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旅の終わり 5

 

「!」


 大和は目を見開いた。


「お前が鬼の血を引いてるとか……そんなモンは関係ねぇ。俺が護ってやらなきゃいけなかったんだよ。血の繋がりは無くても……お前は俺の息子なんだ」


 その瞬間――


「……お?」


「……あ……」


 すぅ……と、大和の瞳から一筋の涙が零れた。

 大和は斬影の手を払うと、慌てて手の甲で涙を拭う。


「……そんな事は……もう……いい……」


 手で顔を隠したまま、


「……斬影が……生きてたなら……もう……それでいい」


 それを聞いて、斬影は笑った。

 杯を口元に宛がい、


「お前が元気そうだって分かってホッとしたが……そうやって嬉しい悲しいってのが面に出せるようになってる事が分かって一番安心した」


「…………」


 大和は僅かに顔を上げる。


「お前はそんな簡単な事が出来なかったからな。他は何やらせても上手くやるのによ」


 斬影はぐっと酒を飲み干した。


「仏頂面で生きてても何も面白くねぇだろ。泣いたり笑ったり出来るから人生面白いんだよ」


「…………」


 斬影は大和の方へ向き直り、


「……で。大和。お前これからどうするつもりだ?」


「……これから?」


 大和が小首を傾げる。

 それを見て、斬影は嘆息した。


「だから……まだ旅続けんのかって訊いてんだよ。お前が旅に出なきゃならなかった理由は……アレだろ? ほれ……俺が行方不明になっちゃったからだろ?」


「……ああ。そうだな」


「まっ……その……何だ。色々遠回りしたけど、こうして再会出来た訳だ。その後の事……何か考えてんのか?」


「…………」


 言われて、大和は考え込んだ。

 はっきりいって――考えていない。ただ斬影に会うんだと、そればかり考えていた。

 その為に今まで刀を振るって来た。


「……何だ。考えてねぇのか」


 黙り込む大和を見て、斬影は呆れたようにぼやく。


「お前がこれからも旅を続ける。剣の道を進むってんなら、俺は止めねぇよ。お前が決めた事だ。俺に教えてやれる事もねぇしな」


「…………」


「けど、お前はそれで良いかも知れねぇが……あの娘の事があるだろ?」


「……あの娘?」


 斬影は額に手を当てる。

 盛大にため息をついて、


「小夜ちゃん!」


「……ああ……」


 大和が呟くのを聞いて、斬影は軽く眩暈を覚えた。


「……ったく。お前は昔から……何でそっち方面はこう……」


 言葉を途中で切って、斬影はかぶりを振る。


「まぁ……とにかく。お前一人ならともかく……若い娘が根無し草って訳にゃいかんだろ」


「……そんな事言ったって……どうすれば良いか……」


 大和は困ったように眉根を寄せた。

 斬影は人差し指をこめかみに当てて、低く呻く。


「大和……」


「うん?」


「お前……馬鹿だろ」


「なっ……!?」


 斬影の一言に、大和は思わず声をあげる。


「何だっ!? いきなり!」


 いきり立つ大和を斬影は両手で制しながら、


「あのなぁ。大和。よっ……く考えろよ。いいか? いくら命を助けて貰ったからって、年頃の娘が見ず知らずの男の旅に付いてくるなんて……普通はあり得ねぇぞ」


「…………」


 言われて、大和は言葉を呑み込む。


「村だってお前が妖魔を退治して……これからカツカツでもやり直せた……それでもお前に付いて行く事を選んだ。その意味が分からねぇか?」


「…………」


 一拍置いて、斬影は続けた。


「お前と一生添い遂げたいと思ってるに決まってるだろ? 全く。そんな事俺に言わせるなよ」


「はぁっ!?」


 一瞬、言葉を詰まらせ――大和はかぶりを振ると、声を荒らげた。


「勝手に言ったんだろっ!? 小夜はそんな事言ってない!」


「……言わなくても察してやれよ」


 斬影は半眼になって呻く。


「……けど……俺は……」


 大和は困惑して、口を閉ざす。

 その様子を見て、斬影は、やれやれ……と軽く息を吐いた。


「……昼間お前に打ち込んだ時な。お前の刀には昔感じた、冷たく凍り付くような殺気は無かった」


「……えっ?」


 突然、斬影が話題の方向を変えた。

 斬影が何を言いたいのか分からないので、大和はただ沈黙する。


「あの頃のお前は、ただ自分が生きる為に刀を振るってた。それこそ自分以外は全部敵だってくらいの勢いでな。けど今のお前にはそれがない」


「…………」


 斬影の脳裏に幼い日の大和の姿が浮かぶ。目の前の青年と変わったような、変わらないような……

 斬影は微笑み、


「お前の中で、刀を握る理由が変わってきてるんじゃねぇのか? 自分が生きる為……自分の為だけに振るってきたお前の剣が……何かを護る為の剣に」


「……護る剣……」


 大和は無言で刀に触れる。

 そこで、斬影は大和の背中を叩いた。


「……護ってやれよ。男だろ?」


「…………」


 大和は無言でため息をついた。


(……それが言いたかったのか……)


 斬影に渡された杯を眺める。

 暫し杯の中で揺らめく月を見詰めて――大和は杯を口元に持っていくと、一気に呷った。



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