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013. 四万十川の戦い

 山中へと逃れた大勢の市民。

 追ってきたのは『異世界軍』陸上部隊。

 迎撃部隊が斜面に隠れて攻撃の雨を浴びせる。

 何とか合流して急造の弾丸や兵器を支給していたのである。


「今だ、総攻撃にかかれ!!!」

 号令と共に鉄の嵐が吹き荒れる。

 見晴らしの良い霊園前で『異世界軍』は次々と倒れていく。


「国はもう助けてくれない!!! 我々が最後の砦だ!!!」

 『幻想工房』による弾丸の無尽蔵ともいえる生産、無人砲台の活躍、最高潮にあった士気、これら全てが作用して、山を越えられる事はなかった。


「フォネー様、内陸で苦戦を強いられております」

「もう1発、魔法弾道弾をお見舞いしてやるのだわ」

 旗艦から閃光と共に放たれたミサイル。

 今度は索敵網で完全に把握してある。


「同じ手を食らうか」

「五行呪術・土・『万里長城』!!!」

 千本槍の如く土壁が放たれる。

「長城まるごと攻撃に使うとは思わまいよ。これで勝ったな」


 しかし弾道弾の方が一枚上手(うわて)であった。

 土系耐性が付いていたのだ。


「あっ」

 絶望したその時。


 背後から無数の巨石が放たれた。

「『雨天時迎撃システム・量産型強化カタパルト』を転用しました」


 この兵器は当初、市街での籠城戦が長期化した際の兵器として開発してあったものである。

 市街戦が短期で決着してしまったため、製造場所であった山間部に放置されていたのだ。

 偶然にもこれを転用すべく移送している最中であった。


 弾道弾は空中で爆散し、何とか迎撃に成功した。


「我が艦隊最強の兵器が迎撃されました!?」

「こうなれば叩き潰す!!! 一旦宿毛(すくも)港へ帰港せよ!!!」

 あの魔法弾道弾は第4方面軍オリジナル兵器として開発されたものであった。

 開発から何から全てフォネーが絡んでいたため、別名が『フォネーミサイル』。

 面子を完全に潰されたフォネーは総力を投入する事を決意した。


 第4方面軍・四国侵攻軍総員130万が上陸戦を展開したら?

 流石に勝てはしないだろう。

 抵抗する者は雑草一つ残らぬほどに殲滅してやる。


 そんな事を夢想しながらも上陸作業を進める。

 一斉攻撃を仕掛けるべく、中村市街周辺で敢えて進軍を止めている。


「敵軍、一斉攻撃の準備を整えております」

 示威行動でもあったため、敵の行動は丸見えである。

 総攻撃は2週間後。

 四国の民にとって、日本政府は「既に滅んだ」という扱いであった。

 首都陥落の(しらせ)がかろうじて伝わった程度で、そこからは一切の情報が遮断されていたのだ。

「パフォーマンスが必要だなぁ」

「敵兵130万を降伏させる、と?」

「……どうやって?」

「こうなれば敵将の首でも取るしかないな……」

「絶望的じゃないか」

「どうせやられるなら、試すしかない」

 既に自分たち以外に残る人類側が居ないように思われた彼らにとって、これは決断であった。

 仮に勝っても、その後どうなるかは分からない。

 更に強い敵軍がやってくるかもしれない。

「よし、やるしかない」


 総攻撃前々日。

 敵本陣は四万十市・具同。

「人類軍よ、これが最終決戦である!!!」

 ダメで元々、130万対数千の戦いが始まった。


(どうせ敵は奇襲を警戒しているはず……)

 目標は敵将との一騎打ち。

 勝つか負けるかの50:50、暗殺よりも確率は高い。

 まずは一騎打ちまで持ち込まねば。


「一騎打ちに挑むのは誰?」

「一番勝てる確率が高そうな奴がやるべきだろ」

 そんな訳で大将となってしまった曽我二十六。


「私が負けたとしても、山内の血筋の君ならどうにかできるさ」

 昨日そう話しかけたのは山内豊秀、ペンネームは捕鯨侍。

「『想像具現化』の能力なら、火力は低いとはいえ私の代替は可能さ」

 土佐山内家の傍流の彼は、自信なさげに頷いた。


 自動車に乗った総攻撃隊は中村まで辿り着く。

 四万十川を挟んで両軍は対峙する。


「我こそはこの地を統べる長宗我部家の当主・曽我雪政である」

「四国帝国皇帝として、一騎打ちを申し入れよう」

 ありもしない称号や統治を並べ立てても、見破れるのは上層部だけだろう。

 無知な130万の兵を連れておいて、無視はできないだろう。


「フォネー様、一騎打ちの申し込みが!!!」

「はぁ?」

「早く対応しないと兵の不信感が高まります」

 急かされて出てきたフォネー。

 両者は赤鉄橋を挟んで向かい合う。


「まさか、怖気づいてはおられぬか」

「兵には手出し無用を言うべき所!!!」

 こちらとしては必死でやっている煽りである。

(えぇい、仕方がない……)

「今より第4方面軍副官フォネー=ペルセポリは、敵将と一騎打ちを行う」

「この勝負への手出しは無用である」


 ペンネーム曽我二十六こと曽我雪政には、1つだけ、命を賭けた打開策があった。


「いざ勝負っ」

「五行呪術・火・『炎帝業火』!!!」

 一帯の空間に火を発生させ、それを持続させる。

「あっつ!?」

 勿論、自分も熱い。

(体から炎を発している……?)

 フォネーが疑問に思っている間に、更に術を展開する。

「五行呪術・金・『神権召喚』!!!」

 軒轅剣、中国の伝説上最強の神剣である。

 殆ど念動装置であるため、科学を超越したイマジナリー兵器である。

 『思うように動く』とはまさにこの事。

(一介の魔術師が戦場に出向くんじゃなかったわ……)

 フォネーは既に後悔し始める。

(しかし、こちらも5つの方面軍の副官、最善を尽くすわ)

 紫色のワンピースが黒に染まると共に、結んだ髪が自然に(ほど)ける。

「バチカン式風系魔術・フォートゥナ!!!」

 橋上には西から東へ暴風が吹き付け、更に彼女は詠唱を続ける。

「ギリシア式土系魔術・トリアダッフィオ!!!」

 すると、風に乗って薔薇の棘が飛んでくる。

(かなり痛てぇ……)

(しかし、もう射程内(・・・)

土金(どごん)複合呪術・『天井爆撃』!!!」

 奥の手に隠していた必殺技の1つである。

 天空に五角形の対角線文様が現れ、そこから5m級の巨石群が次々に落下する。


「赤鉄橋もろとも、おさらばだ!!!」

 防御魔術の展開に遅れを取ったフォネーは即死し、見物していた敵兵の一部も巻き込まれた。


(おぅ……予想外)

 周到な準備を重ねたとはいえ、本人も驚くほどの攻撃の威力。

(おっと、言い忘れてた)


「敵軍に告ぐ、只今敵将を討ち取った」

「降伏せよ、住処と食糧は保証する」

「さもなくば、同じ目に遭わせるぞ」


 正直言ってパワハラでしかなかった上司の戦死を機に、第4方面軍の一角130万は降伏し、高知西部の地を与えられた。


 ……しかしここからどうすれば?

 思わぬ逆転勝利であっただけに、高知の民には大きな困惑が残った。

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