強化合宿 ~告白~
「何これ! 美味しい!」
「こっちの肉じゃが、味がしみ込んでいて旨い!」
「サラダもシャキシャキしてる!」
そんな感想を述べる小笠原陽彩、大和里見、柏木理沙だった。現在、1-Gの生徒の前には今述べた料理の他に白米、味噌汁、ポテトサラダ、ローストビーフ等々の様々な料理が置かれていたのだった。そしてそんな料理を置いているテーブルは木材で作られた大型のテーブルだった。
「じゃあ、他に食べたい物はある?」
星乃零はそんなことを言うのだった。ではなぜこのような状況になったのかと言うと‥‥
「ここでいいか」
そこはログハウスからかなり離れた所だった。辺り一面何もない殺風景な場所であった。そんな場所に1-Gの生徒がいたのだった。
「星乃君。一体ここで何をするつもりなんだい。今日の食事をどうするか考えないといけないのだが‥‥」
陽彩はそう言うのだった。だが、
「そんなに心配しなくてもいいよ。俺もそろそろ何か食べたいし」
「一体どうするつもり」という前に、零は指をパチンと鳴らすと、いきなり目の前に木材で出来た大型のテーブルが出てきた。
「「「えっ!!」」」
3人はこれでもかと驚いていた。そんな中、柳寧音は何かを感じたのか今まで眠っていた目をゆっくり開けたのだった。
「じゃあ、とりあえず座ろうか」
零は立ちっぱなしの5人を席に案内したのだった。
「それじゃあ、何か食べたい物ある?」
「えっとじゃあ、カレーライス」
「私は肉じゃが」
「スパゲッティ」
「サンドイッチ~~」
「えっと、オムライス」
そう順に答えるのだった。すると僅か数秒で彼らの目の前にいきなり注文した料理が何の前触れもなく現れたのだった。当然だがみんな驚いていた。
「はい、どうぞご注文の料理です。冷めないうちに食べてね」
零は何事もないようにそう言うのだった。彼らは零がこの数秒で何をしたのか全く分からなかった。だが、それよりも空腹の方が勝っていたため一口恐る恐る食べてみると‥‥
「「「お、美味しい!」」」
それから、様々な料理を注文しているうちに時間はあっという間に過ぎていったのだった。
「ふぅ~美味しかった」
「そうか。それは何より」
零は呑気にそんなことを言うのだった。
「だけど星乃君、一体どんな方法でこんなことが出来たんだい?」
「ん~~それは、企業秘密で」
それ以上教えなかった。そんな時、星宮香蓮は手を小さく挙げた。
「あ、あの、星乃君…」
何かを言おうとしたが、それ以上何も言えなかった。だが、体を時折動かしているので‥‥
「あ~、はいはい」
そう言うと指をパチンと鳴らすと、それが2つ出てきたのだった。
「あれがそうだから行ってきなよ」
「えッと、ありがとう‥‥」
そうお礼すると、急いで向かったのだった。
そしてしばらくして香蓮が戻ってきたので、今後の事を話し合う事にしたのだった。
「それで明日から僕たちはどうしたらいいんだろう」
陽彩はそう言うのだった。確かに誰もがその事について考えなければならない。だが、零は
「あぁ、明日からの事だけど…」
そして、翌日…
「はいそれじゃあ、術の特訓を始めます」
と零は目の前にいる5人にそう言うのだった。彼らは今学校のジャージではなく、零が用意した特製のジャージを着ていた。
「えっと星乃君、これを着るようにって言われたから着たけど、これは?」
そのジャージはどこにでも売っているようなデザインだった。
「まぁ、そう言わずに。じゃあ小笠原君、とりあえずあそこにある木に向かって何か術を放ってみて」
そう言ったため木に向かって魔術を放とうとした。だが、
「あ、あれ、出ない?」
確かに手に魔力を込めて初級魔術【アクア・ボール】を放ったはずだ。だが結果は出なかった。
「私も試していい?」
大和里見もそう言い、持っていた木刀の剣を使用し木に向かって【ソニック・スラッシュ】を放った。だが、こちらも発動しなかった。
「じゃあ、説明するね。今着ているのは魔力の流れを妨害する特殊な生地で作られたジャージだよ。ではなぜ発動しなかったのか? 誰か分かる人は?」
そう言うも誰も手を挙げなかった。
「まぁ、結論から言えば詠唱中に無駄な魔力を込めるから発動出来なかったというわけ」
「「‥‥‥」」
「えっと、理解出来たかな? 人に教えるなんてあんまり自信がないんだけど‥‥」
「いや、だって、術はそもそも詠唱がないと発動出来ないんだよ」
術を発動するには魔力が必要である。だが魔力があるだけでは術は発動できない。そこで発動する術に必要な詠唱…つまり起動言葉が必要である。火なら火の起動言葉、水なら水の起動言葉、風なら風の起動言葉が必要なことは全ての術者は当然理解している。だが、彼の言っていることは詠唱を唱えている時点で術が発動できないという事である。
「星乃君、私たちはこれまで詠唱を唱えることで神から授けられる恩恵によって身に宿る術を発動させることが出来ると教えられてきた。君は違うというのかい?」
「…‥神、ね」
『神』という言葉に嫌な顔をした零であった。
「そこで見ていて、本当の術を教えてあげる」
今の零は他の5人と同様に魔力妨害を受けるジャージを着ていた。彼は学校内では術者なのに術が使えないと言われてきたらしい。一体どうするのだろうと見ていると、零が木に向かい合い、人差し指を木に照準を合わせると、何の前触れもなく【アクア・ボール】が飛び出した。それだけの事で驚きだったのだが、さらにその術が木に着弾するとズドォォォォン…と物凄い音を立てて目を開けてみると先ほどまであったはずの木が消失していたのだった…
「これが本物の術すなわち無詠唱術だ」
「炎よ来たれ・我に従い・敵を撃ち倒せ! ファイア・ショット!」
「風の刃よ・風を纏い・敵を斬り刻め! ソニック・スラッシュ!」
「我が肉体よ・何も通さない・強靭な力となれ! ビルド・アップ!」
そんな起動言葉が響き渡った。炎の球、風の刃、強化された剛腕が的と用意されていた岩の人形が砕けてのだった。
「よし、土谷、南里、小田。前回よりも魔力の流れを上手く扱えるようになってきたな」
そう担任の言葉が特訓している他の生徒たちの耳に届くのだった。「おぉー!」、「すごいな」「俺たちも負けてられないな」という言葉があちこちから聞こえるのだった。
「流石は陸翔様。見事な手ほどきです。俺も精進するよう努めます」
陸翔たちの評価に対して他の生徒たちも負けてられないと思い、時間まで懸命に術の向上に取り組むのだった。
そしてしばしの休憩時間‥‥
「お疲れ様土谷君」
「あぁ、森岡か」
森岡絵里。陸斗と同じクラスの1-Bである。彼女は女子テニス部に所属しており、実力もそれなりにあり、おしゃれが好きである。
「いやー土谷君と同じクラスになれるなんてついてるなぁー」
「たまたまだよ」
「おっす陸翔、さっきは凄かったぞ」
「南里こそ、先生に褒められてたじゃないか」
南里和希。野球部に所属しているため、坊主頭がトレードマークである。
「そっちこそ剣術を発動するまでの速度が上がったんじゃないか」
「そうか? まぁ、これも野球のおかげかな。この前も素振りをしたらいつもより音が大きかった気がするし…」
その後と他愛もない会話を続けているとどこからかズドォォォォン…と音が聞こえてきたのだった。
「今の音は何だ?」
「さぁ、動物か何かだろ」
「あとで先生たちが見に行くだろ」
と大して気にしてない様子だった
ちなみにこの音は零が無詠唱術で発動した【アクア・ボール】の衝撃音であった。
無詠唱術を見せられた5人は愕然としていた。初級魔術である【アクア・ボール】で木を消失させる威力があるなんて今まで聞いたことがなかったからである。
「この無詠唱術にはまず欠点がない。いちいち起動言葉なんか発動していたら一瞬でやられるだろ。実践でそんなことしてたら死ぬぞ」
『死』という言葉にゴクッと喉を鳴らすのであった。
「そして利点だけど無詠唱術は奇襲等の不意を突く場面に向いている。それに詠唱しなくなったことで今までの余分な魔力を術に重ねて威力を上げることが出来るようになる」
「そうか、今まで詠唱に使っていた魔力を今度は術そのものに渡せば今までよりも強く放つことが出来るというわけか」
「まぁ、そういうこと」
だが、あることに気付く。
「でも、星乃君はどうやってあんな威力を出せたんだ? 魔力妨害のジャージを着ているのに…」
「あぁ、それは、術を発動する前に事前に手全体に魔力を流し込んでいたから魔力妨害を受けなかったんだよ」
また常識を壊す発言をしたのだった。
「じゃあ、とりあえず今日は術を発動しなくても魔力を自在に決められた部位に持って来れるようにしようか」
それから、零の提案した特訓が始まった。
そもそも魔力は気体のように目に見える物ではない。だから魔力を移動させてと言われてもイメージが湧かないのでほぼ不可能に近い。魔力自体は術者の肉体のどこかにあるのは確実だ。だが、どの部位にどのくらいの魔力があるのかプロでも分かるはずがない。が、
「心臓に意識を集中させて」
そう言われるがまま5人は自身の心臓に意識を集中させた。すると、何かを感じたのか誰かが声を出した。
「わっ、なにこれ、何か色の付いた小さな球体が見えたような」
「それこそ魔力と言われているものだよ」
その後も赤や青、そして緑と色の魔力が見えたと言い合うのだった。そんな中
「私のは、無色? これって‥‥」
星宮香蓮はそう言うのだった。表情はとても不安そうだった。だが、
「無色…ね」
そういう零であった。
ちなみに無色でも術者は術者だから気にしなくていいと零は言うのだった。
「じゃあ、それを手のひらに渡すように移動させて。初めてだからゆっくりでいいよ」
数分かけて5人は心臓にあった魔力を手のひらにゆっくり、ゆっくり移動させたのだった。すると、
「なんかいつもよりも力が溢れてきてるような気がする…」
小笠原はそう言うのだった。
そして、昼食をはさみながら先ほどの反復練習の他に基礎体力の向上のためにランニング、筋力トレ等の一般的な運動を日が暮れるまで徹底的に行うのであった。
「はぁ~~いいお湯」
3人の女子は温泉に浸かっていた。先ほど今日の練習を終えたのだが、泥まみれ汗まみれとなっていたのだが、お風呂がないことに気付き、そのため近くに川とかないかと探そうとしたところ、「は? その状態で川に入ったら風邪ひくぞ」と言われたので「じゃあ、どうするの?」と言ったところ「温泉出すから待っていて」と言われたので、一瞬温泉? と思ったのだが次の瞬間何もない場所からいきなり温泉が現われたのだった‥‥そして匂いが気になる女子たちが先に入ることになったのだった。
「しかし、温泉出すなんて…星乃君って一体何者なんだろうね」
「えッと、それってどういう‥‥」
「だって考えてみてよ。普通の術者がこんな温泉やあんな豪華な食事をホイホイ出せると思う?」
「た、確かに、そうかも…」
「でしょ~~」
「で、でも、星乃君は悪そうな人じゃないと思う、な」
「まぁ、私もそう思うけど…う~ん」
2人の女子は悩むのだった。
ちなみに柳寧音は器用に体を浮かせながら寝泳ぎしていたのだった…
「単刀直入に聞くけど星乃君って術が使えないの?」
女子のお風呂後、男子も交代でお風呂に入ったのだった。そして皿うどんや、ブリの照り焼き、焼きウインナー等の食事が並んだテーブルで夕食を食べ始めて少し経った後、小笠原陽彩がそう聞いてきたのだった。その質問に対して零はお茶を一杯飲むと、
「あー、誰にも言わないって約束してくれるか」
そう言うとこう述べた。術は使えると。だが、どうして隠す必要があるのか聞いてみると、今まで無詠唱術を使ってきたためか、6つある術の起動言葉が全く1個も分からないとの事らしい。もし、そのことがバレると起動言葉の勉強をしないといけないという面倒事が出てくるため学校内では術が使えないという設定をしていた。そしてそれが周りから『無能』と言われ続けたと言う。確かに今まで無詠唱術を使い続けた術者に対して今から起動言葉を使って術を使ってください。と言われたら1から術を再構築しないといけなくなりそしてその術の出力が大きく落ちてしまうのは目に見える。だから、本当に最低限必要な時にだけにしか術を使わない‥‥ということらしい。
「とまぁ、こんなところかな」
そして説明を終えた零はお茶を飲み干しのだった。
「なんか、ごめん」
「いいよ。別に気にしてないし、あと、まぁなんだ、屋上でのあの時の誘い方はなかったよな。俺は今まで誰かに何かを教えるってしたことがなかったからあんな言い方になったけど、その、なんていうか放っておけなかったというか‥‥まぁ、要するにごめんって言う事だ!!」
お茶を再びコップに注ぎ一気に飲み干すのだった。
「もういいよ。こちらこそ言い方が少し悪かったと思っていたから、お互い様ってことでいいよ。皆と話し合ってそう決めたから」
他の者たちも「うんうん」と頷いていた。
「~~~、何だよ、皆、やさしいな!」
クラスメイトと少しだけ距離が縮まったと感じた零であった。
「でも正直起動言葉を覚えるなんて面倒だよなぁ。一体誰が作ったんだろうな」
「確かに、そう言われると誰が作ったんだろうね」
その会話の後は、明日の事について話しながら食事を摂るのだった。




