第二章 第九幕
いつの間にやらPV1800ユニーク300突破。ありがたいことやでぇ…。
焔がおさまり、視界が晴れた道路の真ん中でポツリとフレイは呟いた。
「逃げられました、か」
スルトが『災厄焔枝』を地面に叩きつけた時、アーサーは焔を回避すると周囲に大量のナパームとスモーク弾をばら蒔いたのだ。
ナパームが発する爆炎で周囲の雪は蒸発し、水蒸気とスモークで目眩ましを形成すると、一目散に逃げ出した。
まぁ、妥当な判断だな、とフレイは思う。
相手はここで自分達を撃破する必要は無い。今回はこちらのデータも収集された筈だ。
一度逃げ、その上で対策を立て直して再戦をするつもりだろう。
雪が残っている場所には三種の足跡があった。
一つは異常に一歩ずつの感覚が広い足跡、恐らくトールと交戦していた女のものだろう。
もう一つは橇とキャタピラが通過したような跡だ。恐らくは戦闘用にチューンアップされたスノーモービル。これはスルトと戦っていた武器生成の魔法の男のものか。
最後の一つは古風な馬車でも通ったような跡だった。心当たりは障壁を生成していた男。奴の魔法が物質操作ならばこの足跡は不自然ではない。
「トール」
「ああ、なんだ」
「傷の加減は」
「問題ない。少し腹が痛むがな」
海島の渾身の掌底を食らってもトールは未だ健在だった。
その魔法は防御系ではないが、
(素の肉体が頑丈ですからね)
魔術との相乗効果で耐久力が異常に高いのだ、打撃系の攻撃で倒すのは骨がおれるだろう。
と、そこでスルトが話しかけてきた。
「さっきはすまねぇ。二度も助けられちまった」
「では汚名返上の機会を差し上げましょう」
フレイは足跡の一つ、キャタピラの跡があるものを指差し、
「追いなさい。君のジェット噴射なら追い付けるはずです」
「わかった。今度は油断しねぇ」
スルトはある程度フレイ達から離れると早速魔法を使い、アーサー達の後を追う。
「…いいのか」
「何がです?」
トールは言う。
「ほぼ確実にスルトは死ぬぞ」
それを聞いてフレイは鼻で笑った。
「構いません。あの程度、いない方が戦いやすい。わざわざ死にそうになる度にフォローするのも面倒です」
そうか、とだけトールは言った。
彼も別にスルトを心配したわけではないのだろう。ただ勝手に人員を削るような前をして、自分達の主に咎められないのかと思っただけで。
はてさて、どの程度相手に損害を負わせられるものか。
フレイは少し思考し、どうでもいいこととしてトールを伴いその場を去った。
◇◇◇
そして時は冒頭にたどり着く。
幾度となく繰り返される熱波の放出にアーサーは軽い焦りを覚えていた。
「クソ、流石に学習するか」
ジェット噴射を使って追撃する相手はスノーモービルを越える速度で移動している。
しかし一定以上近寄ることはない。
遠距離攻撃の熱波を放つ度にジェット噴射は途切れ、速度も落ち、こちらに置いていかれる形になるが、
(焦って距離を詰めてはこないか)
『災厄焔枝』の性能は近接戦向きに見える。
しかし、あらゆるものを焼却するあの焔は、攻撃力が高過ぎて個人戦には向かないのだ。
例えば、攻撃を行い、焔が晴れると、そこには灰しか残っていない。
これでは相手が避けたのか、それとも攻撃を食らったのかわからない。即効性が高過ぎるのだ。
あれは本来、自分を焔で守りつつ、集団や巨大構造物相手に遠距離から砲撃を行うための魔法だろう。
だからこそ近距離で近接戦闘を仕掛けてきたときは二度も倒しかけた。
しかし、相手は警戒し、もう同じ手は使えない。
ならば、どうする。
と、そこでスノーモービルに相乗りしている西織がこちらを見てきた。
逃げるときにジークを治療能力のあるニコラスに任せ、西織を自分が受け持ったのだが、
「作戦があります」
まっすぐこちらを見上げる西織の目には強い自信が見てとれる。
期待と信頼をもって、アーサーは作戦を言うように促した。
◇◇◇
スルトは焔を吹き出し、後方の雪を溶かして進みながら敵の魔術師を追う。
(この俺に、二度も恥をかかせやがって…)
殺す。絶対に殺す。髪の毛一本残さず焼き殺す。
怒りと共に、スルトの内側にドロドロとした殺意がたぎっていく。
そして、目の前で憎い敵が繰るスノーモービルが地形の小さな凹凸に引っ掛かり、バランスを僅かに崩す。
失速し、制御も崩れた相手は、今度こそ攻撃を避けられない。
(終わりだ…)
焔に照らされた彼の笑みが悪魔的な様相を催し、
「死に晒せえええぇぇぇぇぇ!!!!」
焔の一撃を放った瞬間、
ドンッ!!とミサイルが撃ち込まれた。
焔に飲まれたミサイルは外殻を焼却されるが、その間に与えられた熱で内部の燃料に引火し、起爆した。
『災厄焔枝』の焔はすべてを等しく焼き払う。
しかし、それが焔であることには違いない。火焔の奔流のど真ん中で起爆し、撒き散らされた爆風は、『焼却』されながらも『焼却』の焔の大部分を吹き散らした。
(またこんな小細工で…ッ!)
血管を浮き立たせ、怒気で己を満たすスルトに上からスッと影が差す。
見上げると先程『災厄焔枝』の焔を吹き散らしたミサイルが3つ程浮いていた。
確かにそれを受ければいかに『災厄焔枝』があるとはいえ、スルトは死ぬ、あるいは甚大なダメージを受けるかもしれない。
が、
「なめるなぁぁぁぁッッッ!!」
轟!と限界近い魔力を注ぎ込まれ、一層強く燃え上がった焔が莫大な推進力を生み出し、スルトの体をさらに前へと押し出す。
一気にスノーモービルのすぐ後ろに着いたスルトはそのまま『災厄焔枝』を用いてスノーモービルを吹き飛ばそうとして、
気付いた、
「一緒に乗ってた…女だけだと!?」
アーサーがいない。
スルトの焔が照らし、そして雪原に浮かび上がった影があった。
それは一本の白いロープだ。色のせいで雪原に溶け込み、隠れていたものが強い光を浴びて浮かび上がるように見えてきたのだ。
そしてその先に繋がって、スノーモービルのたてる雪煙の中に身を隠していたのが、
バレットM82A1カスタムを装備したアーサーだ。
スルトは当然覚えている。
あの巨大な銃から撃ち出される弾頭は、こちらの焔すら貫通して危うく命を奪われかけた。
全力で回避する。
「おおおおおおおおお!!」
身をよじり、盾のように『災厄焔枝』を掲げ、『焼却』の焔を限界まで放出する。
そして雪原に銃声が木霊した。
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