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38.異形の春銭太夫

春銭太夫戦、開幕です。

(一条院 宗雪視点)


春銭太夫の本拠地が箱根だと判明して数時間後……


「……もうすっかり夜になっちまったが、箱根に到着だな」


「……ここに春銭太夫が居(お)るんか……」


俺様達は箱根にやって来ていた。


「お、あちこちに温泉宿があるなァ。……春銭太夫を倒したら入ろうぜ!」


「それは良いっすね~。……という訳でさっさと済ませるっすよ!」


「桜お義姉様も夏芽お義姉様も、気が早いでございますよ」


「そうですよ。……そもそも、僕達で勝てるかどうかも怪しいというのに……」


「でも、天道は倒せたのだ!」


俺様と綾香以外のメンバーは桜、夏芽、沙耶花、空助、萌音の5人。


"野草"や"隊長"とは富士山の麓で解散した。


「……あのなぁ、天道を倒せたのは知能があまり高くなかったからだ。……それこそ、天道に人並みの知能があれば幻術だって気付かれただろうし……」


「そうだったのだ!?」


萌音の幻術も万能じゃねぇ。


一定以上の知能があれば、幻術だと察するぐれぇは簡単だ。


「……だから、この全員で春銭太夫を強襲する……つもりだったんだがな……」


そう語る俺様の目前には、金髪のチャラ男が1人佇(たたず)んでいた。


「ん?……宗雪はん、どないしたん?」


「……なあ、そこのチャラ男に1つ質問だが……俺様達の情報が筒抜けだったのか?」


「え?……あ、違うでヤンスよ。……あくまでもあっしは、春銭太夫さんの縄張りに変わった方々が来られたのでお出迎えに参っただけでヤンスが……もしかしなくてもそっちの糸目キツネ顔のお嬢さんは五知院家の人間でヤンスかね?」


ふむ、嘘をついてる様には見えねぇし、本当に縄張りに入ったから迎撃に来たって感じか……


と、未だに状況を飲み込めていない綾香が話しかけて来て……


「なぁ、あの人誰なん?」


「まあ、知らねぇよな。……あいつは四鬼の1人、天邪鬼の秋楽だ」


「なっ!?」


「……マジかァ……」


「マジっすか!?」


「本当でございますか!?」


「本当なんですか!?」


「マジなのだ!?」


まあ、そうもなるよな……


ちなみに、秋楽は退魔師側に姿を知られてねぇ。


……というのも、姿を知られたらまた別の姿に擬態しちまうからだ。


「ま、そういう訳でヤンスよ。……まあ取り敢えず、五知院家のお嬢さんだけは通してやるでヤンス」


「……何が目的や?」


「別に?……五知院家は春銭太夫さんと因縁があるそうでヤンスから、春銭太夫さん直々に潰させてあげるってだけでヤンス」


「……ウチ等の事、舐めとるんか?」


綾香だけを通すか……


何が目的だ?


「別に舐めてはないでヤンスが……この軍勢(・・・・)を相手にしている間に春銭太夫さんが逃げるかもしれないでヤンスよ?」


秋楽がそう言った瞬間だった。


「「「「「腹が減った……食わせろ……」」」」」


「「「「「病……ばら蒔く……」」」」」


「「「「「ンモォォォォォ~!」」」」」


「「「「「ガァァァァァ!」」」」」


「……チッ、餓鬼(がき)に瘟鬼(おんき)に牛鬼に……鬼一口(おにひとくち)まで居やがる……」


何処からか餓鬼、瘟鬼、牛鬼、そして鬼一口が現れた。


餓鬼は書物で見る餓鬼そのもの、瘟鬼は確か病を流行らせる鬼だったか……牛鬼は説明不要で、鬼一口は人間を一口で食えそうなぐれぇ巨大な鬼だ。


そのどれもが大群を率いており、そんな怪物共が箱根に潜伏していたという事実に驚くばかりだ。


「この者達は死獄童子様より預かった雑兵の皆様でヤンス。……ま、雑兵と言うには多少強過ぎるでヤンスがね」


「……それに加えて秋楽も相手すると考えたら……綾香、どうする?」


俺様としては、ここで足止めを食らうのは大きな痛手だった。


だが、だからといって綾香1人で行かせるのも……


「……ウチ1人で行くわ……」


「っ!?……大丈夫か?」


「当たり前やろ?……それに、天道はんも居(お)るしどうとでもなるよ」


「……分かった」


心配でしかねぇが、綾香がそうしてぇなら俺様は綾香の意思を尊重するだけだ。


「……っちゅう訳で、通して貰おか?」


「ふぅ……良いでヤンスよ」


そうして綾香は1人、秋楽の横を素通りして行った。


それからしばらくし、綾香の姿が見えなくなると……


「……じゃあ、さっさと始めるか!」


「そう来なくっちゃでヤンス!」


こうして、俺様達の勝負は幕を開けた。


だが、この勝負があんな結末になるなど……俺様は予想だにしていなかったのだった……



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(五知院 綾香視点)


……秋楽の横を素通りしたウチは、そのままある場所へと向かって行っとった。


ちなみに、春銭太夫の居場所は事前に宗雪はんから聞いとる。


せやから、そこへ向かえば……


「……って、ほんまにここかいな……」


ウチが来たんは、この繁華街でも最高級の風俗店やった。


具体的に言うたら、5階建ての建物が丸々その風俗店ってレベルの……


ウチは多少困惑しつつも店内へ踏み込んで……


「……ここに、春銭太夫っちゅう客は居(お)るか?」


そう、店員に聞いた。


そないしたら……


「ああ、彼女はVIPルームにいらっしゃいます。……ご案内しましょうか?」


「いや、場所だけ教えてくれへん?」


店員は催眠にかかっとるみたいやった。


……その割には催眠した人を使わへんのが気になるんやけど……多分、プライドが高いんやろうな……


「……どうしても自分の手で片付けたいんか……」


かなり油断と慢心を感じるな~。


ま、その方がウチにとっては好都合やけど……


「……って、ここがVIPルームかいな……」


VIPルームは、店の最上階に位置しとった。


それと、店外からは5階建てに見えとったけど、実は屋上に豪勢な部屋が建っとって、それがVIPルームやった。


「……入るで」


「あら……あちきを倒そうとしてるっていう小娘はあんただったのかい」


「春銭太夫……」


VIPルームに足を踏み入れると、そこに居(お)ったんは絢爛豪華な衣装と髪飾りで着飾った遊女やった。


「ふふふ……まさか、あちきを取り逃がした事を一族の悲願にしてるとか言わないわよね?」


「……いや、そのまさかやよ」


「へぇ~、暇な一族なのね」


お、怒ったらあかん……


この女に、隙を見せたらあかんのや!


「……ウチはあんたを討ち取って、無念のまま死んでった一族の墓前に吉報を報告するんや!」


「あ~もう、煩いねぇ~。……なら、最初から本気で相手してやろうかしら」


春銭太夫がそう呟いた瞬間やった。


ーパチリ


「っ!?」


春銭太夫の全身の肌に、目ん玉みたいなもんが瞼(まぶた)を開いて現れたんや。


そして……


ードロドロドロ……


「色めき艶(つや)めき煌(きら)めいて、あちきの座敷は死を招く……百々目鬼、春銭太夫……お前の命を散らしてくれようか……」


春銭太夫はそんな口上を吐きつつ、全身の目から黒い泥みたいなもんを出し始めた。


「……これはマズいかもな……」


流石のウチも身の危険を感じて、部屋の外へと避難した。


その直後……


ーバキバキバキ!


VIPルームの壁や天井を突き破って、黒い泥が姿を現し始めたんやった。


まあ、下の階へは突き破ってへんかったのは不幸中の幸いやったわ。


……とか思っとると……


「さあ、死合おうかしら!」


黒い泥が泥はやがて大きな遊女の上半身の様な形になり、その背中には3対6枚の翼が生えとった。


そして下半身は大きな球根みたいになっとって、更にその下からは根ぇみたいなもんが生えとった。


これだけでも充分気持ち悪いんやけど、それで終わる筈もなく……


ーパチリ……ギョロギョロギョロ……


その異形の全身……上半身だけやのうて、背中の翼や下半身の球根、根に至るまでに……大量の目ん玉が現れたんやった。


「ははは……ウチ、これ倒すん?」


そんなこんなで、ウチと春銭太夫による命の取り合いが幕を開けたんやった。


せやけど、まさかあんな事になるとは……この時のウチは思ってもみなかったんやった……

ご読了ありがとうございます。


春銭太夫の第二形態(※今話最後の形態)には、全部で百の目玉があります。


気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。


後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。

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