29.病院での一幕
アイデアが湧いたので書きました。
(一条院 宗雪視点)
河濫沱と夏芽の勝負の数時間後……
「ハァ……アタイ、また1週間入院する事になっちゃったっす……」
「まあ、そうなるよな……」
あの勝負の後に夏芽を病院へと運び込んだのだが、やはり前回同様夏芽には1週間の入院が必要という診断が下されたのだった。
「……後、河濫沱との式神契約についてっすけど……」
「あ、ああ……取り敢えず、もう式神契約は締結されてるから、今後は好きな時に呼び出せるぞ」
「そ、そうっすか……いやまあ、この際あんまり詮索はしないでおくっすけど……これ、杏美先生達にはどう報告するつもりなんすか!?」
夏芽も何だかんだあの脳筋一族の一員なだけあって、河濫沱を式神にした方法なんかを詮索して来る様な事はして来なかった。
……俺様としても、そこは助かった。
だが、同時にこれをどう先生方に報告するかという問題が残された。
「そこは……俺様としては事実を言うしかねぇと思ってるが……」
「……絶対心労で倒れるっすよ?」
そうだよな……
八妖将の一角を式神にしたとか、確実に胃薬必須案件でしかねぇ。
俺様だって、自分が聞かされる身だったらすぐに胃痛を起こすだろう。
「……となると、今は俺様の方で何とかするしかねぇんだよな……」
「自業自得っすけどね?」
「それはそうなんだが、今後の事を思うとだな……」
「……それでも、事前に報告は欲しかったっす……」
……うん、罪悪感がえげつねぇ……
「……すまん」
「別にそこまで気にはしてないっすよ?」
「ほ、ほんとか?」
「……何か、宗雪が借りてきた猫みたいになってるっすね……」
うぐっ……
「いや、婚約早々に婚約破棄なんて避けたいし……何より、俺様が夏芽に嫌われたくないからな」
「……へぇ~、そこまでアタイにベタ惚れっすか?」
「そうだが?」
「へっ!?……あ、取り乱したっす……」
俺様がサラッと夏芽への好意を認めると、夏芽は耳まで真っ赤になってあたふたし始めた。
……夏芽、本当に可愛いな……
「俺様は確かに夏芽が好きだ。……まあ勿論、桜も同じレベルで好きなんだが……」
「わ、分かってるっす……でも、いざ好きって言われると何か照れるっすね……」
「そうやって照れてる顔も可愛いぞ」
「……キスしても良いっすか?」
お、どうも褒め過ぎたらしい。
こういう肉食系の女子って、割と行動力の化身なんだよな……
「良いぞ。……俺様の唇を奪っ……」
「ちゅっ♥️!」
「んんっ!?」
ちょっ、俺様が喋ってる途中だったろ……
まあ良いが。
「んんむ♥️!」
「んんっ……」
「……ぷはっ♥️!……これで1週間は保つ……と良いんすけどね……」
「ぷはっ……別にキスぐらいもっとやっても……」
そこまで言って、俺様はその言葉が間違いだったのを悟った。
何故なら……
「じゃあ、遠慮なくキスさせて貰うっすぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~!」
「ふぅ……どんと来やがれぇぇぇ!」
夏芽は怪我なんてどこへやらと言いたくなる動きで俺様に飛びかかって来た。
そしてそこから数十分、俺様と夏芽はキスを続けたのだった……
そして数十分後……
ーガラガラガラ
「た、大変な目に遭った……だが、夏芽とのキスは悪くなかったな……」
俺様は夏芽とのキスタイムを終え、病室を後にした。
と、そんな俺様に話しかける者が居り……
「よォ相棒、随分とお楽しみだったみてぇじゃねぇかァ」
……そういや、桜には病室の前で待機して貰ってたんだったな……
「……桜、もしかして怒ってるか?」
「いや、別に怒ってねぇよ。……ただ、後で私にもしてくれよォ?」
「お、おう……」
桜も桜で可愛いんだよな……
俺様、原作ゲームじゃ悪役なのにこんな幸せで良いんだろうか……
と、その時だった。
「おや、そこに居るのは一条院家の宗雪様と九相院家の桜様じゃないですの!……奇遇ですわね」
俺様達に向かって声をかけて来た人物が居た。
その人物は、金髪ドリルツインテールの令嬢らしき女性で……
「ん?……って、お前は確か3年の四美院 蘭子か」
……その女性は俺様もよく知る原作ゲームの未実装ヒロインの1人、四美院 蘭子だった。
「……なァ相棒、こいつから変な雰囲気を感じるのはオレだけかァ?」
「いや、間違ってねぇよ。……何せ、こいつの実の母親は美乱御前なんだからな」
「ハァ!?……ま、マジかよォ……」
「いや、割と有名な話だぞ?」
退魔師達の上層部では割と有名な話の筈なんだが……桜は知らなかったみてぇだな。
「……じょ、情報に疎くて悪かったなァ!」
「いや、別にそこまでは……コホン……で、それはそうと何で蘭子先輩がここに……」
「さっきは呼び捨てにしておいて、急に先輩呼びにしてももう遅いですわよ?」
「だ、だよな……」
いまいち、蘭子を何て呼んだら良いのか分からねぇんだよな……
先輩呼びは俺様の性格的に違和感を感じるし、かといって呼び捨てにする程親しくもねぇ……
……もう、一旦呼び捨てで行くか……
「それで、私がここに居る理由でしたわね?」
「ああ」
「それは簡単ですわ。……ただ、任務で怪我をしただけですの」
「そうか……」
俺様達の高校では、1年の時点から普通に退魔師稼業をさせられる。
勿論報酬は貰えるのだが、同時に危険な仕事でもあるからかなり難易度は高い。
「……今回私が担当したのは山姥退治でしたわ。……ですが、その山姥がかなり強敵でして……」
「マジか……」
山姥は原作ゲームにも敵キャラとして登場していたが、少なくとも原作ゲームを含めたこの世界では鬼の一種として分類されている。
……ただ、今の時代に生きる山姥はあまり多くなく、人に危害を加える個体に限定すれば更に絞り込めるレベルで居ないと言って良いだろう。
「……で、お前は山姥程度にやられたのかァ?」
「いえ、討伐そのものは何とか上手く行ったのですが、決め技として放った【四美院バスター】で腰を痛めてしまったんですの……」
「し、【四美院バスター】だァ?」
一見すると令嬢っぽい様子の蘭子だが、その戦闘スタイルは割と物理的だ。
一応、通常攻撃は地面から岩の突起を生やしたりして攻撃する土属性キャラなのだが、必殺技になると全身に岩の鎧を装備した上でキン○バスターそのものな【四美院バスター】で相手の骨にあたる部位を粉砕するという……
絶対に原作ゲームの作成スタッフはキン○マンのファンかプロレスのファンかのどちらかだと予想されていた程のキャラクターだ。
「四美院家現当主の妻にして私の育ての母にあたる方の母上こと、四美院 昇子直伝の技ですわ。……まあ、姉上にはかなり不評でしたが……」
「そりゃ、必殺技がプロレス技をベースにしてりゃそうだろうな……」
何というか、四美院家は二剛院家とは別の方向に緩い一族だ。
だから当主の妻がプロレス愛好家で、長女が音楽馬鹿で、次女が厄ネタの塊という混沌とした状況でも何とか出来てるんだろうが……
「……まあ、私の技は置いておきますわ」
「いや、オレはちょっと納得してねぇんだが……」
「それより重要な事ですの!……今回倒した山姥ですが、どうも八妖将の一角である死獄童子の配下だった様なのですわ……」
「「ハァ!?」」
マジか……
まさか、ここまで八妖将側の動きが活発になってるとは俺様も予想外だった……
「……あくまでも山姥が死に際の置き土産として吐き捨てた言葉ですので、私としても事実かどうかは分かりかねますけど……」
「ただまあ、事実だと仮定するとマズいな……先日の牛鬼の件もそうだが、奴等も動いてるって訳だ」
「……相棒、ぶっちゃけヤベェぞ?」
この短期間で、八妖将側の動きが活発化してやがる。
これは……未来が分からねぇのも相まってマズいとしか言えねぇな……
「では、私はこれで失礼しますわね?」
「あ、ああ……」
「じゃあなァ……」
結局、蘭子は言いたい事だけ言って帰ってしまった。
だが、彼女の報告は決して無視出来るものではなく、今後の対応を考える上で重要な判断材料となるのだった……
ご読了ありがとうございます。
蘭子は別に脳筋って訳ではなく、色々試した結果プロレス技が本人に合っていたというだけです。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。