邂逅 4
大和は村を一巡りしてみる。
どの家も人が出てくる気配はない。宿もあるようだが、戸を叩いても返事が無かった。
妖魔に怯える村で、しかもこの頭では尚更かもしれない。
――あの老婆は別にして。
村に辿り着いてまで、外で寝る羽目になるとは思わなかった。
陰鬱な気分で、大和はため息をつく。
と――
「……ん?」
ふと視線を向けた先に、人影が見えた。
先程の老婆ではない。
民家の影から姿を見せたのは、若い娘。この村の住人だろうか。
娘は民家を一軒一軒回り、何かを手渡している。
暫く眺めていると、娘がこちらに向かって来た。
「…………」
娘は大和の横を通り過ぎ――やがて、時間を巻き戻したように戻ってくる。
こちらの顔を覗き込むようにして、
「こんにちは♪」
目映い笑顔で、挨拶してきた。
「あ……ああ」
大和が小さく応えると、娘はこちらに向き直る。
「村では見掛けない方ですね。旅の方ですか?」
娘の問いに、大和は頷く。
「そうですか。何も無い所ですが、ゆっくりしていって下さいね」
にこにこと笑顔でそう言う娘に、大和はため息をついた。
娘から視線を逸らし、
「……聞いた話じゃ……あまりゆっくり出来そうにないんだが……」
「えっ?」
娘はきょとんと目を丸くする。
だがすぐ微笑み、
「ああ。それはここ二、三日の話です。それを過ぎれば、村も普段の生活に戻りますから」
「…………」
「ところで……」
そう言うと娘は辺りを見回し、
「貴方はこんなところで何をしてるんです? お天気も悪くなってきてますし、早くどこかに――……あっ!」
そこまで言って――娘は、ぽんと手を打った。
訊いておきながら、大和の返事は待たずに口を開く。
「そっか! 今日泊まる所を探してるんですね?」
「あ……ああ。まぁ……そう……だけど……」
「でも……今日は余所から来た人はどこも入れてくれないだろうし……」
「…………」
娘は、こちらの言葉を聞いているのかいないのか分からない調子で喋る。
何か考え込むような仕草を見せ――ふと顔を上げた。
真っ直ぐこちらを見詰め、
「だったら家に来たら良いですよ! なんにも無いですけど……外で寝るよりは多分マシですから」
「……えっ……」
大和は小さく声を漏らす。
彼が何か言う前に、やはり娘は勝手に話を進める。
「でも私、まだ寄る所があるので……ちょっとここで待っててもらえます?」
「……いや。あの……」
大和が口を開いた時には、娘はすでに走り去っていた。
手を振りながら、
「すぐ戻って来ますからーっ!」
「ちょ……」
ぱたぱたと駆けていく娘を呆然と見送って――大和は暫し考え込む。
村を巡ってみた限り、現時点で話が訊けそうなのは、あの老婆と娘だけだが、どちらも厄介な雰囲気だった。
老婆の話は回りくどい。それに、老婆に話を訊く為には家を探し出さねばならない。
おまけにコキ使われそうだ。
娘は娘で、こちらの言葉を聞かない。勝手に話を進めていく。
どちらが良いとも悪いとも言えず、どちらも同じくらい面倒な感じだった。
ただ探す手間が無い分、娘の方がマシ……なのかもしれない。
世話になるかどうかは別にして、少し話を訊く必要はある。
「…………」
そう思い、大和はとりあえず娘を待つことにした。
その選択が、後にもっと面倒な事に繋がることを――この時、大和は思いもしなかった。




