第二章 第八幕
「ジーク!お前はフレイを足止めしろ!その間に俺がスルトを仕留める!」
「はいっ!」
アーサーの指示を聞いてジークは駆ける。
脱走時の恐怖は忘れていない。
戦うことを考えれば体が震える。
(でも、ここで逃げるわけにはいかない)
姉を、助けるのだ。
魔術結社にまで依頼し、戦う準備を整えたのだ。
ならば、
「こんなところで立ち止まって、姉さんを救うなんて出来るもんか!!」
立ち止まるわけにはいかない。
姉を救うため、ジークは一人ひた走る!
「おっおおおおおおおおぉッ!」
大上段から『ノートゥング』を降り下ろす。
フレイの双剣は軽々とそれを受け止めるが、構わない。右手一本で長剣を振るいながら、左手で拳を交えたラッシュをかける。
『鋼体英傑』を使えば、彼の拳は鋼の固まり並みの強度を持つ。魔法と魔術で底上げされた身体能力も相まって、コンクリートブロック程度なら軽くブチ抜く程の破壊力を誇る拳や手刀を連続で叩き込みながら、しかしジークは悟っていた。
届かない。
あらゆる攻撃は『無敗宝剣』に弾かれ、いなされ、切断される。
(攻撃が…)
まるで通らない。
まるで回転しているチェーンソーの刃に手を突っ込んでいるような感覚だった。
左手首は既に十指で数えられない程切り落とされ、『ノートゥング』の刃も幾度となく砕かれる。
「無駄な足掻きを…どうせ私に殺されるのだからいっそ諦めた方が楽ですよ?」
「ふ、ざけんな!」
「私は至って真面目なんですがね。まぁ、あまり時間をかけるのも何ですし、ちょっと本気を出しましょうか」
グッ、と力むような仕草をフレイは見せる。
魔力供給を増している、とジークが身構えた瞬間。
ドッ!!、と
ジークの右腕が切断された。
「…え?」
魔法によって瞬時に腕が復活したが、服は綺麗に肩で途切れているし、何よりジークの右腕は今も地面に転がっている。
ワンテンポ遅れて何が起きたかを理解したジークは全身が総毛立つのを感じた。
速い。
「ふぅ、やはり疲れますね。魔力の限界放出というものは。『敵を倒す』という概念が中途半端に暴走してうまく狙いも定められませんし」
が、とフレイは前置きして、
「ジーク、君の急所を抉るまでどのくらいかかりますかね?」
双剣が霞み、宙を裂く。
圧倒的な速度にジークが対抗する術は、無い。
◇◇◇
「西織、解析は?」
「敵三名の大まかな戦闘能力は把握しました。今は作戦を考えてます」
「…ちなみに俺の出番はあるのか?」
「トールの襲名者、あの魔法にはニコラスさんの魔法は有効です」
「マジかよ、俺戦い苦手なんだけど」
「やってください」
二人はただ、漫然と戦闘を眺めているわけではない。
戦いを観察し、そのデータを元に対策を練っている。
そして戦況に変化が起きた。
「お、ボスが巻き返したな」
「ええ、うまいですね」
視界の先、超高速移動で『雷撃鉄槌』を回避し損ねたボスが、それを利用して相手を殴り飛ばしていた。
◇◇◇
クイッ、と軌道を変更して完全に衝突するルートになった『雷撃鉄槌』に対して、海島は回避を諦めた。
(なら、この威力を利用する!)
極限まで強化された動体視力で『雷撃鉄槌』を見切り、回転するその柄に手を引っ掻ける。
受け止めるのではなく、柄に引きずられるように『雷撃鉄槌』の下を加速しながら潜り抜け、追うように迫る『雷撃鉄槌』の打撃部分に足をかける。
伸ばしきった足を徐々に折り畳むようにして衝撃を殺し、しかし一定量のエネルギーは受け取って、
海島の体はトールの方へ吹っ飛ばされた。
(さっき私の拳を利用されたことの意趣返しーーー)
掌を魔法で『強調』して、
「おもいっきり喰らいなさい!」
ドッパァンッ!!!、と破城槌のような掌底が炸裂した。
◇◇◇
アーサーは無数のチャクラムを生成、射出する。
「ちょこまかと…うっとうしい野郎だなぁ!」
しかしそれは焔にまかれ、一瞬で焼却される。
そしてスルトの体が焔で覆われーーー狙い通り、相手の視界が閉ざされた。
その隙を見逃さずに、アーサーが生成したのは、
(バレットM82A1…ッ)
湾岸戦争において、2000メートル先の戦車を爆破したことで有名な対戦車砲。
さらにそれを『梟』の手で、フルオート、三点バーストなどの改造を施した化け物だ。
反動は売っただけで骨折を引き起こしかねない程凶悪だが、その分、威力は申し分ない。
アーサーの魔法によって使用されることを前提に作成された武器だ。
(必要なのは威力じゃないーーー)
あの焼却能力に対処するためには、
(ーー銃弾が焔を貫通する間に、焼却仕切れないほどの速度と巨大弾頭!!)
これが今のアーサーにできる最高速度にして、最大の一撃。
「撃ち抜け!!」
巨大な銃砲が50口径弾を吐き出す。
その時、確かにアーサーの放った銃弾は『災厄焔枝』の焔を突破していた。
フルメタルジャケット弾の表面は削れ、中の弾芯が露になっていたが、それでも速度は人を殺傷するに足るものだった。
しかし、
ギィィンッ!!と高い音をたてて弾丸は飛来した双剣に弾かれる。
(ジーク!?)
視界の片隅に倒れ伏すジークを見て、
「ッこ、の、クソッタレがぁぁぁぁぁぁっ!!!」
スルトの咆哮と共に『災厄焔枝』が地面に叩きつけられ、
周辺一帯が爆炎に包まれた。
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