模擬試合 初日
「ですから、こちらの食堂は術者の皆様が食事を摂るところ。術者でもないあなたはこの食堂を利用することは出来ない決まりなのです」
生徒や教師たちがこの食堂で昼食を摂っているのだが、入り口では責任者と星乃零が言い合っている姿が注目されており、大半の生徒は食事を中断してその光景を見ている人数が多かった。
「そんな決まりがあるなんて今知ったんだけど? それに、事前にこの宿舎について調べたがどの施設も術者しか利用できないといったルールなんてどこにも書かれていなかったぞ」
零は持っているスマホに映っているこの宿舎について書かれた公式ページを責任者に見せる。
「…成程。確かにそのサイトには術者以外も利用できるといった記述は書かれていません。
……ですが、メニューを注文する際始めに食事券が売っている販売機で食事を注文、購入する必要があります。ですが一般的な金銭ではなくここではご自身の魔力を利用し、初めて販売機の操作をすることが可能です。
貴方のような魔力量1程度ではこの販売機の操作どころか、機会がうんともすんとも言うことはありませんよ」
2人が言い合っている中でも責任者の言う販売機が動いている。確かにその販売機には金銭を入れるような箇所はなく代わりにタッチパネル画面に自身の手を置き、そこから持っている魔力を一定数流し込む。そうすることで食事のメニュー操作が可能となっていた。
「これでお分かりになりましたか? この食堂では貴方のような術者まがいに我々宿舎スタッフが汗水たらし、真心こめて作った料理を提供することは他の皆様に対する非礼に過ぎないのです。
……まぁ、この宿舎から2時間ほどにコンビニがありますので貴方はそこで適当に買ってくればいいのですよ」
そう言うと「皆様お恥ずかしいところを見せました。我々一同皆様のお力になれるよう努めてまいりますのでどうぞよろしくお願いします!!」と誠意を込めて伝えるとそこら中から大きな拍手が響くのであった……。
対して零はもう何も言わないのか食堂から離れていくのだった。
午後からの授業は宿舎の近くにある森で行われる。ここの森は宿舎内の1つで術者が利用しやすいように設備が整っており、中には術者に向けたアスレチック施設が多くあることから『自然の中で技体を磨き、最後に施設の温泉で心を整えよう』というテーマで多くの術者たちが休日の日に利用しているらしい。その森の入り口から少し進んだ広い場所に生徒たちは集まっていた。
「これより行う授業は実践経験を積むため1クラスで複数のグループを作り相手グループをエネミーと想定した模擬試合を行う」
それを聞いた生徒たちは「おぉ!」「やった!」といった歓喜の声を上げるのだった。
「使用範囲はこの森全体。各グループの1人はこのタスキを身に着け、相手からの術攻撃を受けると点滅し、その時点で殲滅扱いとし脱落。最後まで生き残ったグループが勝利とする」
そうして各クラスでそれぞれグループを作り、教師から用意されたタスキをもらい、その後各グループは森の中に散らばっていく。
そしてこれがこの模擬試合のルールである。
・使用範囲は森全体。(建物内に侵入は不可)
・グループ内の1人が付けているタスキを1回でも当てると点滅、その時点で脱落。
・使用術は安全性を考え初級術のみ
・アスレチックは一部のみ使用可
……各グループが森に入って10分後、バンッ!! と音がこの森全体に響くのだった。
「この音は、模擬試合が開始された合図でいいだろうね」
「まぁ、初日だから気楽に行こうぜ」
そう言いながらそのグループの生徒たちは森を進んで行く。彼らの周囲は障害物や辺りを見渡せるような場所がない広々とした所。そこを彼らは前に進む……タスキを身に着けている生徒を一番後ろにして。
ヒュンッ!
その音が彼らに聞こえた時にはすでに身に着けているタスキがチカチカと点滅していたのだった…。
「……ふぅ。何とかなったな」
遠くから狙撃のように初級魔術【ウインド・カッター】を放った生徒が安堵していた。
模擬試合が始まって10分が経過した。その間に
「【ファイア・ボール】!」
「【スラッシュ】!」
「【ウインド・ブロー】!」
「【攻の符:サンダー・ショック】!」
「来たれ土の精霊【ストーン・バレット】!」
各グループが出合い頭に激突の末、あるいは先制攻撃を仕掛けたりと自分たちなりの作戦を行うことで勝負が一瞬で着く、あるいは失敗して相手グループに気付かれ返り討ちにあったりとそれぞれの場所で攻防が行われていた。その中でも
「今だ良助!」
「任せろ! 【スラッシュ】!」
平岡良助の放つ初級剣術【スラッシュ】が2人の生徒を吹き飛ばす。
「隙が出来たぞ! 美織、決めろ!」
「勿論! 【ショック・ブロー】!」
タスキをつけている生徒めがけて田中美織が攻めて一気に拳闘術初級である【ショック・ブロー】を繰り出す。そして見事な連携でその生徒のタスキに直撃し点滅するのだった。
「あーあ。やられちゃった」
「やっぱり1組はすげぇな」
「次は負けねぇからな」
そう言いながら全滅扱いとなったそのグループは開始地点である森の広場に戻っていく。
「ナイスだ美織」
「そっちこそ良い指揮だったわよ」
そう言いながら美織と陸翔はグータッチをする。
「この模擬試合が始まって20分が経過したかな? あとどれくらいのグループがいるんだろう?」
「1クラス3、4グループあるとしたら最初は20くらい、そしてもう終盤に入っていると仮定して今は1ケタじゃないかな?」
「それにグループの数は先生たちが確認しているはずだから最後の1グループになれば終了の合図を伝えるって言っていたな」
井形孝史郎は開始前に教師が言っていたことを確認するのだった。
「まぁ、何はともあれ模擬試合だろうと最後まで気を引き締めることに変わりはないな」
そう陸翔が締めて未だ残っているグループを探しに向かうのだった。
「これにて1日目の合宿メニューを終了とする」
夕方となり、森の広場にて学年主任がそう告げるのだった。
「本日の実践を元に明日はチーム連携の強化を中心に術の向上、状況判断の切り替えといった更なる実践に基づいた授業を行い、最終日には再び模擬実践を行う。そしてこの結果は後日成績に加算されることを伝える」
そして「以上、解散」とのことで初日の合宿が終わるのだった。
「……はぁ、あと1歩のところで負けちまったぁ~」
「やっぱり晃一はすごいなぁ」
「それにチームの指揮もこなしてたからさすがって感じだよな~」
あの後、陸翔のチームは残りのチームを撃破しながら生き残り、そして残り2チームとなり最後の模擬実践でぶつかった。最初は五分であったが晃一のチーム連携によって陸翔のチームの僅かな隙を狙って陸翔が身に着けていたタスキに術を当て、その瞬間模擬実践の終了を伝える空砲が鳴ったのだった…。
「陸翔たちだっていい線いっていたから、もし長期戦になっていればもしかしたら陸翔たちのチームが勝っていてもおかしくはなかったと思う」
「……まぁ、今回は俺たちの負けだ。でも、明後日の模擬試合では絶対に勝ってあるからな」
「望むところだ」
そう言いながら陸翔と晃一は握手をするのだった。
「…いいよねぇ。男同士の友情って」
「そうそう。なんか青春って感じがしていいよね」
2人の後姿を見ながら田中美織と川口紗幸は言い合うのだった。
宿舎に戻ればあとは食事と少しの自由時間、そして就寝だけである。だがその前にこの宿舎のメインイベント言っても過言ではない温泉がある。この宿舎の温泉は疲労回復から美肌効果、魔力回復といった術者にとっては最高の効果があるといわれている。そのため多くの生徒たちはこのためにきつい合宿メニューを頑張っているといっても過言ではない。
そして特に女子生徒が多いのである。
「…? ねぇねぇ、私の着替えどこに行ったか知らない?」
とある女子生徒の部屋にてこれから起こるであろう事件の前兆が現れたのだった……。




