80.秋楽の人選ミス
秋楽は黒幕気取りの小物です。
(秋楽視点)
「ハァ……坊っちゃん、まだ萌音さんは見つからないでヤンスか?」
「ごちゃごちゃ煩い!……いくら何でも、戦いの近くには居ない筈だが……僕ちんをコキ使っておいてその言い方は何だ!」
綾香さんを夏死忌さんに任せたあっし達は、そのまま"五獣の宝玉"を持っている萌音さんを捜索してたでヤンス。
「……それにしても、我ながら綺麗に分担出来たでヤンスよ」
「どういう事だ?」
「捕捉出来てた人達は強い栄螺鬼の所に転移させたでヤンスし、懸念事項だった綾香さんも何とかなったでヤンス。……それと、どうも宗雪さんもさっきの所で夏死忌さんと衝突したみたいでヤンスし……」
「そうか……」
この屋敷内に居る人達の動向は妖気で把握してるでヤンスが、今のところは何とかなってるでヤンスね。
「ただ、気になってる点もあるでヤンス」
「どういう事だ?」
「……"栄螺鬼・変"が全く行動を開始してないんでヤンス!」
「ハァ!?」
あっしが作った5体の複合栄螺鬼……
その内の1体である"栄螺鬼・変"は他者への変化を得意とする個体の筈でヤンスが……未だに人の気配が全くない所から動いてないんでヤンス……
……あっ……
「そういえば……」
「ど、どうした?」
「……あいつ、小鬼の柊さんと仲良かったでヤンスね……」
すっかり忘れてたでヤンスが、あの2人は時々一緒に行動してたでヤンス……
「そ、その柊?……とかいう奴が何か問題なのか?」
「先日、決別宣言からの音信不通になった部下でヤンスね……」
「……お前等、僕ちんが言うのも何だが大丈夫か?」
「……いや、追っ手を差し向けたいのは山々なんでヤンスが、あのカジノの経営者達を敵に回すのは得策じゃないというでヤンスか……」
あぁぁぁぁぁぁぁぁ!
完っ全に人選ミスったでヤンス!
「どうしてそんな奴を連れて来たんだ!」
「だって、改造したのは柊さんと音信不通になる前だったでヤンスし……それに、臆病な奴でヤンスから裏切る事はない筈で……」
「寧ろ臆病者である程裏切るだろ!」
うぅ……
命令を聞かない部下は力で捩じ伏せるのが死獄童子様やあっし等のやり方でヤンスから、臆病者である程に扱いやすいんでヤンスが……
「そう言われたら、確かにそうでヤンスね……命令を聞かない奴は力で捩じ伏せてたから失念してたでヤンス……」
「……僕ちんもそのやり方には賛成するが、臆病者は時々変な方向に爆発するからな?……僕ちんも、それで痛い目を見た事がある……」
坊っちゃんは正真正銘クズで無能なんでヤンスが、結構エグい経験して来てるからかこういう視点は正常だったりするんでヤンスよね……
と、そんなタイミングでヤンシた。
「……坊っちゃん、無駄話もここまででヤンス」
「何で……って、そういう事か……」
ちゃんと位置は把握出来てた筈なんでヤンスけど……まさか、ここで遭遇しちゃうとは思わなかったでヤンス。
「あれ~、さっきぶりだね?……おじさん、もしかして運が良いのかもね」
「蓮業さん……でヤンシたか?」
三愛院 蓮業……
かなりの強者だと聞いてるでヤンス。
「うん、そうだよ。……あ、この屋敷のあちこちで起こってる戦いの様子を見てみたんだけど……ほんと、やってくれちゃったね?」
ーぞわっ……
「……怒ってるでヤンスか?……なら、ここはさっさと逃げさせて……」
また坊っちゃん諸共【逆転】で転移しようと思った、その瞬間でヤンシた。
「ふぅ……【簡易五行結界・御前試合】……」
ーシュルシュルシュル……
「これは……逃走防止の結界でヤンスか?」
蓮業さんが【簡易五行結界・御前試合】と唱えた瞬間、あっしと蓮業さんを囲む様に白い縄の様な物が敷かれたでヤンス。
「そうだよ。……これは、どちらかが負けない限りどっちも出れない結界……ただし、結界自体はいくらでも拡張可能だけどね。……ま、2人以外は結界に入れないって制約もあるけど」
「……あっしの逃走を防ぐために、ここまでするでヤンスか……」
蓮業さん、完全にあっしを仕留める気満々じゃないでヤンスか……
今回ばかりは、本気でやるしかないでヤンスね。
「さて、それじゃあ戦おっか?」
「……坊っちゃん、そこら辺の栄螺鬼は坊っちゃんの命令も聞くでヤンスから、後はそいつ等を使って上手くやって欲しいでヤンス!」
「ぼ、僕ちんが!?……わ、分かった……」
ータッタッタ……
あっしの言葉を聞いた坊っちゃんは、すぐにこの場から立ち去ったでヤンス。
「……ありゃりゃ、逃がしちゃったか……とはいえ、おじさんにしてみれば君が1番警戒しなきゃいけない敵なんだけどね?」
「あはは……それじゃあ、あっしもそろそろ本気を出すとするでヤンスか……」
ーバサッ!
「っ!?……い、いきなり上半身の服を脱ぎ捨ててどうしたんだい?」
あっしは着用していたスーツやワイシャツを脱ぎ捨てて、上半身裸になったでヤンス。
そして……
「手を変え名を変え品を変え……目指すは頂点、大逆転!……天邪鬼の秋楽、この名を冥土の土産にするでヤンス!」
ーメキメキメキ……
……名乗り口上を上げたあっしの額からは2本の角が生え、あっしの全身に金色の雲をモチーフにした刺青が浮かび上がり、最後に金色の羽衣が出現してそれをあっしが着用したでヤンス。
「ふ~ん、さしずめ第2形態ってところかな?」
「そうでヤンスね。……さ、殺り合うでヤンス!」
「うん、望むところだよ!」
こうして、あっしと蓮業さんの勝負が幕を開けたでヤンス。
……当然、負ける気なんてサラサラなかった筈でヤンスが……世の中、そう上手くは行かないでヤンスね……
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(三愛院 萌音視点)
「ひぃ~!……綾香、もし萌音が死んだら呪ってやるのだ~!」
ードタドタドタ!
萌音は今、"五獣の宝玉"?……とかいう掌サイズの水晶玉を持って、八笑院家の中を走ってたのだ!
「それにしても、あちこちに栄螺鬼は居るし、どうなってるのだ?」
何が起こってるのかは分からないけど、絶対マズい事になってるのは理解出来るのだ……
「……うん、やっぱり下手に動き回らない方が良さそうなのだ……」
このまま走ってれば、他の皆と合流出来るかもしれないのだ……
でも、それは厳しいのだ。
「……あ~あ、これはどうしたら良いのだ……」
萌音に出来る事は何なのだ?
そう、考えた瞬間だったのだ。
「サ、サザエ……サザッ!?」
「ん?……この声は……」
突然、他の栄螺鬼より弱々しい栄螺鬼の声が聞こえて来たのだ。
気になった萌音は、その声の方向に行ったのだ。
そしたら……
「サザ~!」
ーポロポロポロ……ずびっ!
「……な、泣いてるのだ?」
声が聞こえて来た場所付近の軒下を覗くと、奥に1体の栄螺鬼が居たのだ。
そこに居た栄螺鬼は、他の個体とは全く違う見た目をしてたのだ。
他の栄螺鬼が歪な人型軟体生物みたいな見た目なのに対して、この子はそれに狢を混ぜて愛嬌を足したみたいな……
ただ1つ言えたのは、この子が他の個体よりとにかく可愛くて、かつ悪意がないって事だけなのだ。
「サザ……ドウシテ……コンナコト……マタ……ヒイラギチャンニ……アイタイ……サザエ……」
ーポロポロ……ずびっ!
……うん、この子は大丈夫なのだ。
見た目だけじゃなくて、直感がそう判断してるのだ。
だから……
「……君にだけ、見える様にするのだ」
「サザッ!?……ダ……ダレ?……コロサナイデ……」
「殺さないのだ。……ところで、君はいったい何が出来るのだ?」
「ヒトニ……バケレル……サザエ……」
「……だとしたら、とことん能力と性格が合ってないのだ……」
取り敢えず、敵意がない事は伝えられたのだ。
……でも、この出会いが萌音にとって大きな出会いを持つ事になるなんて、この時の萌音は想像だにしていなかったのだ……
ご読了ありがとうございます。
さて、次回から戦闘を書いていかないと……ここが悩み所なんですよね……
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




