85.春銭太夫の呪い
念のため言っておきます。
春銭太夫は改心なんかしていませんし、過去の悪行を反省したりもしません。
……ただ、今の娯楽が取り上げられるのは嫌ってだけです。
(一条院 宗雪視点)
「……えっと、何の冗談かな?……というか、ほんとに春銭お姉ちゃん?」
春銭太夫が綾香の肉体を乗っ取って目覚めた直後、夏死忌はそう春銭太夫に問いかけていた。
「冗談じゃないさ。……何というか、今のあちきは綾香の視点を見るのが好きでねぇ……それを邪魔されるのは困るんだよ」
「……へ~、つまり裏切るんだ~……きゃはっ!」
「何がおかしいんだい?」
目の前で交わされる会話を、俺様は全く理解出来ずに居た。
……だが、時間は待ってくれない。
「つまり~、何の躊躇もなく春銭お姉ちゃんの首を吊れるって訳で……」
「ハァ……あちきがそう簡単に吊らせるとでも?……ほんと、少し見ない間に偉くなったもんだねぇ……」
ーぞわっ……
「「っ!?」」
ービクッ!
「お、お前本当にあの春銭太夫か!?」
明らかに、前……いや、原作ゲームとは別物だ。
……少なくとも、俺様が知っている春銭太夫はこんな恐ろしいオーラを醸し出してはいなかった。
「……やっぱり、前と違う……プライドの高さと実力が釣り合ってなかったのが春銭お姉ちゃんの弱点だったのに、何か予想以上に隙がないし……」
夏死忌も違和感に気付いたらしい。
……が、その時には全てが遅かった。
「さて、取り敢えずこの地味な服装は嫌だねぇ……ちょいと変えようか」
ードロッ……ドロドロ……
「「っ!?」」
春銭太夫は、かつて自身が異形の形態に変化する時に出した黒い泥らしきものを生成し、自身を覆い隠した。
そして、その直後には泥が消え……
「……うん、こんなものかねぇ」
……その服装は大きく変わっていた。
一般的なTシャツとスカートの組み合わせだった衣服は、豪華絢爛かつ妖艶な黒い和装に変化し……
ゴムで纏めていたお団子ヘアーは、数本の豪華な簪によって纏め直されていた。
「……う~ん、これは放置したらマズいかも……さっさと首を絞めちゃおう!……きゃはっ!」
ーニョロニョロニョロ……
危機感を感じた夏死忌は、髪の毛で出来た腕を何本も春銭太夫に伸ばした。
しかし……
「【光線眼】だよ!」
ービュン!ビュン!ビュン!ビュン!
「チッ!」
ーバシュ!バシュ!バシュ!バシュ!
……夏死忌が伸ばした髪の毛の腕は、全て春銭太夫の【光線眼】から放たれた光線によって貫かれた。
「……ま、これもあちき達にとっては延命にしかならないけどね」
「延命って……そもそも、俺様としてはお前を信じて良いのかも分からねぇし……」
「疑うのは勝手だけど、せめて手だけでも動かして欲しいねぇ……」
「わ、悪かったな!」
……本当に、綾香は返して貰えるのか……
その真偽すら、俺様には分からねぇ……
と、そんなタイミングで……
「春銭お姉ちゃん、本気で私達に牙を向けるつもりなの?」
「……そうせざるを得ないってだけだがね」
「なら、1つ聞かせて?……どうして、前までの高慢さがなくなってるの?」
突如として投げられた、夏死忌の質問。
それは、俺様も気になる事だったが……
「……殺されて、鼻っ柱をへし折られた……としか言えないかねぇ……」
「何だそりゃ」
「……だとしてもやりにくい……首、吊れない……」
こうしている今も、春銭太夫に隙は見つからねぇ。
……原作ゲームだと、立ってるだけで隙だらけだったってのに……
「……とはいえ、どうしたものかねぇ……生憎、あちきも夏死忌を倒せる力は持ってなくてねぇ……」
「マジかよ……となると、やっぱりどうにか本体にダメージを行かせるしか……」
基本的に、俺様達が夏死忌の本体に攻撃を加える事は出来ない。
しかも……
「……あ~もう、訳が分からなくて混乱しちゃってたじゃ~ん!……私は2人の首を吊るだけ、以上!……きゃはっ!」
ーニョロニョロニョロ……
「うげっ!……勢い増しやがった!」
混乱から立ち直った夏死忌が、更に勢いを増して襲いかかって来たのだ。
「ハァ……【光線眼】だよ!」
ービュン!ビュン!ビュン!ビュン!……
「お、俺様も妖力弾だ!」
ードドドドドドドドドドドド!
春銭太夫は再び【光線眼】から幾多もの光線を発射し、同時に俺様は髪の毛の腕全体に対して妖力弾による絨毯爆撃を食らわせた。
……のだが……
「きゃはっ!……そんな攻撃、私にはぜ~んぜん効っきませ~ん!……ざ~こざ~こ!」
「ぐぬぬ……」
いくら攻撃しようとも、夏死忌の本体にダメージが通る事はない。
万事休す……
そんな言葉が頭に浮かんだ時だった。
「ふふ、そろそろかねぇ」
「あ?……何がだ?」
突然、春銭太夫が思わせぶりな発言をした。
直後……
「ぐはっ!……何これ……どうして……私の異空間が……縮小して……」
……突然、夏死忌が苦しみ出したのだ。
「くっくっくっ……夏死忌、あんたはあちきに力を与える際、あろうことかあちきとの"繋がり"を作っちまった。……そこを辿れば、あんたにちょっとした"呪い"を付与する事だって簡単さね」
「「ハァ!?」」
……い、意味が分からねぇ……
いくらそんな"通り道"があったところで、そこを辿って"呪い"を付与するとか無理があるだろ……
「ま、こんな矮小な"繋がり"を通せる程度の"呪い"はあんまり強く出来ないからねぇ……最低限、あんたを無力化する程度の……"幽獄の呪い"ってもんを付与させて貰ったよ」
「がはっ!……そんな"呪い"……聞いた事も……」
「当然さ!……何せ、死後のあちきが作った"呪い"だからねぇ!」
「ふざけないで!……ううっ……私の動きが……どんどん……制限されて……」
機嫌良く"呪い"の詳細を語る春銭太夫の言葉を裏付ける様に、夏死忌が出していた髪の毛で出来た腕はどんどんとその数を減らしていった。
「"幽獄の呪い"の効果は、その名の通り行動の制限ってだけだ……でも、その間あんたは異空間を通じてちょっかいを出すって戦法が使えなくなる」
「ハァ……ハァ……う……嘘……でしょ?」
「ま、あんた程の"呪い"の専門家なら、しばらく解呪に専念すれば何とか無効化は出来るだろうけど……その頃には、とっくに上層部があんたの命令外行動に気付いてる筈さ」
「あっ……あっ……」
一時的な呪いで行動を制限しつつ、夏死忌が解呪した頃には敵の上層部が夏死忌の命令外行動に気付いてるだろうから報復はして来ない……
もしその通りなら、とんでもない"一時しのぎ"だ。
「……ただ、俺様としちゃその命令外行動ってのは疑わしいがな」
「いいや、十中八九そうさ。……現に、珍しく夏死忌が狼狽えてる。……こりゃ、このままだと怖い鬼の上司から大目玉食らうのが確定してる証拠さ」
「あっ……嫌だ……怒られたくない……」
……俺様の記憶が正しけりゃ、夏死忌は自分の命すら軽く見ている自殺志願者だった筈だ。
そんなこいつがここまで恐怖を感じる相手といえば、ほぼ確実に死獄童子しか居ねぇだろう。
「さて、そろそろ帰ってくれないかねぇ……」
「嫌だ……何も出来ずに退散したら……本当に大目玉を食らう……こ……と……に……」
ーとぷん
「……消えちまったな」
夏死忌は最後まで抵抗していたが、最終的に異空間への道を開けていた泥らしきものは、跡形もなく消え去ってしまったのだった。
「さぁて、これであちきは戻るだけなんだけど……最後に1つだけ、置き土産を残して行こうかねぇ」
「ハァ?……何を言っ……」
「ちゅっ♥️」
「んっ!?」
春銭太夫は突然、俺様にキスしやがった。
だが、体は綾香のものなので、乱暴に引き剥がす訳にも……
うわっ、舌まで入れて来やがった!
「……ぷはっ♥️!……ごちそうさん」
「ハァ……ハァ……さっさと綾香を返せ!」
「言われなくても……あ、服も戻しておこうかねぇ」
ードロドロ……
そうして変わっていた和装は泥の様に溶け、元の服に戻った。
……それはそうと、最後くらい感謝の言葉を伝えてやるか……
「春銭太夫……今回の件は貸しにしてやる」
「ありがたいねぇ……にしても、いい加減侮蔑の目を向けるのは辞めてくれないかい?」
「ごちゃごちゃ煩い!」
「はいはい。……じゃ、代わるよ」
いくら綾香の体でも、受け入れられねぇキスはあるんだよ!
「……ん?……今、代わるって言っ……」
「うわぁぁぁぁぁぁ!……春銭太夫、何て置き土産してくれとるんやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うおっ!?……あ、綾香か?」
「せやよ!……ほんま、出来る事なら今すぐにでも穴に潜りたいわぁぁぁぁぁぁぁ!」
ちゃんと約束?通り、春銭太夫は綾香に体を返してくれたらしい。
代償に、綾香の尊厳を少しだけ破壊して……
ご読了ありがとうございます。
"倒す"のは無理でも、"帰らせる"事は可能なのが春銭太夫の呪い……だけど、夏死忌の本体に使用可能ならばもっと強い呪いも使えます。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




