第二章 第四幕
な、何故かアクセス数が急増してるのですが…二日間で総計PVが二倍ってどういうことですか?
こんな拙作ですが読んでいただけてありがたく思っています!
それでは続きをどうぞ。
ジークフリート。
それが少年の名前であり、コピー元の英雄らしい。
「で?そもそも何であんたは『アースガルズ』から逃げた上にバカンス中の、ひ、さ、し、ぶ、り、のバカンス中の私のコテージに厄介事持ち込んでくれたわけ?」
「す、すいません…」
海島が思い切り年端のいかない少年にガンを飛ばすのを横目に見ながら、アーサーは神話のジークフリートについて思い出していた。
ジークフリートは歌劇王、リヒャルト·ワーグナーの戯曲『ニーベンルグの指輪』に登場する英雄だ。
彼は邪な養父に、養父の兄が作り上げた指輪を盗み出すために育て上げられる。
年を経て、養父は彼に剣を要求され、手づから鍛え上げた名剣を渡すが、巨人でも砕けないそれを、ジークフリートは次々とへし折り、もっと強靭な剣を要求する。
そして養父は、ジークフリートの実父の所有していた剣の欠片をジークフリートに渡し、『恐れを知らぬものだけがこの剣を鍛え直すことができる』と言ってジークフリートに剣を鍛えさせる。
そうして出来上がったのが『ノートゥング』或いは『グラム』と呼ばれる大蛇殺しの名剣である。
ジークフリートはこの剣を携え、養父の兄から盗まれた指輪を所有する大蛇のもとに赴き、その大蛇を『ノートゥング』をもって殺害し、その血を全身に浴びることになる。
結果、彼は不死身の肉体を手に入れたが、その背中に菩提樹の葉が張り付いていたために背中の一部だけは不死ではなく、結局最後はその部位を槍で貫かれて死ぬこととなるのだ。
実際には死ぬ前に『バルムンク』と呼ばれる剣を手に入れたり、とある王に協力して武功を示させるエピソードがあったり、ちゃっかり大蛇の宝物だった隠れ蓑を奪ったあげく、自分に毒を飲ませて指輪を奪おうとした養父を『ノートゥング』で叩き斬る逸話などがあるのだが、少年が魔法として顕現させたのは三つ。
ほぼ不死の肉体、英雄としての身体能力、そして大蛇殺しの『ノートゥング』だ。
シンプルで強力、だが
「そんなものに意味はないでしょうに…」
海島が呆れ顔で呻くように呟く。
少年の魔法は神話魔法としてわざわざ発現させるほどの意味がないのだ。
戦力がほしいのなら質なら神、量なら襲撃してきたミストルティンのように武器などのみを発現させる方が良い。
言い方は悪いがジークフリートという英雄は中途半端で使い勝手が悪いのだ。弱点をつけばすぐ死ぬし(神話において不死属性を持つ英雄は代償に弱点が極端に弱くなる傾向がある)。
「僕にもわからないんです、どうして僕が造られたのか」
少年は腕の一部を押さえるようにして掴む。
確かあそこはルーンが刻まれた場所だったな、とアーサーは気付いた。
「…まぁ良いわ。さっさと出ていってくれる?厄介事はごめんなのよね」
「だからボスの言うことじゃあばしっ!!」
余計な口を出してボスに殴られ、天井に衝突した後床に勢いよく叩きつけられるニコラス。
あまりに懲りないのでアーサーは最近ニコラスはMなのではないかと思い始めていた。
「お願いします!助けてください!」
額を床に擦り付けるように頼み込む少年に海島は冷めた視線を送る。
「嫌よ。今は休暇中なの、さっさと出ていきなさい」
「お願いします!姉さんを助けたいんです!」
その言葉に、アーサーは思わず反応した。
敏感にアーサーの気配を感じ取ったのだろう。海島が物言いたげな顔で振り返って睨んできたが、アーサーはあえて無視した。
「『アースガルズ』には、君の姉さんもいるのか」
「え?あ、はい。『ブリュンヒルデ』の継承者です」
継承者というのは要するにコピーのことだろう。
姉。
少年の年齢は14歳ほどだからせいぜい16歳といった所か。
(女々しいな…)
咄嗟に自分を少年と重ねてしまった自分に一人ごちる。
「ボス、俺はこの依頼を請けたいです」
「アーサー…私が許すと思うの?」
「ボスが許してくれないというのなら、一人でやるまでです」
それは虚勢ではない。実際アーサーは『梟』に所属してからの四年間で幾度も単独行動をしている。今回も承諾を得られなければ勝手に戦うのだろう。
敵は北欧最大の魔術結社だというのに。
海島は考える。
今アーサーに単独行動を許せば間違いなくアーサーは死ぬだろう。
アーサーの魔法は世界を滅ぼせるほど強力だが、個人の突出した実力でどうこうなるような甘い相手ではない。
それにそもそもアーサーの魔法は相性の向き不向きがハッキリしすぎている。得意な相手ならなにもさせずに殺すこともできるが、相手によっては努力しても精々相討ち、ということすらあり得る。
そして神話魔法には後者のパターンが多く見られる。
アーサーが死ねば『梟』の戦力は大きく下がる。そこを他の魔術結社に漬け込まれ、攻めこまれたら自分はともかくニコラスや西織は殺されるだろう。
それは、嫌だった。
「…しょうがないわね。きちんと世話するのよ?」
「ありがとうございます、ボス」
拾ってきた捨て猫を飼うのを認める母親のような言い方に思わずアーサーは笑みをこぼした。
「ま、そういうわけだ少年、いや、ジークフリートと呼ぶべきかな?」
「ほ、ホントに、僕と姉さんを助けてくれるんですか…?」
「ああ、君の姉さんも君自身も、まとめて俺が救ってやる」
アーサーは力強く宣言して、少年と握手を交わした。
「ま、私達にも手伝わさせるんですけどね」
にっこりと微笑みながら水を差す西織。
そういえば西織もこの小旅行を楽しみにしていたことを思いだし、アーサーは身を縮めて申し訳ないと思うしかない。
作中で戯曲『ニーベンルグの指輪』の話が出てきましたが、書きやすくするためにちょこちょこ削っていますし、作者の理解不足もあると思われます。どうかご容赦を…
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