私の番?
暴力シーンが出てきますので苦手な方はご注意ください。
(ヘーゼル視点)
誰かが私の名前を呼んでいる。
宿屋から帰ろうとして、馬車に詰め込まれて連れてこられたのは、懐かしい私の生まれた屋敷だった。
お父様が連れ去られて、屋敷から家族で出て以来だから2年以上ぶりだ、まさかこんな形で帰ることになるとは。
私を攫った男達に引きずられて、床に投げられた。ここは。。。私が使っていた部屋だ。
今はミランダが使っている様で、悪趣味な絵とかが飾られていたが、家具も壁紙も全て昔のままだった。
部屋のソファに座っていたのはミランダだった。私を見ると、憎々しげにお茶が入っていたカップを投げつけてきた。
カップは頭に当たったがお茶は緩かったので、火傷にならずに済んでよかった。
「何であんた、戻ってきたのよ。あの屋敷のメイドを首になったの?」
ミランダは私の方に近づいてきた。私は足と手が縛られているので動けない。
「まあ、今じゃ私は伯爵令嬢であんたは平民のメイド。比べるまでもないわね。そんな安っぽいドレスで、何で布巾なんか被ってるのよ」
とミランダは、汚いものを掴む様にして布巾を剥ぎ取る。
「そうそう、この薄汚い灰色の髪。ハムスティード家の証だか知らないけど、昔から嫌いだったわ。その点、私の髪は完璧だし、ミカエル様にもピッタリだと思うわ」
ミランダは金のメッシュが入った茶色の髪を自慢げに触る。
私はついかっとなり、
「そんな事ないわ、ミカエル様は私の髪が大好きだって、いつも撫でてくれるもの」
と言ってしまった。
しまった!!と思った時にはもう遅かった。ミランダが顔を歪めて睨んでいる。
「は?ミカエル様があんたみたいなメイドにそんな事するわけないじゃない」と私の背中を何度も蹴ってくる。
そしてニヤッと笑うと。
「そんなバカな事言わない様に、あんたの髪は切っちゃいましょう」と言って、鏡台から大きな鋏を出してきた。
「どうせなら丸刈りにしましょうか?動くと顔も切れちゃうわよ」とミランダが鋏のチョキチョキ音をさせながら、近づいてくる。
これは。。大変にまずい。
私は立ち上がる事ができないので、ゴロゴロ転がって逃げる。
「そんな事で逃げられるわけないでしょう!」ミランダは私の上に座って髪を引っ張る。
そして馬乗りになられたので、上手く息ができずに意識が朦朧としてくる。でもミランダが私の髪をつまみジョキっと一房切った音が耳のそばで聞こえた。
「や。。やめて」
その時ドアがノックされた。
「ミランダ、何をやっているんだ?今度は何が気に食わないんだ?ミカエル様がきてくれたんだぞ」と伯爵の声が聞こえる。
「え?ミカエル様!」
ミランダは小声で大人しくしてなさいよと言って、鋏を放り投げ。私の頭を蹴った。
全てが真っ暗になった。
私の名前を呼ぶ声はまだ聞こえる、どうやら泣いている様だ。
「ヘーゼル起きてくれ、目を開けてくれ」
ミカエル様??
「お前、ヘーゼルを離せ。医者に見せられないだろう」
お兄様の声もする。
私が目を開けると、目の前にはあの黄色の目が見えた。
「ヘーゼル!!大丈夫か!俺がわかるか!」とぎゅうぎゅう抱きしめられる。
「ミカエル様。。く。。苦しいです」
「ミカエルてめえ。ヘーゼルから離れろ」
とお兄様がミカエル様を私から引き剥がす。
すかさずミカエル様は拘束魔法をお兄様にかけようとするが、お兄様も防御魔法を出して応戦してる。
その間にエルドラド様がスッと寄ってきて、私を抱える。
「こいつらは放っておいて、医者のところに行こう、頭の傷は小さそうだが血が出ているじゃないか」
ミカエル様とお兄様は動きを止めて、駆け寄ってくる。
「エルドラド、俺が運ぶ。ヘーゼル悪かった」
「殿下、妹は私が」
「君たちはただついて来なさい」とエルドラド殿下が冷たい声で言うと、2人とも大人しくなった。
部屋のドアは壊れて、ミランダが床に倒れていたが。殿下は彼女が見えないのか、気にしないのか思いっきり踏みつけていった。下からぐえっと言う声が聞こえた。部屋の外では伯爵が拘束されている。
部屋の外にいた執事に
「医者を呼んでこい。女医か男医なら高齢の者を、あと客室はどこだ?」
執事は近くにいたメイドに医者を呼ぶように行って、私たちを部屋に案内する。
殿下が私をベットに寝かせると、後ろから大人しくついてきた2人に。
「ミカエル、医者が来るまでヘーゼルちゃんに付き添ってろ、エバン、お前はまだ伯爵とやる事があるだろう」と言って、お兄様を引きずって言った。
やっぱりエルドラド殿下は王太子なんだな、1番怖い。
ミカエル様は私の手を握って、
「守れなくてすまなかった」と悲しそうにしている。
「でも助けに来てくれましたよね。もう体調は大丈夫なんですか?」と言うと
「君はいつも俺の心配ばかりしてるな」とミランダに切られた場所を触って、
「こんな綺麗な髪なのに」とボソッと呟く。
「ミカエル様、髪の毛はまた伸びますから、でも本当に殺されるかもと思って、そうしたらもうミカエル様に会えなくなると思ってそっちの方が怖かったです」と私が言うと。
ミカエル様の手が震え始めた。
「俺もヘーゼルがいなくなったと聞いた時は、心臓が張り裂けると思った。俺は君なしでは生きていられない、だからやっとわかったんだ、何で初めて会った時からこんなに惹かれているのか。君は僕の番なんだ」
「番って、あの唯一のパートナーって言うあの番ですか?昔の物語にある様な?」
まだ祖先が動物の形をしていた頃の話よね。
「ああ、俺たちは夜行性が強く出ているし、先祖返りの血も強い。物語に出てくる様な周りが見えなくなる様な激しい衝動ではないが、俺はヘーゼルの近くにいないと寂しくて寝られなくなるし、いなくなると考えるだけで胸が苦しくなる。そしてヘーゼルからはいつも落ち着く良い匂いがするんだ」
それを聞いた時、私の心臓もドクンと音を立てた。
「私もこの2週間、寂しくて早くミカエル様と一緒にお屋敷に帰りたかったです。そして今も胸がドキドキします」と言うと。
ミカエル様は私を今度は苦しくない様にそっと抱きしめ、
「本当に嬉しい。もう俺を1人にしないで欲しい。ヘーゼル、僕と本当の番になって?結婚しよう」と言って、ミカエル様は私のおでこにキスをした。そしてその唇を下の方に動かそうとした時。
「医者が来たぞ。。おい、ミカエル!何やってんだよ!」お兄様の登場だ。
「はーい、2人ともこちらの女医の先生が診察するから部屋から出て」とエルドラド殿下が女性の先生と共に現れた。
先生は頭と背中の蹴られた所を丹念に診察してくれた。
「頭の傷は血はもう固まっているので大丈夫と思いますが、消毒しておきました。頭痛とかはないですか?一応、今日は念のため寝る時も誰かと一緒にいてください。執事にメイドを常駐させる様に言いますので、体の打撲は背中だったので、あざはできていますが数日で消えるはずです。ただ明日あたりもっと痛むかもしれません」そう言って、頭の傷にガーゼを貼ってくれて、落ちない様に包帯を巻いてくれた。
診察が終わって、先生がみんなを部屋に入れると。包帯を巻いた姿が痛々しかったのか、
「「あの女、許さない」」とミカエル様とお兄様の声が同時に聞こえた。
「ヘーゼルちゃん、頭の打撲は怖いから動かさない方が良いね。数日ここで休んで、大丈夫そうなら王都に戻れば良いよ。今夜は誰かがついていないとダメなんだよね。メイドの手配をしてくるよ」とエルドラド殿下が言うと、
「「俺が一緒にいる」」
ミカエル様とお兄様、息がピッタリだわ。
本当は仲がいいのかしら。
「ヘーゼルは俺の妹だ、家族として当然だ」
「ヘーゼルは俺の番なんだよ、俺が残る」
また揉めそうだなと思った時に、部屋にお母様が入ってきた。
「私が娘についていますので、おふたりとも、今回の後処理をしてきなさい」
「お母様!!!」
「全く、エバン。あなたは何をやっているのですか、妹のことも守れなくて」
「申し訳ございません、母上」と言うお兄様の顔が青ざめている。
「そしてミカエル様、あんな強靭な追跡魔法を娘にかけているでしたら、怪我をする前に助け出してください」
「申し訳ございません、前ハムスティード伯爵夫人」ミカエル様も目が合わせられないようだ。
お母様の圧勝だった。て言うか追跡魔法ってなあに?
誰よりも強いのはエルドラドかそれともヘーゼルの母か?




