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硝煙の魔法  作者: 物黒織架
第三章 憎しみの先は
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第三章 第六幕

カツカツと、軍用ブーツでコンクリートの床に足音を立てながらアーサーはとある戦場の全線基地を歩いていた。

狭い廊下で人とすれ違う度に、相手が振り返ってこちらを見てくる。

「おい、あれ」

「ああ、アーサー・レッドフィールド少尉だろ」

「第四十二番施設で訓練を受けた子供の生き残り…」

「戦場で姉に敵が接敵しないように、敵兵を殺しまくって、14歳で少尉に登り詰めた化け物…」

「バカ!聞こえるぞ!」

周囲の有象無象が何やらいっていたが、アーサーは気にも止めずに医務室へ向かう。

扉を開けると、エルが迎えてくれた。

「お帰り、どうしたのアーサー?」

「別に怪我した訳じゃないよ。姉さんの顔が見たかっただけ」

「そう…」

そこでキィ、とドアが開き、新しく人が入ってきた。

「ようアーサー、何だ?どっか怪我するようなへまでもしたのか?」

「ジョン、お前は相変わらず…」

「怒るなよ、ちょっとした冗談みたいな物だろ?」

アーサー・レッドフィールド、エル・レッドフィールド、ジョン・ハドソン。

あの訓練施設ーーー第四十二番施設に集められた子供のうち、生き残れたのは結局この三人だけだった。

五年前、9歳で初陣を経験し、それからずっと最前線で戦い続け、そして今のアーサー達がいる。

アーサーは突撃兵に、エルは衛生兵に、ジョンは狙撃兵に。

それぞれ兵種を定め、三人はセットで様々な前線基地に回されていた。

「ここもだいぶきな臭くなってきたな」

「怯えてんのか?『射殺領域(キリングレンジ)』様ともあろうお方が」

「その呼び名は止めろ…」

射殺領域(キリングレンジ)

何の因果かアーサーに付けられてしまった、いわゆる二つ名である。

コードネーム的な意味合いが強いとはいえ、アーサーはあまりその名が好きではない。

思い知らされるような気分になるからだ。まるで、お前はそういう『兵器』なのだと言われるようで。

「隣国はあと一ヶ月もしないうちに宣戦布告してくるだろ。だから俺たちが配属してるわけだけどよ」

「アーサー、今回は長引くと思う?」

「戦力は拮抗してるから…泥沼になるだろうね」

「愛しの姉さんが心配か?アーサー」

「姉さんには指一本触れさせない。誰にも姉さんを傷つけさせることはない」

「…はいはい、ほんとお前はいっつも『姉さん第一』だよなぁ」

「俺の勝手だ」

「私もアーサーが死ぬのは嫌だから、無理しないでね」

「熱っ!ここ熱っ!!」

大袈裟な身ぶりでジョンが顔を扇ぎ、それを見てエルが微笑む。

戦争で『逃げずに戦う』事を前提にした会話に違和感を覚えなくなったのはいつからだったろうか。

三人が高い戦闘能力を持っていながら、逃げる事を考えていない理由は単純。

彼らは強い、衛生兵でしかないエルも、一般兵程度なら圧倒できる力を持っている。

そして強い、ということは自分の力を理解していると言うことだ。

どうあがいたところで所詮人間三人。それで一つの国家に歯向かう無謀さを、アーサー達は知っている。

もし万が一うまく逃げられたとしてもどうすればいいのだろう?アーサー達のもとの国籍は何年も前に抹消されてしまっているし、アーサー達には最低限の教育と、殺しの技術しかない。そもそも人を殺すためだけに設計(・・)されたのだから、それ以外のことなどできない。

それも含めての『兵士教育』だったのだろう。

もうアーサー達は人生をやり直せない。

どこまでいっても死体と血溜まりしかない世界でしか生きられない。

(とっくの昔に判ってたことではあったけどな…)

そんなアーサーの益体もない思考を医務室になった電子音が遮った。

ピリリリリと耳障りな音を発する携帯電話をジョンがポケットから取りだし、耳に当てる。

「俺だ、ああその件か。解ってる、大丈夫だ、問題はない。…ホントか!?長かったなぁ、おい。何はともあれやっとって感じだな。…おう、解った、また連絡してくれ」

「何の電話だ?」

「ん?ああ、調達屋だよ」

戦場では物資ーーー特に嗜好品が手に入りにくい。

それ故、特定の軍人が人脈を駆使し、嗜好品を調達する商売をやっていることがある。

「何頼んだの?」

「おおっと、そいつは企業秘密だ。手に入れてからのお楽しみって奴だな」

「まぁ、特に興味はないが」

「はいはい、お前は自分の『姉さん』にしか興味ないんだもんな」

「俺がシスコンだとでも言いたいのか?」

「違うのかよ?」

「もう、二人とも喧嘩しないの。もう上官に怒られるような年じゃないでしょう?」

「姉さん、一応いっとくけどまだ俺ら14歳だよ…?」

「この年でそんな母親みたいな振る舞いとかないわぁ…」

「え?ちょ、ちょっと何よこの空気!」

少し喜んだり、怒ったり、哀しんだり、楽しんだりしながら三人は会話を続ける。

この時、既に三人が三人とも理解していた。

この三人が決して離ればなれにならないというような、そんな都合の良い話は、この世には存在しないと。


◇◇◇


そして約一ヶ月後。

隣国が宣戦布告をした。

戦争が、始まる。

感想、誤字脱字の報告などお待ちしていますm(__)m。

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