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硝煙の魔法  作者: 物黒織架
第三章 憎しみの先は
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第三章 第七幕

「アーサー・レッドフィールド少尉。今回君には第三小隊を指揮し、ポイントGの敵陣の主力歩兵部隊を叩いてもらう。他の隊も援護に回るし、君らが切り開いた道に沿うように小、中隊を送るから、挟撃はさほど心配する必要はない。戦車部隊等は他の部隊が足止めする。以上、何か質問は?」

「敵の詳細な人数とわかる限りの装備を」

「およそ250。小隊にして30程度といったところか。装備に関しては我々と同程度と考えればよい」

「了解。作戦開始時刻になりしだい行動を開始します」

アーサーは上官に敬礼し、作戦会議室を後にする。

基地の廊下を出撃準備のために武器庫に向かって歩いていくと、正面から知った顔が歩いてきた。

「ジョン…」

「おぅ、アーサーか」

「どうした?こんなところで」

「自前の狙撃銃の点検と調整だよ。今回も俺は後方から狙撃だそうだ」

「まぁスナイパーならそうだろうな。狙いを反らして味方を撃つなよ?」

「誰に言ってんだよ。俺はジョン・ハドソンだぜ?そんなへまをするようなら、とっくの昔に死んでるよ」

「そうだな。ジョン」

「ん?」

「幸運を(グッドラック)」

「…あぁ、幸運を(グッドラック)」

拳を突き合わせ、それ以上は言わずに二人はすれ違う。

長年の信頼が、そこにはあった。


◇◇◇


「現在時刻11:58。120秒後、作戦開始」

「「「「「了解」」」」」

隊のメンバーからの返事を聞き、アーサーは頷く。

今回アーサーが指揮するのは、非公式の特殊部隊だ。アーサーと同じく、この国の暗部に関わる人材で構成されている。

そのなかに一人、異彩を放つ存在がいた。

年は十歳ほど。そしてそれにしては妙に身のこなしがいい少年。

アーサーのような第四十二番施設出身者と同じ、特殊訓練プログラムによって製造(・・)された兵士だ。

名前を、パトリック・ベルベット。

「緊張しているようだな」

「は、はいっ!少尉どのは、リラックスされていますね。自分とそう年も変わらないのに…」

「バカ、お前上官に対する口が…」

「あっ!す、すいません!!」

「気にするな、作戦遂行能力があればそれでいい。それと、俺が自然体でいられるのはただ単に、これが俺の普段の生活の一部だからだよ」

戦争に日常的に参加し、ルーチンワークの様に敵兵を殺す。

それがアーサーの日常だ。

しかし、そんなことを言っても緊張で強張った体をほぐす助けにはならない。

溜め息をつき、アーサーは新兵にもう一度話しかける。

「安心しろ。これでもベテランだ。そう簡単に死にはしないし、滅多なことが起きない限り、お前達を死なせはしない」

その『滅多なこと』が起きるのがまさにここ、戦場な訳だが。

今までアーサーが率いてきた人間の無数の死に様がフラッシュバックする。

一番大量の部下が死んだのは、誤って地雷原に踏み込んだときだったろうか。爆発を受けて吹き飛び、ベットリと頭皮と髪の毛を内側に張り付けたヘルメットが印象的だった。

「俺の部下なんかにわざわざ任命されるってことは、相当訓練積んでるんだろ?ならその訓練を思い出せ。辛いのは精神(こころ)であって、肉体(からだ)はむしろ訓練の方が過酷だ」

それだけいって時計に目を落とす。

現在時刻、12:00。

作戦開始だ。


◇◇◇


「アイザックの班は右から回り込んで挟撃しろ。俺の班で追いたてる」

「了解」

素早く移動していく副隊長を視界の隅で確認しながら、アーサーは自分の班を率いて進む。

周囲は既に敵地だ。先程から砲撃音も響いている。

なかば廃墟と化した町が今回の戦場だった。

建物の角まで進み、アイザックの進行具合を計算しながらアーサーは停止のジェスチャーを部下に送る。

「(敵だ。角の先に人数8。カウント5の後に一斉射撃)」

「(了解)」

声を潜め、指を一本ずつ折っていく。

指が折り畳まれるごとに緊張感が高まりーーーカウントがゼロになった。

「GoGoGo!!」

勢いよく展開し、フルオートの一斉射撃を食らわす。

「ぐあっ…」「がっ…」

呻き声を上げ、怯む敵兵を前に、アーサー達は落ち着いて遮蔽物に身を隠し、波状攻撃を行う。

生き残った敵が同じく建物の陰に隠れようとすると、反対側から襲いかかったアイザック達のライフルが火を吹いた。

「状況確認」

「死傷者ゼロ。負傷者ゼロ。敵、完全に沈黙」

「上出来だ。引き続き侵攻する」

敵兵の死体を一瞥し、アーサー達の隊は進む。

簡単に聞こえるかもしれないが、実際には高度な連携と射撃技術が無ければ成り立たない作戦だ。流石にアーサーの部下として選ばれただけあって、小隊員は皆優秀だった。

いつ襲われるか、という緊張感はけして拭えるものではないが、今まで僅かな負傷者のみで十近い小隊を潰してきた彼らに過度の緊張は見られない。

作戦は実に順調だった。

隊全体の雰囲気をチェックしながら進んでいたアーサーは、しかしそこで奇妙な音を聞く。

ガリガリとーーーまるで地面を掘っているような、奇妙な音。

部下全員に警戒を促しながらアーサーは周囲を確認した。

しかし辺りにあるのは崩れかけた建物だけだ。一階に大きな兵器を置いてはすぐ見つかるような建物ばかりだし、二階以上の高さには建物の強度的にそもそも配置することもーーー

そこでアーサーは気付いた。

一階スペースはまるでさらけ出すように破壊されている。しかし建物は歩兵にとって極めて有用な遮蔽物ーーー特に待ち伏せが可能な敵側にとって重要なものの筈だ。なのにそれが人為的に破壊されている。|まるで扉を開け放つ様に(・・・・・・・・・・・・)。

「…っ!総員撤退!この音はーーー」

急ぎ指示を出すが間に合わない。ゴオン!と建物の地下室(・・・)の巨大な木製の蓋が震え、

「ーーキャタピラが土を掻き分ける音だ!!」

直後、それを粉砕して戦車が飛び出してくる。

理解不能、予測不能、それこそが本当の戦場。

本性を顕にした化け物が、アーサー達に牙を剥く。

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