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011. 日本分割競争

 京都臨時政府は中山道経由で避難してきた皇室を保護し、京都仙洞御所へとお連れした。

 また関東・東海地方からの避難民をホテルなどに大量に受け入れた。

 そのため関西圏全体では人口が激増した。


 しかし、京都臨時政府には防衛力が無かった。

 これを解決するため、彼らはかつて廃案とした「ラノベ作家の特別協力を促進する特例法」、通称「ラノベ作家法」を持ち出した。

 京都臨時政府は全国放送でこの法令の公布を行った。

「施行は公布の20日となってしまう上に、この法に強制力はない。しかし対象となる皆さまには協力をお願いしたい」


 ——東京・首相官邸。

()首相よ、これは予想外だなぁ」

 ウィミスーリタが話しかけた相手は、()首相。彼は辞任を強いられたのである。

 代わって現在ではウィミスーリタが『日本国統治機構(JGO)』の総帥となっている。

異世界(そうぞう)には創作(そうぞう)で戦う、面白いじゃないか」

(どう答えるのが正しいのか……)

「そう悩む事はない、素直に答えれば良いじゃないか」

「君はもう統治者じゃなくて、私の召使いなのだから」

 かつて前趙(ぜんちょう)劉聡(りゅうそう)西晋(せいしん)懐帝(かいてい)を傘持ち役にしたかのような扱い。

 ()首相はこのような屈辱を、国を守るためなら、と甘んじて受け入れていた。


 ——京都・文化庁。

「臨時国会の会場はここだよな」

 急遽首相代行を担う事となった藤井官房長官。

 彼は秘密裡に首相生存の報告を受けていた。

(越憲に手を出さざるを得なかったか……)

 一応だが、国会議員には憲法擁護義務がある。

 つまり、それをも破るよう強いられる事態が起きているという事である。

「……全国民を代表する皆さんと一同に会することは、私の深く喜びとするところであります。ここに、国会が、国権の最高機関として、当面する内外の諸問題に対処するにあたり、その使命を十分に果たし、国民の信託に応えることを切に希望します」

 この開会の詔の後、藤井首相代行はこう告げた。

「本国会では、武力攻撃事態下の日本国の存亡に関わる……」


 ——第4方面軍・本部。

「準備は整っているか」

「はて、何の準備でしょう?」

「馬鹿垂れ、『太平洋帝国』なる変なものを作った連中との日本分割競争よ」

 第4方面軍は、九州地方の全部と、中国地方の一部を占領している勢力である。

「順調にいけば1ヶ月もしないうちに中部地方まで……」

「これは競争だと言っているだろう」

「急ぎ作戦を立て直します」


 ——京都・仙洞御所前。

「これからどうなるのだろう……」

 御苑内では、気が動転した国会議員がひたすら走っている。

 秘書が必死に止めているが、彼は止まらず守衛の方へ突っ込んでくる。

(侵入を防がねば)

 そう守衛が思った瞬間、彼は座り込んで号泣し始めた。

 こんな中、守衛ですら、この国の未来は暗いと考えた。


 この夜、日本の首都は京都に遷った。

 政治家たちは、東京奪還を諦める事で手を打とうとしたのである。


 ——第3方面軍改め『太平洋帝国』軍。

「どこまで制圧が進んでいるか?」

「現在、南関東一円に重飛竜(ドラゴン)兵を展開完了、ほぼ制圧しました」

 しかしこの報告は虚偽であった。

 上官の機嫌を伺い、実際は軽飛竜(ワイバーン)が進軍中な実情を盛ったのである。

 関東では抵抗運動が勃発し、デモ行進が空から攻撃を受ける事態も発生。

「無抵抗の市民を撃つ事のないよう(げん)にお願いしたい」

 前首相の憂慮はまさに現実のものとなり、自由が失われていった。

 そんな事も知らず、ウィミスーリタは外へ出た。

「どうしてこの地の民は支配に抵抗するのだ?」

 それは占領の経緯の違いにあった。

 小笠原諸島では無血占拠の上、節度ある支配が行われ、村は潤った。

 それに対し、東京は激戦の上、降伏させた街であった。

「『異世界軍』を打倒するのだ」

 そう立ち上がった反乱軍も幾つか存在した。

 しかし、地上から地下へと逃れた反乱軍は目立った抵抗が出来なかった。

「抵抗運動を行った組織は殲滅する」

 この方針に基づき、実際に1つの反乱軍が殲滅されたからである。

 次第に、反乱軍の一部は、まだ『異世界軍』の支配の及んでいない北関東へと逃れた。


 ——群馬・JR高崎駅前。

「我々はこの地を何としても守り抜くぞ!!!」

 鬨の声の上がる駅前。ここには鉄路沿いに逃げ延びた人々が集まっていた。

 この時、既に全ての鉄道は『太平洋帝国』によって業務停止に追い込まれていた。

「利根川本流の他、神流川(かんながわ)を第1防衛線、鏑川(かぶらがわ)を第2防衛線とする」

 空からの攻撃はどうしようもない。しかし陸上戦力は削ぎたい。

 そこで彼らは防衛線となった川に架かる橋を次々と落としたのである。

 結果として、これは功を奏した。


 ——『太平洋帝国・日本統治機構』総帥室 (旧・首相官邸)

「どこまで制圧は進んだか?」

「関東のほぼ全てと静岡県全土です」

 東名道・新東名道はともに避難民で溢れかえり、半ば無法地帯と化していた。

 車が一向に進まないので、路上では市が開かれていた。

 部下たちは「その上空を飛んだだけ」で『制圧』と報告していた。

「ならば、次は名古屋だな」

 ウィミスーリタの認識と実情にはかなりの乖離が出てきていた。

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