15.手合わせ反省会
ああ、自然に惚れさせるってやっぱ難しいですね……
(一条院 宗雪視点)
あの手合わせから数分後……
「取り敢えず、お前等の弱点を復習しておこうか?」
「お兄様、申し訳ございません……」
「宗雪様、すみません……」
「宗雪、ごめんなのだ……」
俺様は今、沙耶花、空助、萌音の3人に指導を行っていた。
「まず、沙耶花は夏芽相手に正面から力勝負を仕掛けたのが駄目だった。……あれは1発目の攻撃を上手く避けて、その隙を狙うべきだった」
「その通りでございます……」
夏芽の攻撃は1発目に限れば避ける事が出来た筈なのに、沙耶花は正面から力勝負を仕掛けるという悪手が原因で敗北した。
「次に、空助は勝利こそしたが勝つまでに時間をかけ過ぎだ。……敢えて姿を見せる事で、萌音の本体を誘き寄せるべきだった」
「そうですね……」
空助は勝負こそしたが、あれは萌音相手だったからどうにかなっただけだった。
寧ろ、わざと姿を見せる程度の賭けには出るべきだったな。
「最後に萌音だが……下手に空助に時間をやらず、幻に見せかけて本体を露にするとかやるべきだったな……というか、もっと根本的な話をすると本体の戦闘能力が皆無なのはどうかと思うんだが……」
「ほ、本当にごめんなのだ!」
もう、萌音は完全に後方からのサポート役に専念させるべきだな。
「……ああもう、お前等を上手く指導出来なかった俺様にも責任はあるから、そこまで気に病む必要はねぇが……こりゃ、今後の指導も見直さねぇとな……」
「本当に、相棒は大変そうだなァ……」
「そりゃ、こいつ等には強くなって貰わねぇと困るからな……」
「ただまあ、まだまだ先はあんだろ?……それとも、例のアレかァ?」
「ああ、そうだな」
桜には俺様がお告げで未来を知ったと言っているので、こういう時に話がスムーズで助かる。
と、そこへ……
「お、宗雪は早速皆に指導っすか?……でも、3人とも他の生徒に比べたら充分強いと思うっすよ?」
「「「「「「「「うぐっ!」」」」」」」」
突然会話に混ざって来た夏芽の悪意なき言葉に、周囲の生徒達は気まずそうな表情をした。
「それじゃあ駄目なんだ。……こいつ等には、もっと強くなって貰わねぇと……」
「ふ~ん、どうしてっすか?」
「そりゃ勿論、俺様が直々に指導してるから……」
「え?……てっきり八妖将と戦わせようとしてるんだと思ったっす」
「ハァ!?」
何をどうしたらそんな思考になるんだ……
勿論、俺様だって八妖将と戦えるレベルにはなって欲しいが、俺様ですらまだ力不足なんだから無理があり過ぎるんだよ。
「どうしてそう思ったんだァ?」
「だって、アタイの家の教育方針がモロに八妖将を討伐出来るだけの強さになる事だったっすからね!」
「「「「「……………」」」」」
この辺は、原作ゲームでも明らかになっていた。
……というのも、二剛院家は自らの一族を数院九家における永遠の2番手と自虐しており、常に一条院家を目の敵にしているのだ。
とはいえ、実際は数院九家の順番は実力順ではなく誕生順なのだが、二剛院家は脳筋が多いのでそう勘違いしている部分が大きいらしい。
「……まあ、こんな教育方針が当たり前だとは思ってないっすけど……大豪林主を封印したって噂の宗雪ならあり得るかもって思っちゃったんすよ」
「そ、そうか……そういや他の二剛院家の奴は一条院家を目の敵にする割に、夏芽は別にそんなのがないんだな?」
「だって、そんなの不毛じゃないっすか?……別に、アタイ自身が何かされた訳じゃないっすし……」
「……あの家の人間とは思えねぇ程マトモだな……」
流石は性格の良い陽キャ。
誰にでも分け隔てなく接してくれる。
「それはそうと、実は相談したい事があるんすけど良いっすか?」
「……当ててやろうか?」
「え?」
実を言うと、この相談は原作でもあった。
もっとも、夏芽の相談相手は俺様ではなく空助だったし、大豪林主の封印も行われていないので会話の流れはだいぶ違うのだが……
「……八妖将絡み、だろ?」
「っ!?……ど、どうして分かったっすか!?」
「ん?……まあ話の流れから察した」
ちなみに原作ゲームで空助に頼む理由は、何となく直感的に、というものであった。
……今思えば愚かな俺様を翻弄した実力を買ったんだろうが……無理があるだろ……
「……でも、どんな頼みかは分からないっすよね?」
「まあな」
原作ゲームでは、自分が八妖将の一角に挑むのを補助して欲しいというものであったが……この世界でも同じとは限らねぇので知らないフリをする。
「……まあ、八妖将絡み含め、今ここでするのはちょっとだけ機密的に厳しいっすね……」
「……それもそうか……」
やはり、クラスメートが聞き耳を立てているここでは話しにくいか……
「……という訳で、放課後デートをするっす!」
「ブフォ!……おい、今俺様に何って……」
「放課後デートっす!」
おいおいおい、夏芽は未実装だったとはいえ原作ゲームのヒロインだぞ?
なのに原作ゲームでは敵だった俺様とデートとか……
そういや、元の世界で悪役転生モノといえば、原作ヒロインを自分の恋人にしていく作品がそこそこあったっけ……
いや、それだけは……でも、空助は沙耶花と良い雰囲気だしな~……
……と、ここで桜が助け船を出した。
「おいおい、夏芽って言ったよなァ?」
「そうっすけど?」
「そのデートとやら、オレや沙耶花や空助は行けねぇのかァ?」
「あ~……別に良いっすけど?」
よし、別に2人だけって訳じゃねぇなら大丈夫だ。
……でも、何で最初はデートなんて言ったんだ?
「ぎゃはははは!……夏芽、意外とすんなり諦めるんだなァ?」
「ん?……何の事っすか?」
「え、だってデートしたかったんだろォ?」
「そりゃ、アタイが欲しいのは宗雪からの戦闘に関する指導っすからね。……そこに一緒に来るって事は、皆も特訓したいんすね?」
「「「………」」」
夏芽の言葉に桜、沙耶花、空助の3人が固まる。
「あ~……ちなみに、俺様としたい特訓ってどんなもんなんだ?」
「え?……タイヤ引き10kmに、上体起こし1万回、腕立て伏せ1万回、スクワット1万回、その他諸々っすけど?」
「うん、オレは見てるだけで……」
「私も見ているだけにさせていただきたく……」
「ぼ、僕も……」
「……えぇ~、つまんないっすね~」
軽く語ったけど、普通にやべぇ特訓内容だった。
いや、俺様だって嫌だぞ?
「……一応聞くが、俺様は指導だけだよな?」
「そうっすけど……こんなの、二剛院家じゃ軽い運動っすよ?」
「逆に、よくそんな運動してて女子らしい体型維持出来てるな……」
普通に考えたら、最低でもアスリート体型、下手すりゃムッキムキのボディビルダーみてぇになっててもおかしくねぇぞ。
「それはまあ、二剛院家の体質っすね。……全員、鍛えた分の筋肉がどんどん圧縮されてってるんすよ」
「あ、圧縮!?」
「そうっす!……なんで、アタイの体にも筋肉がびっしりと……」
「わ、分かった……」
そりゃ、沙耶花じゃ勝てねぇよ……
こんなん、ムッキムキの成人男性の退魔師相手にしてる様なもんじゃねぇか……
「じゃ、また放課後に会おうっす!」
「そ、そうだな……」
一応、この学校は入学式の日は午前中で終わるので、午後から夏芽との特訓か……
……俺様が指導出来る事なんてあるのか?
そう思いながら、俺様は夏芽の背中を目で追ったのだった……
ご読了ありがとうございます。
次回、夏芽とのアレコレ!
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




