62.借り物競走決着!
借り物競走、マジで盛り上がるポイントがない……
(九相院 桜視点)
「……ハァ~……何かこう、来るものがあるでありんすね~……」
「いや、何1人で勝手に涙ぐんでるんだァ?」
空助の借り物競走を見てから、美乱御前の様子がかなりおかしい。
……何故か涙ぐんでやがるし……
「いや、さっきの借り物競走を見てると……いずれは怪良も空助君のお嫁さんになるんだって思い知らされるんでありんすよ~!」
「……結婚が決まった娘を前にした父親っぽい事を言ってんなァ……」
親バカもここまで来ると重症だなァ……
……その割にあっさりと怪良と空助の婚約を認めたのは、多分本気で娘の幸せを考えられているからなんだろうなァ。
「そういう桜は、婚約を父親から反対されたりしなかったんでありんすか?」
「……退魔師の女にとって、政略結婚の駒にされる事なんて珍しくもねぇ。……オレも、そんな感じだ」
「そ、そうでありんすか……」
「……ま、そもそもオレは死産だった赤子の死体に憑依して肉体を蘇生させただけで、言っちまえば"成り代わった"も同然なんだがなァ……」
いくら桜の両親が知ってるとはいえ、オレはあの2人の実の娘じゃねぇ。
……その体を借りパクしてるだけの、惨めな狂骨だ。
「ふ~ん……そっちも大変でありんすね……」
「他人事って感じだなァ……」
「実際、他人事でありんすし……」
「……まァ、そうかァ……」
……何か気まずいなァ……
そもそも、美乱御前と話す話題がねぇんだよなァ……
「……あ、残ってた2人が女子連れてゴールに向かってるでありんすよ!」
「あァ?……男子も女子も知らねぇ奴だなァ」
「あ、興味なさげでありんすね……」
「まあ、興味ねぇからなァ……」
誰かも知らねぇ奴等の恋愛模様なんて興味ねぇ。
そんな時間があったら、もっと有意義に過ごすってもんだァ。
「……そ、それはそうとして……次が最後の借り物競走でありんすね……」
「……だなァ……」
そうしてオレと美乱御前は若干の気まずさを感じつつも、沙耶花が出走する第3レースが始まるのを待つのだった……
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(数分後、一条院 沙耶花視点)
「さて、最後のお題はどういったものになるのでございましょうか……」
怪良さんと空助さんは難なくこなされましたが、私も同じ様に……というのは些か厳しいかもしれません。
何せ、2年の出走者は……
「あ~しと一緒に走るのが誰かと思ってたら、やっぱり沙耶っちか~」
……障害物競走で2位の座を射止められた八笑院 麻里様なのでございますから……
「麻里様、絶対に勝たせていただきますね?」
「勝つ気満々でマジウケる~!……でも、そう簡単には負けてあげられないっつ~の!」
……やはり、麻里様も勝ちを譲る気はない様でございますね……
まあ、それはそれとしまして……
「……それにしても、3年の出走者は何処でございましょうか?」
「確かに、全然出て来なくてマジしんぱ~い」
3年の出走者がなかなか出て来られません。
いったい、どうされたのでございましょうか?
そう、思っておりますと……
『あ~……申し訳あらへんのやけど、さっき3年の出走者から棄権の申し出があったわ……』
「え、マジで!?」
「……そう来られましたか……」
まあ、予想は出来ましたが……本当にするとは思いませんでした……
『何でも、第1レースと第2レース見て心折れてしもたみたいでな?……恥ずかしい目に遭うくらいなら次の種目で挽回する、との事や』
「まあ、そうなってもおかしくなかったよね~。……人によってはマジ萎え必至だし……」
「そうでございますね……」
普通、あんなの見せられて出たいと思う人は居ないでございますよね……
『……っちゅう訳で、2人で走ってくれへん?』
「……りょ~か~い」
「承知いたしました」
結局、第3レースは麻里様との一騎打ちになる訳でございますか……
『ほな、位置について……よ~い、ドンや!』
ーパンッ!
そうして私達2人はスタートし、お題が設置されている場所までやって参りました。
そして、そのお題を拝見いたしますと……
「……"仲良くなりたいけど、現時点ではまだそこまで仲良くなれてない人"って、マジ意味不~」
「……私も同じお題でございました……」
ふむ、これは確かに気まずいでございますね……
相手が自分をどう思っているか分からない以上、下手に仲良くしようとすれば逆効果になり得るかもしれない……という意味では、これまでのお題と並ぶ地獄でございますし……
「う~ん……マジどうしよ~……」
『ちなみに、ここで書かれとる"仲良うする"は友情でも恋愛でもどっちでもええで~』
「ブフォ!……ま、マジ何言ってるっつ~の!」
……ふむ、麻里様はなかなか動かれませんね……
なら、私が先手を取りましょう。
「では、私は友情を育みたい方が居ります故」
ータッタッタ……
「えぇ!?……マジで……」
……綾香様が考案しておられる以上、麻里様にも該当する御方が居られる筈でございますが……
そこまで話すのが苦手か、或いは……
……っと、そろそろ到着いたしますね。
「……という訳でございますので、私と共に来ていただきたいのでございますが!」
「……私、借り物競走で走ってばっかりケラな……」
私が話しかけた相手は、怪良さんでございました。
確かに、私共は空助さんの婚約者同士という事もあって親交は深めつつありますが……まだかなり心の壁がある様に感じるのでございます。
「……まあ、これが通るかは少々疑問ではございますが……ただ、今の私共はビジネスパートナー的な関係が強いでございますし……私としては、それこそ親友と呼べる間柄になりたいのでございますが……」
「……そんなに私と仲良くなりたいケラか?」
「ええ。……同じ者を好きになった同士、親交を深めたいと思うのは当然でございますよね?」
「そ、そうケラか……」
……とまあ、そうして私共はレーンに向けて走り出したのでございました。
ただ、それはそれとして……麻里様は何故か1年の控えスペースに向かって走っておられたのが気にはなりましたが……
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(一条院 宗雪視点)
「……ってな訳で、あ~しと一緒に来て欲しいっつ~の!」
「……それを俺様に頼むってのがどういう事か、分かってんのか?」
まさか、麻里があのお題で俺様を選ぶとはな……
だが、そう簡単に首を縦に振る俺様じゃねぇ。
そもそも、敵チームに塩なんて贈ってやるかよ。
「ど、どうしても駄目な感じ~?」
「うっ……し、強いて言うなら沙耶花がちゃんとゴールした後なら行ってやる!」
……ここまで言えば、麻里も諦めるだろ。
俺様はそう考えていたんだが……
「OK~。……ってか、それだけで良いの~?」
「んっ!?……ま、麻里こそ良いのか?……負けが決定するんだぞ!?」
麻里から返って来た言葉は、まさかの承諾だった。
いや、マジかよ……
「そもそも、あ~しが無茶なお願いしてるんだし、その位は譲歩するべきだっつ~の!……寧ろ、ゴール出来るだけ御の字だし……」
「も、物分かりが良いんだな……って、もうすぐ沙耶花達がゴールしちまうぞ?」
「うん。……おめでと~」
「……ああ、ありがとな……じゃねぇだろ!」
何かこう、話してて楽しくはあるんだが……それで良いのか?と思わされるな……
「……って言ってる間にゴールしたし……行くか?」
「じゃ、後はあ~し達だけだし~……さっさとゴールするっつ~の!」
ーぐいっ……
「ハァ!?」
そうして俺様は突然麻里にお姫様抱っこで抱えられると、そのままゴールへと運ばれたのだった……
……にしても麻里、意外と力あるんだな……
ご読了ありがとうございます。
借り物競走と言っておいて、全部人でした……
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




