577 こんな物も作ってくれていました
魔物を殲滅することが目的であれば、反転して背後から接近して来ている個体を先に倒すことが敵の裏をかくことに繋がるため、安全性や確実性も高まるように思う。
が、ボクたちの目的はそうではない。
迷宮の攻略、すなわち先の階に進むことこそが目的なのだ。
「なので、反転したりこの場で待ち伏せしたりするのは却下です」
まあ、理由は他にもあしまして。そうやって余計な時間を浪費している間に、追加で魔物たちが現れそうな気がしたのだ。
「それこそ魔物に数で押しつぶされることになっちゃう」
「各個撃破には時間を掛けずに魔物を倒す、という意味合いも含まれていたのですわね」
あくまでボクの想像ではあるけれど、当たらずとも遠からずだと思う。
「ほな、どうするんや?」
「前方の魔物を強襲して、そのままの勢いで次の階層を目指します」
ボクたちの目的は、魔物を含む素材の採取でもなければこの階層の探索でもないからね。
体力とアイテム類、そして時間の消耗を抑えるためにも、戦いを必要最低限にとどめるという判断も時には必要になってくるのだ。
「背後から追ってきている魔物は?」
「基本は放置。振り切れるのがベストだけれど、どうにもあの魔物たちって追跡能力が高そうな気がする」
ついでにこの地形だしねえ。気温が低い分固まっている感はあるが砂地であることに変わりはない。足を取られて普段ほど速く走ることはできないだろうから、次善の策として次の階への階段に逃げ込むことを当面の目標にします。
もしも追いつかれそうになった場合は、全員で魔法を撃ち込んで時間を稼ぐ予定だ。
「強引な力技なだけかと思うたけど、一応はその後の対処方法も考えとるんやな。まあ、力技であることに変わりはないみたいやけど」
脳筋仕様で「当たって砕けるのは……、お前たちの方だ!」を地でいく作戦なことは百も承知だよ。
「今回の作戦は移動速度が肝となります。という訳で、リーヴとエッ君はトレアに乗ってね。トレア、大変だろうけど頑張って……、って、もう準備万端なのね……」
お願いしようと振り向いた先には、エッ君とリーヴ二人乗り用の特製の鞍を装備してニコニコとを笑みを浮かべるトレアがいた。
実はこの鞍、スミスさんのフレンドである馬具を専門に製作しているプレイヤーさん謹製の作品だったりします。
スミスさんも先日のグロウアームズレベルアップの時に「『テイマーちゃん』に渡してくれ」と押し付けられたのだとか。
ボクとは面識がないどころか会ったことすらなかったのだが、トレアの背中にある鞍はぴったりと一分の空きもなく彼女にフィットしていた。
なんでも『冒険日記』に添付されていたスクリーンショット――大半は運営が撮影したもので、ボクが掲載許可を出したものばかり――を見てうちの子たちのサイズを割り出して作ったというのだから、凄いとしか言いようがない。
当然のように乗り手側にも配慮されていて、リーヴは両手が動かせて、しかも多少激しい動きをしても落ちたりしないようにゴムのような伸縮性のある素材による固定具が付けられております。
エッ君の場合は乗り降りがし易いように、低反発マットレスのごとく衝撃を吸収しながらも、形状記憶素材さながらに形を保ち続けるという、リアルで開発できれば一財産になること間違いなしのクッションが仕込まれていた。
まあ、その外見はどう見ても小枝を集めて作った鳥の巣だったのだけれどね。
この辺り、製作者のお茶目さが滲み出ていて、ボクとしては好感が持てる要素だ。実直に効率や性能を追い求めることも大切だけれど、ゲームの中でくらいは遊び心を出しても構わないと思う。
特に今回の場合は文句なしの性能を誇っているのだからなおさらだ。
ちなみに、「勝手に作った物だから金は要らない」とか言っていたらしいのだけれど、「ボクは接待プレイをしたい訳でもなければ、お姫様プレイをしたい訳でもありません」と、スミスさん経由で強引に代金を支払ったという経緯もあったりします。
良い物を作ることができれば満足だという職人気質は嫌いじゃないけれど、だからこそ腕を安売りするような真似はして欲しくないと思う。
おっと、のんびりと回想に浸っている余裕はないのでした。
既にトレアの背にはエッ君とリーヴが乗っている。
当のトレアはと言うと、辛そうだったり苦しそうだったりする様子は一切なく、ずっとニコニコと極上の笑顔のままだった。
どうにも彼女、新参であることを気にしているのか、先輩であるエッ君やリーヴに何かしてあげられることがあると喜ぶ癖があるみたいなのよね。
今のところ特に問題がある訳ではないのだが、おかしな方向にこじれていかないように注意だけはしておく必要があるかもしれない。
「うちの子たちの準備はオッケーのようだけど、みんなはどう?」
「こちらも用意はできています」
「いつでも行けますわよ」
既に二人は得物を手にしており、駆け出すどころか魔物をやっつける準備も万端整っていた。
「おいおい、めっちゃ切り替えが早いやないか。今までどんだけの修羅場をくぐってきとんねん……」
修羅場とは大袈裟な。ゲーム開始直後にブラックドラゴンと喧嘩をする羽目になったことがあるくらいだよ。
そしてそんなことを言っているエルーニ本人だが、相変わらず自然体のまま突っ立っているだけだった。
彼の態度は一見するとボクたち任せのように見えてしまうが、その実裏を返せば何があっても自分だけは生き残ることができるという自信の表れなのだ。
多分、彼一人であったならば、気配を遮断するなりして魔物に存在をづかれない内に次の階層へと進んでいたことだろう。
あれ?そういえばボクも〔気配遮断〕の技能は持っていたのだった。
複数人からなるパーティーで移動することばかりだから、すっかり影が薄くなってしまっていたけれど……。
スホシ村を拠点にして魔物を狩っていた時には待ち伏せなどもしていたから、徐々には熟練度も上がっていたのだけれどね。
せっかく取った技能なのだ。宝の持ち腐れにしてしまうのはもったいない。
上手く活用できる作戦を考えてみるべきかもしれない。
もっとも、今はこの場を切り抜けることが最優先な訳ですが!
入学式とかに絡めて一言を書けばよかったのでは?と今さらながらに思い付く今日この頃、皆さんいかがお過ごしですか、営業努力月間です。
宣伝等がお嫌いな方もいるかと思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いします。
作者のモチベーション維持のためにも、可能な限りで結構ですのでブックマークや評価を入れてくださいますよう、よろしくお願い致します。
もちろん、感想や一言もお待ちしています。
更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
これを機に他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




