012. 南四国上陸
本州が荒れに荒れている最中の事。
本四連絡橋を弾道弾に寸断され、通信の殆どが使えなくなった四国。
——高知県西部・宿毛市
「あれは?」
海を眺めていた一市民が、揚陸艦が来航したのを目撃した。
揚陸艦からは多数のゴブリン兵が出てきて、寂れた街並みを一瞬で支配下に置いた。
何の戦力もない四国は一瞬で制圧できるかに思われた。
しかし想定以上に山の深い地形のため、『異世界軍』は大幅に手間取った。
やっと制圧できたのは西予・中村など西四国のみ。
この遅滞に焦った第4方面軍副官のフォネーは、兵士達にこう言い放った。
「四国の中心を1週間以内に奪取しなさい、さもなくば呪いで雑草にしてやる」
『異世界軍』は、四国の中心を高松や松山ではなく、高知と捉えていた。
Wikiで得た付け焼刃の知識では、そう誤解するのも無理はないが。
——高知県中部・高知市。
「無条件降伏を勧告する」
そういう文書が、今時珍しいFAXで県知事室に送られた。
しかし何らかの手違いで、その全てが県には届かなかった。
その上、手違い防止の措置を『異世界軍』は怠っていた。
こうして意図せず勧告を無視し続けた高知県は、総攻撃を受ける事となってしまった。
高知市には、2方面からの攻略が進められた。
西四国から陸上部隊が、土佐湾沖から直接空中部隊が攻め入った。
——土佐湾沖、第4方面軍の重飛竜部隊
「四国は戦力がほぼ皆無と聞いたが」
「最早巨人兵の出る幕も無さそうなぁ」
こんな会話を繰り広げながら、高知市上空へとやってきた彼ら。
しかし人類側では九州戦から生き延びた者を主軸に、民間で対策が進められていた。
①避難経路の確保
②対空迎撃の準備
③巨人兵士の撃破
この3点がポイントになっていた。
また、ここでは既に、ラノベ作家が戦えるという情報が共有されていた。
情報源たる曽我二十六が居たためである。
遂に、『異世界軍』の軽飛竜・重飛竜合わせて1000体がやってきた。
それと同時に、第1次迎撃作戦が開始された。
「敵影確認」
「対空砲斉射開始」
対空砲といっても、現代兵器の対空砲ではない。
飛竜特攻仕様の爆撃槍発射装置である。
他にも高速徹甲弾のようなものを放つ砲もある。
「五行呪術・金・『幻想工房』」
曽我二十六の特殊能力は木火土金水の五行系の呪術。
呪術、つまり本来は自己強化術の派生である。
浦戸湾口に備えられた無人砲台は多くの飛竜を撃ち落とした。
砲台を敢えてほぼ直角にして大量に配置し、弾幕を張り巡らしたためであった。
こうして初戦は人類側の勝利に終わった。筈だった。
「第1陣が壊滅的打撃を受けました」
すると副官のフォネーが言う。
「あの砲台、横から攻めれば良いのでは?」
(いつ見てもこの人、男か女か分からねぇな……)
「対空砲を真横から攻撃せよ」
人類側は自爆装置を作動させ、近寄る飛竜を巻き添えにする。
しかし第1次防空網は突破され、早くも制空権は敵に渡った。
「くっ、『幻想工房』!!!」
幻想空間から出てくる無数の部品。
「これじゃ間に合わないかも……」
急かしてまで作らせた兵器は『改良版火車』である。
火車というのは北宋時代の多連装ロケット砲である。
『幻想工房』の難点は、組み立てに時間を要する点である。
そのため、組み立てを人力に頼る事で時間短縮を行っている。
「斉射っ!!!」
殺傷能力は第1次防空網に劣るが、逆にそれが幸いであった。
というのも戦闘不能となった飛竜が邪魔になり、攻撃の手が緩まったのである。
その間に第2次防衛作戦が展開される。
「第2次防衛作戦実施、各員速やかに対応して下さい」
「五行呪術・金・『粉塵展開』!!!」
アルミ粉末を空中に展開する。
消防法で規制されるような代物を、火を扱う戦場に持ち込むと。
粉塵爆発を起こして、飛竜の群れは網膜などに大ダメージを受けた。
対する人類側は、市民一人に至るまで黒いサングラスを着用済である。
「フォネー様、第2陣も大打撃を受けました」
「どうして……」
『異世界軍』が驚くのも尤もな話だが。
「敵が幻想なら、こちらも幻想で戦えるとはね……」
と、一番驚いていたのは今日が初陣であった曽我本人である。
初日の大勝利は大いに士気を高揚させた。
しかし海岸の高射砲台は全部自爆したので、鏡川以南を放棄し、中心街のみを守る方向に転換した。
この避難は、これからの長い戦いを予感させた。
「何らかの要因により、想像していた能力が実現する、か……」
謎はここまで解けたが、ここからが掴めない。
しかし、今は使えるものを全て使って戦わねばならない。
翌日、鏡川北岸には殆どの戦力が集められた。
勿論、『現代型火槍』を持った一般市民である。
この兵器は腕の長さほどのマスケット銃である。
威力は劣るが、一斉射撃には十分であった。
浦戸湾口から進軍してきたゴブリン・オーク混成軍団は鏡川南岸に到着。
鏡川大橋・潮江橋で対峙した。
多勢に無勢、一斉射撃隊は瞬殺され、市街には火の手が上がった。
市民は北の山岳部へと避難が続いており、この時間稼ぎには十分な意味があった。
敵が残存兵狩りをする中で、何とか避難が完了したからである。
「これで良かったのか……」
避難するには最適解ではあったものの、殿隊は壊滅する。
それに、ここから先の侵攻は許してはならない。
「山の中でゲリラ戦を展開し、この間に市民を更に山の中へ避難させる」
既に県や市といった行政は潰えてしまっている。
警察や消防は全面協力してくれているが、敵軍を前には無力だろう。
ここで、更なる陽動作戦を展開する事にした。
場所は南国市の岡豊城。
かつて長宗我部家の居城であった土城である。
「まずはドカンと一発」
空砲を打ち鳴らし、高知市街に仕掛けて置いた自動車爆弾を全て爆発させる。
「五行呪術・土・『万里長城』!!!」
岡豊城の南側に何重もの大城壁を展開する。
「『幻想工房』っ!!!」
更に城壁には機関銃を取り付けて迎撃する。
「これで時間稼ぎにはなるかなぁ」
こう呟いて自身は山の中へと隠れる。
こうして無人要塞が完成した。
「フォネー様、敵軍の要塞が出現しました」
「抵抗の本気度の無さから考えて陽動と思われます」
「姑息な。城塞ごと吹き飛ばしてしまえっ!!!」
「ははっ」
次の瞬間、敵旗艦から弾道弾が放たれた。
轟音と共に要塞は消滅する。
「あんな兵器を持ってるのか……やべぇ……」
間近で目撃した曽我二十六は、間一髪の所で助かったのであった。
「これで我が軍の実力が分かっただろうな」
この攻撃は、山間部に弱い。
爆風で周囲を吹き飛ばすような爆弾であるからだ。
谷を1つずつ潰す訳にはいかないだろう。
この弱点には、まだ敵も味方も誰も気づいていなかった。




