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硝煙の魔法  作者: 物黒織架
第三章 憎しみの先は
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第三章 第二幕


「ドバイに行きます」


「……はい?」

海島が突然立ち上がり、宣言した言葉に、同じ部屋に集合していた『梟』メンバーは目を点にした。

立ったまま無言でなんとも言えないプレッシャーを海島が放ち始めたため、無言のアイコンタクトで譲り合い、という名の押し付けあいの結果、ほぼ全会一致でニコラスが選ばれ、海島に話し掛ける。

「えーっとボス?いきなり何ですか?」

「Shut up!!」

無駄にいい発音でシャウトした海島にニコラスが殴り飛ばされる。

天井に首が突き刺さっているが、まぁニコラスだから大丈夫だろう。たぶん。

結構な惨劇を繰り広げた海島だが、そんなことは気にせずに、

「私気付いたのよ!折角アイスランドくんだりまで来たのに全然バカンスになってないじゃないって!!」

そのアイスランドくんだり出身のジークとヒルデが半目になり、アーサーと西織は一生気が付かなければ静かだったのにと思った。

「折角バカンスに来たのに、アホな男どものせいでバカンスが台無し!そんな私の心を癒してくれるのはドバイしかなぁい!!」

ドバイ。

言わずと知れた超高級リゾート地であり、実のところ、魔術師関連の騒動が世界で一番少ない場所である。

理由は簡単、ドバイでも大金持ちと言われるような人間は、大抵凄腕の魔術師を護衛として雇っており、そんな魔術師がひしめく場所で魔術師が騒動を起こそうものなら、すぐに護衛が袋叩きにしようとしてくるからだ。

だから、きちんとバカンスを満喫するためにドバイに行く、というのは海島にしては無難な選択と言えるのだが、

「でもお金有るんですか?僕『梟』がどうやってお金手に入れてるのかとか知らないんですけど…」

恐る恐る、と言うより出来れば話しかけたくないですオーラ全開でジークが訊くと、

「安心しなさい!ニコラスが稼ぐわ!」

「また俺かよ!?」

ズボッと天井から頭を抜いて床に着地しながら不満をぶちまけるニコラス。結構静かだったので『あれ…?まさか逝っちゃった…?』と薄々感じていた所だったが、ゴキブリ以上に生命力が高いようで何よりである。

「はいこれ!いろんな研究組織から依頼された部品製作依頼!コレ取り敢えず全部こなして!」

ドサドサと書類の山を何処かから取りだし、ニコラスに渡すと言うよりもはや積む海島。あっさりバランスを崩したニコラスはそのまま書類に埋もれていった。

続いて海島がこちらに目をギラギラさせながら振り向く。明らかにこちらをロックオンしているが、アーサーは目を腐らせて待つだけだ。窮鼠猫を噛むと言うが、ネズミがミサイルに抵抗せずに吹き飛ばされるのを責める人はいるまい。

「アーサーはどっかのテロリストにでも会って武器弾薬売り付けなさい!」

「いやさすがにそれは不味いですボス!!」

人としてやって良いことと、悪いことというものがある。

「安心なさい!FBIだろうがICPO(国際刑事警察機構)だろうが真っ正面からブチのめすだけよ!」

それが一番不味いと言うのが解っているのだろうかこのバカは、と内心アーサーは思ったが、

「落ち着いてください、ボス。何時もの傭兵業で稼ぎますから」

「……言ったわね?」

あ、地雷踏んだ、とアーサーは理解した。

「はいこれ!たった四十個の組織を潰すだけでいいから!」

「…因みに期限は?」

「3日!」

アーサーならギリギリ出来る数字だった。こんなところで計算しなくて良いんだよ。

「あぁ、アーサー先輩がゾンビみたいな足取りで…」

虚ろな目で装備類のチェックに向かうアーサー。 ジークがわたわたと心配するが、

「(あれ、演技だよね?夕香)」

「(アーサーさんボスの追及うまく逃れたなぁ…)」

ヒルデと西織が小声で会話した通り、わざとこんな仕事を受けたのである。何せ放置したらプラスαの仕事が加算されるのは明白なので。

ちなみにヒルデと西織、二人とも16歳ということもあり、結構な友人になっている。まともな感性の人間が彼女らぐらいしかいないというのもあるだろうが。

アーサーの演技に感心しこそすれ、いつまでもこのまま放置していると最悪海島が銀行強盗くらいはやりかねないので、西織は海島に話しかける。

「ボス、少し時間をくれませんか?」

「ん?西織、何か代案があるの?」

「三日待ってくだされば…」

「…ふーん?じゃあ頼むわ。ただし念のためにニコラスとアーサーはそれやっといて。まだまだ仕事はあるからね!」

物言いたげに書類の山(中にニコラス在中)がガサガサと動いたが、やがて酸欠にでも陥ったのか、ピクリとも動かなくなる。


そして三日後。

「…あは、あはは、このパーツをあと489個生産して…」

虚ろな目でブツブツ呟き、書類を捲りながら金属塊をいじくり回すニコラスの姿があった。

哀れ、それが海島以外の共通認識だったが、それで仕事が消え失せるわけでは無い。作業机の前に三日間座りっぱなしで、その内机と一体化しそうな勢いだった。

因みにアーサーは中央のテーブルに突っ伏したまま、何も言わずにじっとしている。ヒルデとジークが確認したところ、意識を半ば失っていた。

と、そこで同じく三日間部屋に引きこもって、何やらパソコンを弄くっていた西織がようやく部屋から出てきた。差し入れ時に画面を見た限りだと何やらグラフとにらめっこしていたが…。

「ボス、コレがうちの現在の資金です」

そう言うと西織は手元のノートパソコンを開いて画面を見せる。海島と一緒に北欧姉弟が覗き込むと、

「ハァ!?ドル単位でこの桁って何よ!?」

「夕香…貴女だけは犯罪はしないと思ってたのに…」

「違います!株取引ですよ。私これでも天才って呼ばれてたんですから」

要するに卓越した頭脳で株価の変動を予測した…ということらしい。一応元手はそれなりにあったはずだが、十倍以上にはなっている。

「これ、税金とかどうなってるんですか…?」

「ジーク君、大丈夫ですよ。どうせすぐに散財しますから」

「いや、それもどうなの?夕香」

何はともあれ金は出来た。

ドバイに向けて出発である。

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