579 高性能ゆえに
いくら隠密特化な上に単独での戦いよりも集団戦が得意だとは言っても、そこは迷宮地下八階に生息する魔物なだけはあるということか。いい感じに決まった闘技の一撃だけではデザートフォックスを沈めることができなかった。
しかも、ここにきてリーダーとしての自覚が芽生えたのか、それとも命の危機に眠っていた才能が目を覚ました――え?それどこの主人公?――のか、瀕死の大怪我を負っているにもかかわらず、戦意を喪失させることはなかったのだった。
「ああ、もう!時間がないって時に限ってこれなんだから!」
なにせ背後からは未だに諦めることなく追加の魔物たちが迫ってきているのだ。ボクが小声で愚痴ってしまうのも、当然と言える状況だった。
落ち着け。焦ったら負け……、はしなくても余計な時間を取られることになる。そうなれば背後の魔物たちの攻撃範囲に入ってしまう可能性もある。
カクタスアーミーは世界観をまるで無視した自動小銃のような武器――一応サボテンの棘を飛ばすという設定らしいです――を手にしているのだ。一秒でも早くこの場から離れるためにも、最短の手数で倒しきらなくてはいけない。
「すー、はー……」
時間を無駄にしないためにも、あえてゆっくりと大きく深呼吸をする。
隙だらけになってしまったが、かえってそれが良かったみたいだ。罠か何かだと勘違いしてくれたのか、デザートフォックスが動くことはなかったのだった。
そして、やつが千載一遇の好機を無駄にしてしまったのだと気付くことは最期までなかった。
「リュカリュカさん、あの時一体何をされたのですか?……いえ、近付いて行って、武器を振り下ろしたことは分かっているのですが、どうやってそんなことができたのかが全く分からないのです」
アウラロウラさんを通じて運営がそう尋ねてきたのは数日後になってのことだ。
当たり前のことだが『OAW』の魔物には、基本的にプレイヤーやNPCからの攻撃に当たらないように行動するプログラムが組まれている。
ところが、この時のデザートフォックスはそんなプログラムが働いていなかったかのごとく、棒立ちになったままだったという。
その時は正直なところ、一刻も早く倒してその場から移動することばかり考えていた。そのためよく覚えていなかったこともあって、「そんなまさか」と思った、というか言ったところ証拠の映像を見せられることとなったのだが、確かにそいつは何をするでもなくボクの攻撃によって倒されていたのだった。
「緊急で全てのシステムのチェックを行いましたが、エラーどころかおかしな部分は見つかりませんでしたし、外部から干渉を受けたような形跡もなければ、リュカリュカさんが違法な外部ツールを用いた様子もありませんでした。まあ、最後については最初からあり得ないと考えられてはいましたが、調査をしない訳にもいきませんでしたので」
それまでしっかりと動いていたものが突然働かなくなったのだから、不正行為や異常事態を思い浮かべてもおかしくはないか。
そう納得してしまえるほどに、あの映像はある意味ショッキングなものだった。
「でも、特別なにかをしたような覚えはないんですけど」
あえて挙げるなら深呼吸をして焦る心を落ち着かせたことくらいだろうか。
……おや?
もしかすると?
「仮になんですけど、目の前の相手から突然敵意とかがなくなったら、魔物でも困惑したりするんでしょうか?」
「そう、ですね……。詳しいことは申し上げられませんが、プレイヤーの脳波を感知するというシステムの都合上、害意や敵意といったものがなくなってしまうと、極端な場合では相手の存在を感知できなくなってしまうというケースも考えられなくはありません」
ということは、やっぱりアレが原因の可能性が高そうです。
「ですが、リアルでもそんなことができる人物などそうはいるものではないと聞き及んでいます。しかも目の前には敵意満載の魔物がいるのですから」
なるほど。鏡写しのように魔物の側からも敵意をぶつけられることで、プレイヤーにも敵意を維持させているのね。
納得すると同時に、乾いた笑い声が漏れ出してしまう。
「えーと、その……。まことに言い難いことではあるのですが……。それと似たような事ならできちゃうかも、しれないです」
いやあ。にゃんこさんが驚く顔を見たのは久しぶりのような気がするね!
……あ、はい。ネタばらしですね。ちゃんとしますです。
以前にも何度かやって見せたことがあったと思うけれど、ボクの特技の一つに急激な雰囲気の変化というものがある。
スポーツ選手の中には、試合が始まるまではにこやかに談笑していたのに、いざゲーム開始となるとがらりと様子が変わる、という人もいるよね。あれの類似品だと思ってもらえれば、当たらずとも遠からずと言ったところだ。
そして案外と応用範囲が広くて使い勝手も良かったりする。
暗い話題で重苦しくなってしまった空気を明るいものに一変させることもできるし、逆に穏やかだった雰囲気をいきなり真剣なものに変えてやれば、それだけで相手を戸惑わせることができる。
さらに会話のペースを握ったり場の主導権を得たりといったことだってできてしまうのだ。
深呼吸をして心を落ち着けた際に、意図せずこの雰囲気の急変化も行われてしまった可能性がある。
そして敵意をなくしてしまったボクにデザートフォックスは対応しきれず、棒立ちのままやられることになってしまったのではないかな。
ああ、もちろんこんな便利で凄い技を自力で会得した訳ではなく、従姉妹様の懇切丁寧な指導の元にようやっと習得できたという経緯があります。
いや、里っちゃんは本当に凄いからね。先生たちでも静かにさせられなかった全校集会で集まった数百人の生徒たちを、壇上に上がるだけで見る見るうちに静かにさせてしまったのだから。
何が起きたのか分からず、しばらくの間は誰も彼もが呆然としてしまったほどだ。
「それに比べればボクがやった事なんて全然大したことないですよね」
「リュカリュカさん、それは単に比較対象が異常……、もとい、とんでもないだけであって、あなたがやった事が軽んじられることにはなりませんよ」
あ、やっぱりダメだった?
そんなこんなな会話の結果、正月明け早々に『OAW』では緊急メンテナンスと称したあれやこれやが行われることになったのでした。
……ボク悪くないもん!
そういう意味でもこのデザートフォックスたちの一戦は、ボクの記憶に強く刻まれることになったのだった。
もう半分?まだ半分?営業努力月間は続く。
宣伝等がお嫌いな方もいるかと思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いします。
作者のモチベーション維持のためにも、可能な限りで結構ですのでブックマークや評価を入れてくださいますよう、よろしくお願い致します。
もちろん、感想や一言もお待ちしています。
更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
これを機に他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




