイが気軽に答える。


「ああ。 常識」


――こ、この、バカガイ!

 リトの手が震える。 清流はといえば、さっさとステーキを食べきってしまう。


「ああ、美味しかった」


 清流の皿にある付け合わせは全く口をつけずに。

 食べ終わった清流がテーブルに肘をついてガイを見る。

 ガイも負けじとペロリとたいらげた。 こちらはつけあわせも。


「うまかった! ありがとな! 清流さん!」


 お腹をポンと叩いて嬉しそうにガイは微笑んだ。


「どういたしまして。 ――リョクラセン」


 清流がそう言うと、足下の草が一本するすると伸びて、食べ終わった清流とガイの皿を重ねる。


「うわ、魔法!? すっごい便利だね!」


 ガイが褒める。 清流は穏やかに、「僕は魔法が得意だから」と答える。

 そしてふと、わざと思いついたかのように、ガイに尋ねる。


「ねぇ、どうして僕は魔法が得意だと思う?」


 ガイは首をひねる。 清流は続けた。


「じゃあ、別の質問。 翼族だって、どうやって見分けるの?」

「どうやって、って、翼があるかどうかだろ?」


 当たり前のことをと呆れた口調でガイが返事をする。

 予想していたとばかりに清流が頷く。


「じゃあさ、翼族が翼を切り落として失ってたら、どうやって見分けるの?」


 その質問はガイだけではなく、他の客の耳にまでよく届いた。 リトは周囲の客がざわめき出すのに気付く。 清流はよく通る声で更に続ける。


「翼なんかで見極めようなんて、考えがあまりにも浅すぎないかな?」

「いや、だって、でもさ」


 反論する言葉が見つからずガイが呟くと、清流は再度、挑発的に椅子によりかかって足を組み、ゆっくりと口に出す。


「翼は無いけれど――」


 その言葉はガイを心底驚かせるには十分な一言だった。


「ぼくは翼族だ」

 清流の言葉に反応するように、彼を守るように伸びた一本の草がしゅるりと揺れた。



++



 清流の言葉に反応したのはガイだけではない、店内の客、そして通行人がざわめきだした。


「翼族……?」


 ガイはようやく、やっと口を開いた。


「で、でも、今、肉を――食べて――」


 その質問に、清流はわざと周囲に聞こえるようにはっきりと答える。


「ぼくは生肉が好きだけど、それが何か?」


 そして威嚇するかのように、ゆっくりと立ち上がる。


「もう一度、言おうか? 翼はなくとも、ぼくは――」


 その清流の言葉は最後まで発せられることは無かった。


「清流!」


 とても厳しいアリドの声が飛んだかとおもうと、アリドが素早く駆け寄り清流のみぞおちに当て身をくらわせる。 一瞬のうちに清流は気を失って、アリドの腕の中に倒れ込んだ。

 アリドはヒョイと清流を抱えてリトを見る。


「スマネ。 清流のこと、後は俺にまかせろ」


 その言葉にただリトは頷く。


「ガイ、だっけ?」


 アリドがガイを向くと、ガイは慌てて首を縦に何度も振った。

 アリドはちらりと清流に目を向けてから、良く通る声で告げた。


「清流は――人間だ」


 それだけ言って、アリドは清流を抱えたまま店の外へと歩き出した。

 その姿が見えなくなってから、ガイがやっとリトを見る。

 リトはパコンと拳骨でガイの頭を叩いた。


「ガイが悪いんだからね! 同じ家に住んでる人を翼族だの危険だの言われて清流くんは怒ってあんな嘘ついたんだよ!」

「あ、あ――。 あ、そうか。 そうだよな。 言われたら確かに……」


 ガイが少し納得する。


「じゃあ結局のところ、清流さんって――」

「人間!」


 リトは限りなく大きな声で叫んだ。 

 ハーフではなく、人間だと。

 それを聞いたガイは頷き、のそのそと立ち上がる。


「じゃあまあ、とりあえず帰ろうかな」


 なんとなく自分の質問の仕方にも悪いところがあったと自覚しているのだろう。 少し元気が無かった。

 二人は会計をしようとしたが、店主は「金はいらないからもう来ないで欲しい」と言ってさっさとリト達を追い出した。

 ガイの隣を歩きながら、リトは呟く。


「もう来るな、って……。 アリドも、バイトを首にならなきゃいいなぁ」


 その言葉を聞いたガイが、ちょっとつまらなさそうに口を尖らせてリトを見た。


「なぁリト、おまえ、あのアリドって男のこと、好きなのか?」


 リトは少しの間黙って、前を見たまま「うん」と返事をした。

 ガイは一瞬立ち止まりそうになったが、すぐさま同じ速度で歩き出した。


「あんな、腕が6本あるような奴のどこがいいのかね。 蜘蛛みたいで気持ち悪いとは思わ……」


 次の瞬間、ガイの顔面にはリトの見事な裏拳が入っていた。

 いてて、と鼻を押さえるガイをにらみつけてリトがしっかりとした口調で言った。


「腕が何本でも構わない。 アリドはアリドだもん」


 そんなリトを見て、ガイが小さく笑った。


「お前ってそういう奴だよな」


 そして再び二人は歩き出す。 城下町の終わりまで来てやっと二人は立ち止まり向き合った。


「んじゃ、帰るな」

「うん。 気をつけて。 みんなによろしく」


 リトが軽く手を上げると、ガイはそこに軽く握った拳を当てた。 幼い頃からの、サヨナラの合図である。 ガイはゆっくりと拳を下ろしながらリトを安心させるかのように微笑む。


「巳白さんの食事の事は、きちんとうまく説明しておくから。 安心して15の祝いをしに帰って来いよな」


 リトは頷いて、少しうつむいた。


「あのね、ガイ。 ……正直いってね、今日、来てくれて助かった。 そこまで深く考えなかったけど、巳白さんが来るって決まってから、必ず何か問題は発生するだろうなぁって思ってたし。 今日、清流くんが切れたけど、……これが、15の祝いの日じゃなくて良かったって、ほんのちょっと思ってる」


 それを聞いたガイが励ますようにリトの頭を軽く撫でた。


「翼族の血が混ざってる奴と友達でいるのも楽じゃないな」

「……うん」


 リトはそう返事をした。 

 一生に一度の15の祝い、できることなら楽しく思い出にしたい。

 巳白と清流が来なければ余計な心配はしなくていいのにと、その時リトは確かに思っていた。 

   


 

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