578 蹴散らせ!
ボクたちの進行方向に陣取って足止めをする役割を持っていたのは、四体のデザートフォックスだった。カクタスアーミーとは異なり遠距離攻撃手段を持たないので、振り切ることさえできれば、そのまま逃げ切ることも可能だ。
……が、もちろんそんなにこちらの都合良く物事が進むはずはなかった。
最初こそいきなり走り始めるというボクたちの行動に驚いて泡を食っていた魔物たちだったが、すぐに我を取り戻して自分たちの役割を果たそうと、得意の姿を隠すこともせずに一直線にこちらへと突貫を敢行してきたのだ。
これにはボクたちの方が驚かされることになったものの、元よりデザートフォックスたちを倒すことは予定の内だ。
これ幸いとばかりに先頭に雪崩れ込むことになったのだった。
「トレアたちはエルーニの護衛を続けながら階段のある方へ向かって!エルーニ、うちの子たちの案内は任せたよ!」
「合点承知の助ってやつや!」
彼の答えの軽さにそこはかとない不安を感じつつも、近付いてくる魔物たちへと意識を集中する。
「ミルファ、ちょっときついかもしれないけど、二体を受け持ってもらえるかな?」
「愚問ですわね。二体などと言わず全てを相手にしてもよろしくてよ」
「そこはボクたちの見せ場も用意しておいて欲しいかな!」
一際強く足に力を込めて、先頭のデザートフォックスとの距離を一気に詰めた。
「よいしょお!」
魔物の走りくる勢いをそのままに、龍爪剣斧で掬い上げるようにしてその身体を上空高くへと放ってやる。
おお!思った以上に飛んだねえ。ざっと六から七メートルくらいの高さはあるのではないかな?リアルでは不可能な、ゲームの能力による補正があってこそできる芸当だわ。
はね上げられたデザートフォックスは「キャウン!?」と悲鳴にも似た鳴き声を発しながら懸命に姿勢を整えようともがくが、やはりというべきか猫科の動物たちほどの身体制御能力はなかったようで、背中から強かに地面へと打ち付けられることになるのだった。
「ネイト、そいつはお願い」
「了解しました。二人とも気を付けて」
建物に例えるならおよそ三階の高さから碌な受け身もとれないまま落下してきたのだ。突貫してきた分の運動エネルギーまで加えれば、それに倍する高さからの落下にも等しい衝撃だっただろう。
いくら砂地とはいえ、ダメージは生半可なものではなかったはず。
攻撃が得意ではないネイトでも、十分に倒しきることができるに違いないです。
視界を前方へと戻すと、すれ違いざまに切りつけたのか、一体がよたよたとお酒でも飲んで酔っ払ってしまったかのようにおぼつかない足取りになっていた。
こういう時、出血などのエフェクトが表示されるようになっていれば、そうした部分からもダメージの大きさなどを判断できるのだけれど……。
未成年ということで取り外し不可のフィルターが掛かってしまっているのよね。まあ、仮に取り外すことができたとしても、結局そのままにしてしまいそうではあるかな。
それはともかく、先ほどネイトにした瀕死魔物贈呈を、まさかボクがされる側になるとは。
「ミルファってばなかなかに皮肉が効いているじゃないのさ」
都合三体のデザートフォックスとほぼ同時に相対することになったため、斬りつけたのは良かったが止めを刺すまでの余裕はなかった、というのが実際のところなのだろうけれど。
戦線復帰されても困るので、よろめいているやつにはさっさと引導を渡しておく。これもまた焼肉定食、ではなかった弱肉強食な世の常なのです。
「お待たせ。こっちの一体は受け持つよ!」
割り込むようにしてミルファの右斜め前にいたデザートフォックスの前に立つ。
「用心なさいまし。その個体がこの群れのリーダーのようですわ」
背後から注意を促すミルファの声が聞こえてくる。この場合のリーダーというのは、ゲームシステムによって強化されている『リーダー』ではなく、単なる指示出し役とか代表、もしくは群れや集団の一番強い個体といった意味合いらしい。
「了解。でも平気だよ。仲間を前に出しておいて、自分はその後ろに隠れるようにしていたやつに負ける訳がないもの」
そう返事をすると、言葉は分からなくとも侮られていることには気が付いたようで、目前のデザートフォックスは歯を剥き出しにして威嚇し始めたのだった。
一番前に立って仲間や周囲を引っ張っていくようなリーダーばかりではないということは百も承知だ。リーダーだけれど裏方仕事や他人のサポートの方が得意だという人は、リアルの知り合いにも何人もいるからね。
しかしながら、今ボクと相対している個体からはそうした雰囲気が感じられなかった。主観的なものだからどうにも言葉にし辛いのだけれど、あえて言うなら「器じゃない」という辺りかな。
いやはや、運営はよくもまあ、こんな妙な設定を作り上げたものだ。
「不快に感じるのは、図星を刺されたからだそうだよ」
さらなる挑発の言葉を口にしながら、右から左へと大振りに振り抜く。デザートフォックスはそれをことさら大きく背後に飛び退って避ける。
スホシ村の周辺に出没していたグラスフォックスならば屈むだけでかわしただろう。『聖域』のブラックリンクスであれば、そもそも避けるような真似をせずに、攻撃のチャンスとばかりにくらいついてきたことだろう。
なるほど。集団戦には長けていても、単体での戦闘力は大したことがないと言われるはずだ。
だから、この時点で既に勝負はついていた。
「【ピアス】!」
「ギャウン!?」
闘技の動作サポート効果によって、龍爪剣斧の剣先が伸びるように退くデザートフォックスの身体に吸い込まれていく。
まあ、剣先に近い部分を持っていた右手の内側を滑らせるようにして突いたから、攻撃を食らった側からすれば本当に伸びたように感じられたかもしれないね。
ちょっとした小手先の技だけれどね。意外と初見の相手には効果があるものなのだ。
あのブラックリンクスとの戦闘では、能力値や技能熟練度だけではなくボク自身の技術、つまりプレイヤースキルを高める必要性を痛感させられることになった。
そんなボクが編み出した技の一つがあれという訳だ。
ふふん。どうですか!戦闘の面でもボクはちゃんと成長しているのですよ!
効果の程がいまいちよく分かっていませんが、とりあえず続けることにしましょうか営業努力月間。
宣伝等がお嫌いな方もいるかと思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いします。
作者のモチベーション維持のためにも、可能な限りで結構ですのでブックマークや評価を入れてくださいますよう、よろしくお願い致します。
もちろん、感想や一言もお待ちしています。
更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
これを機に他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




