二度と開かない扉 「忘れ去られた呪文の扉」
第74話目とての投稿作品は、カクヨムの自主企画「2000文字以内でお題に挑戦!」のお題「忘れ去られた呪文」に対して書いた、『ファンタジー的なSF作品』です。
悠久の歴史の流れなどと言いますが、何処の国でも識字率が高くなったのは、つい最近のことだったりします。
一部権力者階級だけが文字を知り知識を持っていれば良いとの考えがあり、庶民が文字を覚え知識を得ることを凄く嫌いましたからね。
だから様々な伝承を伝えるのも、前任者から後継者への口伝えでした。
千夜一夜物語『アリババと40人の盗賊』に出て来る、洞窟の秘密の入り口を開けるための呪文「ひらけごま」程度であれば、簡単に伝承も出来たのでしょう。
とある場所に、呪文で開く秘密の扉を管理する一族が住んでいました。
実はこの秘密の扉は、遥か昔に滅んだ超古代文明のわずかに残った遺産の残滓、いわゆる核シェルター的な丈夫な避難施設で、最奥には極超低温と脱酸素、そして真空乾燥で食料品を長期保存するための食料備蓄プラントもあったのです。
だから本当は呪文ではなく、音声認識方式のパスワードが鍵だったんですけどね~
避難施設なのですから、パスワードを知っていて唱えさえすれば、住民は誰でもここに避難出来たわけですね。
この秘密の扉を開けるには、扉の前で誰かが正確な呪文を言う必要があります。
でも欲深い身勝手な人物が管理者一族の代表となった時、秘密の扉の先にある施設を全て独り占めしたくなってしまい、一族の誰にも相談することなく、合意や賛同も得ることなく、勝手に管理者権限で長い長い呪文に変更してしまいました。
呪文のイメージは「じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ くうねるところに すむところ
やぶらこうじの ぶらこうじ ぱいぽ ぱいぽ ぱいぽの しゅーりんがん しゅーりんがんの ぐーりんだい ぐーりんだいの ぽんぽこぴーの ぽんぽこなーの
ちょうきゅうめいの ちょうすけ」ってくらいに長くて訳が解らない感じですかね~
更に欲深い管理者たちは、何時の間にか後継者と決めた1人にだけにしか口伝しないって、厳しいルールまで作ってしまいました。
でも永い時がたつにつれ、管理者一族の代表が代替わりするにつれ、口伝では長すぎる呪文は一言一句間違わずに伝える、そして正しく言うことが出来なくなるものなのです。
数百年後、久しぶりに秘密の扉を開けようと訪れた新たな管理者一族代表は、先代の管理者代表から口伝で教えてもらった呪文を、間違わないように慎重に丁寧にゆっくりと、秘密の扉の前で唱えます。
しかし、口伝された呪文を何度唱えても「開錠コードエラー、パスワードが間違っています。もう一度パスワードを唱え直してください」の音声メッセージが出るばかりで、一向に扉が開きません。
先代管理者にもう一度呪文を教えてもらおうにも、呪文を唱えてもらい秘密の扉を開けてもらおうにも、残念ながら既に痴呆の症状が出ていて、呪文を正しく覚えていないのか、扉が開くことはありませんでした。
最後には強硬手段で扉を破壊しようとしましたが、超古代文明の謎金属製の強固な扉には、その当時の最新科学技術をもってしても、小さな傷一つすらも付けることが出来ませんでした。
扉周囲の岩盤を掘削してもみましたが、上下左右何処を掘ったとしても5~10メートルも掘削すると謎金属製の強固な壁に阻まれてしまい、やはりそれ以上の掘削は出来ませんでした。
反対側や他方向からの掘削等も試みましたが、最終的には必ず謎金属製の強固な壁に阻まれてしまいます。
そしてそれ以降、二度と秘密の扉が開くことはありませんでした。
長い長い呪文が口伝では無くて、文字で書かれた呪文として伝承で残っていれば、只々書かれた呪文を読み上げるだけなのだから、誰でもが何時でも簡単に扉も開けられたでしょうに・・・
そして永い永い時が流れて、扉は一度も開くことが無いまま、現代に至る訳です。
その秘密の扉『忘れ去られた呪文の扉』の前には、今日も扉の開錠を目指して大勢の挑戦者が訪れ、口伝されたとされている長い長い呪文を一生懸命に唱えています。
でも残念ながら今日も「開錠コードエラー、パスワードが間違っています。もう一度パスワードを唱え直してください」の音声メッセージが虚しく響くばかりです。
今では開錠挑戦者だけでなく、物見遊山で世界中から大勢の観光客も途切れることなく訪れるようになり、世界的にもかなり有名な観光名所となった『忘れ去られた呪文の扉』は、ついに今年申請が通り、超古代文明遺跡の世界遺産として登録までされてしまいましたが、今日もまだ扉は開きそうにありません。
ま~「今回でパスワードを10回連続で間違えましたので、緊急用の壊滅装置を起動します。600秒前からカウントダウンを開始しますので、今直ぐにこの場所から待避をお願います。600、599、598・・・」って、恐ろしい音声メッセージがいまだに流れ出て来ないだけでも、今はもう滅んでしまったであろう古代人たちは、とっても心優しい性格だったのかも知れませんね~




