第一章 第七幕
次で一章終わりっ!
アレクセイが工場内の部屋で西織の尋問の後に休んでいたところに、唐突な衝突音が聞こえてきた。
冷静に武装を整えてアレクセイが外に飛び出すと、
「アーサー・レッドフィールドッ!?」
「あ、あいつですボス。それじゃあ、後は打ち合わせ通りに」
「はいはい、しくじるんじゃないわよ」
「ッ西織のところには」
行かせない、とアレクセイが言いかけ、アーサーを追いかけようとした途端
「はいストップー」
アーサーにボスと呼ばれた女がアレクセイの前に出現した。
「なっ!?」
アレクセイが驚愕している間に海島は足払いを食らわせ、アレクセイを転倒させる。
しかし倒れ込む途中でなんとか体勢を整えたアレクセイは、獣のように四肢を地面につけて後ろに飛びすさり、魔法を発動させる。
(まだ、報復は終わっていない。こんなところで邪魔されるわけには)
と、アレクセイが思考したところで、
「はい残念」
海島がアレクセイの懐に潜り込み、痛烈な一打を食らわせる。
「ゴッ…ブ!?」
(馬、鹿な私は魔法を)
「あんたの魔法はアーサーから聞いてるわ」
アレクセイの魔法の名前は『停滞時計』
その効果は
「自分の周囲の時間を加速増幅する事、でしょう?」
アレクセイが掲げる願いは『己の大切な人々との時間を永遠に引き伸ばす』事。
それによって彼の魔法は彼と、その周囲の時間の流れを何倍にも引き伸ばす。
彼がわずかに離れた位置から出現していたのはこの為だ、時間加速空間の中に敵を入れると一発で魔法がばれてしまう上に、ギリギリまで近づいてから魔法を解除するのと効果は何も変わらない。
だが、
「知ったからといって…何故私の意表をつける!?」
そう、二度目にアレクセイを止めたとき、海島は|既に魔法が発動していた(・・・・・・・・・・・)にもかかわらずアレクセイの前に忽然と出現した。アレクセイの時間加速空間の加速レートはデフォルトで二十倍、僅か十メートルの距離など走ればコンマ05秒ほどで通過する。
これに反応するには、相手も二十倍の速度で動くしかない、否、海島はアレクセイにも気づかれないほどの速度で接近したのだ。そんなことならばアッサリと音速を越えて工場内の物は吹っ飛んでいる筈だが…
「驚くようなことでもないでしょう?私も魔術師なのだから。私があんたに追い付けたのは私の魔法『才覚顕現』によるもの、というだけの話」
海島は告げる。
「私は万能の秀才でね、自分の才能はちょっとしたものだと思ってる。でも、まぁ、普通は気付くわよね、秀才は天才には勝てない秀才ができる努力は天才もできるもの、突き詰めれば突き詰めるほど才能は大きな壁として立ちはだかる。なまじ一流にたどり着けるから分かるのよ、超一流っていうものが。でも私はそれに絶望しなかった。むしろ自分より優れた才能に恋い焦がれたの。で、そんなことを考え続けてたら妙な魔法が発現した」
『才覚顕現』
その効果は
「人、ものを問わず、有りとあらゆる存在の『特徴』を『強調』する魔法。つまりは秘められた才能、機能を強化するわけ。
今は『アレクセイ・ルーンバルトの歩みを阻止するもの』という私の『特徴』を強調している。だからあんたが何をしたところで私を殺さない限り絶対に逃げることも進むこともできない」
『才覚顕現』に制限はない。
『特徴』を定義し、『強調』するだけで、その効果は絶対になる。
「イメージが湧かないようだから、実例を見せましょうか?ここに拳銃があるけれど、さて、これはどんな道具でしょう?」
アレクセイは一瞬考え込んだが、すぐに最悪の想像に辿り着く。
「まさかッ…!」
「そう、『敵に鉛玉を撃ち込むための道具』よ」
アレクセイは身を投げ出すが、関係はない。
『敵を撃つ』、という概念を『強調』された銃は弾道を無視して弾丸を敵に叩き込む。
「グッガアアアアァァッ!!」
防弾装備を透過して体に直接到達した銃弾がアレクセイの肉を抉る。
「この通りどんな撃ち方でも百発百中になるの。言っとくけど防御も回避も意味をなさないわ。必ず当たる、それが今のこの銃なのだから」
当たる場所までは決められないけどね、と海島はアレクセイを見下ろしながら言う。
プロメテウスの内部情報を吐かせるためにニコラスに手当てをさせ、今さらになって出てきた他のプロメテウスメンバーを見渡す。
「邪魔ね、蹴散らしましょうか」
海島が駆けた。
工場内は一瞬の喧騒に包まれ。すぐに静まり返る。
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アーサーは発信器を頼りに西織の下へたどり着いた。
「あらアーサー数時間ぶり。あ、そうだアーサー、私を殺さない?」
何でもない事のように言う西織を見て、アーサーはずいぶん変わったなと思った。
「西織」
「ん?何?」
「お前を救いに来た」
そして、アーサーは今回の顛末の全ての元凶と向かい合った。
感想、ここが悪い等の指摘、お待ちしております。
読者さんをおいてけぼりにしてないか心配です。
自分の文才に絶望する…