第一章 第五幕
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やっとバトルが…
西織を『梟』が匿ってから二日目の夜、
アーサーは『梟』の事務所のあるビルの屋上に佇んでいた。
既に時刻は11時を過ぎ、アーサーがここで歩哨を初めてから五時間近い時間が立っている。
それでもアーサーの警戒は欠片も緩んでいなかった。
そしてアーサーの耳がその音を捉えた。
こちらに近づいてくるのは小型トラックに偽装された特殊装甲車の群れだ。
ビルの狭間から見え隠れする編成を見る限り、恐らくは40~50人程で編成を組んでいるのだろう。
一台の車両を四台の車両で囲むように移動している事を考えると、指揮官は中央の一台か。
狙撃を警戒してかビルを上手く盾にしながらこちらへ向かってくるそれを見て、アーサーは空中に手をかざす。
次の瞬間アーサーの周囲に巨大な鉄の塊が複数出現した。
『千刃万弾』
アーサー固有の魔法であり、その効果は有りとあらゆる武器、兵器の類いを自在に生成、操作することだ。
生成可能な武器はナイフから戦術核ミサイルまで、この世の武器全てを網羅し、生成条件はアーサーがその威力、効果を把握していることのみ。
十分な魔力と知識さえあれば一人で世界を滅ぼすことすら可能な火力を有する、非常に強力な魔法だ。
今回アーサーが生成したのは、テロにもよく使用されるヘルファイアミサイル。
それを、
ビルごと撃ち抜くつもりで発射する。
撃ち出されたミサイルはッドォアッッッ!!っという轟音を炸裂させ、ビルを崩して瓦礫を敵にぶちまけた。
五台の装甲車は瓦礫の雪崩に飲み込まれ、紙箱が潰れるようにひしゃげて見えなくなる。
さらにそこにアーサーはグレネードを連射した。
瓦礫の山が噴火するように膨れ上がり、欠片を爆散させる。
そして紅蓮の炎に包まれたビルの跡地から、
ゴッ!!という音と共に人影が飛び出してきた。
その数はおよそ30人程。
減ってはいる、
しかし30人近くが生き残る。
これが魔術師たちの戦い、
この世の理を超えてしまった者達。
そしてアーサーもその世界に身を置く一人だ。
五階建てのビルから軽々と飛び降りると、瓦礫から出て散開した敵を追う。
こうして戦いが始まった。
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「来たわね」
『梟』の事務所所長室で海島は外の爆音を聞いた。
「ニコラスは依頼人の安全確保を、私はアーサーが討ち漏らした敵を叩くわ」
「了解、このビル使っちまっていいんですよね?」
「えぇ、好きにしなさい。ただし私達の荷物は壊さないでよ」
「重ねて了解、ではお気をつけて。それじゃ西織、着いてきてくれるかな?」
ニコラスの声を背に、海島は防弾コートを羽織りながら足早にビルの外へ向かう。
仕事の時間ね、と呟いた口には引き裂くような笑みが浮かんでいた。
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ニコラスは西織を連れてビルの中心部に来ていた。
「あの、ここで何を?」
「あぁ、これからここを起点にビルそのものを作り替える」
そういうとおもむろにニコラスは両腕を壁に突っ込んだ。
驚く西織の前でニコラスの腕はまるで壁が泥でできているかのように滑らかに動く。
「俺の魔法は『万物弄手』。触れた物質を好きに改造する魔法だ。建物を自由に『改造』するのが俺の十八番でね」
その言葉と同時、ただの古びたビルが積層構造を備えたシェルターに変わっていく。
たちどころにして巨大な構造物を構築すると腕を壁から引き抜き、ニコラスは言った。
「とりあえず戦闘が終わるまで暇だし、飲み物でも飲むか?」
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アーサーは路地裏を駆け抜ける。
出くわした敵には、挨拶がわりに周囲の空中に展開したショットガンから高威力のスラッグ弾を叩き込むことで対処していた。
アーサーが探しているのは指揮官クラスの人間だ。戦いの要諦は頭を潰すことに限る。統率を失えば自力で勝っていようが敗北は必死となる。
だが今回はかなりの準備期間が向こうにあった、おそらく相当の手練れが指揮官として参戦しているだろう。
潰すのは困難になる。
故にこの役目をアーサーが引き受けたのだ。
と、そこでアーサーの前に立ち塞がる人影があった。今までに倒したプロメテウスメンバーと同じ市街戦用の装備に身を包み、サングラスをかけたその男は、
「お前だな」
他の敵にはない、圧倒的なプレッシャーを発していて。
「お前が、指揮官だな」
「アーサー・レッドフィールド君、君の噂は聴いているよ」
その男はサングラスを指で押し上げながら、
「私はアレクセイ・ルーンバルト。手合わせ願おうか?」
直後、
二人の魔術師が激突した。
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海島は変わり果てたビルの前から戦場と化した街並みを眺めていた。
(あらあら、やってるやってる。アーサーは頑張っているようね。これは臨時ボーナスを出してもいいかもしれないわ)
そんなことを考えていた海島が徐に首を傾けると、先程まで海島の首があった場所のすぐ後ろの壁に飛来したナイフが突き立った。
何らかの魔法か、はたまたナイフに仕込まれた機械の効果か、ナイフの刃は高速振動しており、蜂の羽音のような耳障りな音を発しながら易々とコンクリートを切り裂いていく。
「…こりゃボーナスは無しね」
命の危機というよりナイフの立てる音に不快さを感じて、海島は敵を討ち漏らしたアーサーに八つ当たりをする。
周囲に目を走らせると15人近い敵がいた。
敵は一斉にこちらに魔法を放とうとする。
対して海島はタン、と短く足踏みをした。
それだけだった。
たったそれだけで15人の魔術師が勢いよく地面に叩きつけられた。
「さって、と、これで終わりじゃないでしょう?」
海島は、
口よ裂けよとばかりに笑って
「さっさと立って攻撃して来なさい。その度に絶望させてあげるから」
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アーサーはアレクセイから距離を取りつつ、ショットガンの弾丸を散弾に切り替えて連射する。
相手はこちらの名前を知っていた。ならば、自分の魔法に対しても対策を練っている可能性が高い。不用意に接近するのではなく、牽制と様子見を兼ねた攻撃だったのだが
「無粋だな」
先程まで前にいたはずのアレクセイが、いつの間にか自分の後ろに回っている。
「!?」
アーサーは身を捻ることでアレクセイの方を向こうとするが、
「こちらが会話をしようとしているのだ、鉛玉の前に言葉を返すのが礼儀ではないかね?」
再びアーサーの死角に一瞬で潜り込んだアレクセイが足を払うように蹴りを放つ。
倒れ込んだアーサーだが、アレクセイに向けてカポエラのように蹴り足を繰り出す。惜しくもかわされたが、蹴りの反動で起き上がった。
「その魔法、時空系か」
「ほぅ、今のやり取りだけで断言するかね。加速系や幻惑系という可能性もあるだろうに」
「加速系なら攻撃の時に使う方が効果的だろう。幻惑系なら足跡はできない。場の状況を見るに何らかの時間操作と見るが、どうだ?」
「…素晴らしいな、これだけでそこまで看破するとは。殺すのが惜しくなって来る」
「随分な自信だな」
「それを知られた所で私の優位は揺らがんからな。こちらは君の魔法を知っているのに、君は私の魔法が時間操作と知れただけ。どちらが有利かなど、論ずるまでもあるまい」
確かにアーサーはアレクセイの魔法を掴みかけている。しかしそれでは対策は立てられない。
ざり、と音を立ててアーサーの足が後ろに動こうとする。
一度逃げて体勢を整えるつもりか、とアレクセイがわずかに身を乗り出すと、
ドンッ!と、そのままアーサーは突進してきた。
(フェイント!?)
アレクセイは驚愕したが、自分の魔法を発動してアーサーの後ろに回り込む。
(この程度でやられるとでも思ったか!!)
しかし、そこでアレクセイは気づいた。
アーサーの背中越しに見えるガラスの欠片にーーーー薄く、薄く笑うアーサーの顔が映っている。
「ッ!!!」
アレクセイが悪寒を覚えて飛び退くのと同時、アーサーの背中側にナイフが出現し、勢いよく放たれた。
「グッ…」
獣のように身構えるアレクセイは喉を抑える。
頸動脈付近に薄らと傷がついていた。
「見破ったぞ、お前の魔法」
アーサーは笑う。
タネが割れれば条件は互角。否、自力で勝るアーサーの方が有利。
その時、出し抜けにアレクセイの持っていた通信機から声が聞こえた。
『もしもし?私は『梟』の海島と言うものだけれど。現在生き残っているプロメテウスメンバーに告げるわ。あんたらの仲間は私があらかた片付けた。同じ目に遭いたくなければ、降伏しなさい。…ってあれ?答えがないって事は全滅させちゃったかしら?』
(…潮時か)
これ以上戦った所でアーサーに勝利する事は難しいだろう。ならばさっさと逃げるのが良策だ。
「済まんが、逃げさせてもらうよ。もはや戦う意味は無さそうなのでね」
「逃がすとでも?」
「逃げれるさ、こうすればな!」
アレクセイがピンを抜いて放り投げたのは
「手榴弾…ッ!」
咄嗟にアーサーは物陰に飛び込む。
爆風が炸裂し収まったときにはアレクセイの姿は消えていた。
(…逃げられたか)
ビル(どうせニコラスの魔法で跡形もなく変形しているろうが)にはボスもいる、彼女の魔法はデタラメだ、ニコラスによる防御さえ加わればアレクセイは西織に指一本触れられまい。
こうして、アーサーとアレクセイの戦いは終わる。
アーサーは少し気を緩めた。
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アーサーはひとまず元『梟』事務所ビルに戻った。
「アーサー、討ち漏らしにうるさいのがいたわよ。不快だったから今回はボーナス無しね」
「何時もどれだけ努力しても、そんなものは貰った覚えがありませんが…今回はこれで終わりなんでしょうか?」
「バカね、捕らえた奴等から聞き出したプロメテウスの基地に殴り込みを掛けなきゃならないでしょう。楽しいお仕事はまだまだあるわ」
「やれやれ…ニコラス!移動だ、出てこい!」
言葉と同時にシェルターの前が開き、紅茶を飲んでいるニコラスと西織が出てきた。
「…西織はともかく、何でお前はそんなくつろいでいるんだ」
「私達が戦ってた間、ずっとまったりしていたというのは腹が立つわね。よし、減俸にしましょう」
「えぇ!?だって安全確保って命令されたじゃん俺!」
何時もの掛け合い(アーサーと海島は本気)に西織が笑っていると
「和やかな所、失礼させてもらおうか」
くたり、と西織の体から力が抜ける。
西織の首筋に当て身を食らわせ、気絶させたのは
「アレクセイ・ルーンバルト…ッ!?」
「あくまで私の目的は西織夕香の回収だ。アーサー君、君を倒せなくとも問題はないのだよ」
「ボス!!」
言葉に反応して、海島が魔法を発動させるも、アレクセイはすでに離脱していた。
「不味いッ…!このままじゃ西織が!!」
「それだけじゃない」
「え?」
「忘れたかアーサー、お前に命じて西織に飲ませた毒の事を」
「ッ…!」
「カプセルの溶解まで後二時間から三時間、その間に解毒薬を射たなければ」
西織は、死ぬことになる。
魔術師チート回です。
こんな魔術師が結構な数居ますが、世界中で様々な魔術結社が微妙なパワーバランスを保っているので、世界は滅びていません。
世界各地で起こる魔術師同士の戦いで起こる破壊は国が情報処理しています。
国は魔術師が国中に溢れかえったら秩序も糞も無くなるのでその存在を秘匿しており、結果事後処理の殆どを国が行っています。
アーサーの千刃万弾はFateのギルガメッシュのゲートオブバビロンを想像していただければ。




