571 その設定どこかで?
お兄さん、実は困ってなんていないよね。と暗に告げると、男性はこちらへと向き直り――もちろん、魔物たちの攻撃を避け続けています――「バレとったんか」とぽつりと呟いたのだった。
うん。むしろどうしてバレていないと思ったのか。その自信のほどがどこからくるのか聞いてみたいところだよ。
それと……、大変言い難いのだけれど、今の状況を見れば例えそれまでは気が付いていなかったとしても、彼が余裕で魔物たちをあしらっていたことは一目瞭然だと思う。
「ブラフだっていう可能性は考えなかったの?」
「なんやと!?ブラフやったんか!?出会ってすぐの相手を騙すやなんて!嬢ちゃん、恐ろしい娘!」
いや、違いますけど。
というか、ボクたちからすればあなたの方がよほど恐ろしいよ。ちらりと視線を向けることさえせずに背後からの魔物たちの攻撃を必要最小限の動きだけで躱し続けるだなどという、とても人間業とは思えないことを目の前で披露されていたのだからね。
「お兄さん、ホントに人間ですか?実はドラゴンとか精霊とかが変化していたり、悪魔が受肉した存在だったりしない?」
「いやいやいやいや。いきなり何を言い出しとんねん。そんな怪しいやつらやないから。ワイはまだピチピチの百二歳やからな!」
しれっと十分驚くに値する情報を投入してくる男性です。
「百二歳!?……ああ、もしかしてエルフ?」
「その通りや……、ってしまったーーーー!!!!ワイがエルフやってことは秘密にしとったんやったで……」
うわーお。思いっきり暴露しちゃいましたね。
……うん?エルフでカンサイ弁、しかも有能なはずなのに微妙にポンコツ。どこかで聞いたことのある設定のような……?
「あの、リュカリュカ」
「どうしたの?」
背後からおずおずとした調子で呼びかけられて振り向く。
「話をするのであれば、あの魔物たちを何とかしてからの方が良いのではありませんか」
ネイトさんからの至極ごもっともなご意見でした。
「と言う訳なんだけど、手伝った方がいいですか?どう見ても加勢は必要なさそうなんだけど」
「そら一人でも何とかできるんは間違いないんやけど、どうせここまで来たんやから一緒に戦ってくれてもええんとちゃう?」
それもそうか。それならサササッと片付けてしまいますかね。
ボクたちが割って入ることで数の差は逆転、男性に集っていた魔物たちは反抗らしい反抗をすることもなく、わずか一分少々で全滅することになったのだった。
「うーん……。混戦に近い状態でお互いの位置が近い時の立ち回り方には難ありだったね」
「そうですね。これは少し訓練が必要でしょうか」
時間がかかってしまったのも魔物が強かったからではなく、仲間同士の攻撃が当たりそうになったり、避ける方向が重なってぶつかりそうになってしまったりと、思うように動けなかったことが原因だった。
「ですが、そもそも戦場では混戦にならないように工夫するものでしてよ」
「もちろん混戦にならないことが一番だっていうことは分かっているよ。だけど、さっきのようにどうしようもない場合がこれから先もあるかもしれないでしょう。その時になって訓練をしておけば良かった、と後悔するようなことにはなりたくないよ」
ゲームの中とはいえ、命が掛かっているからねえ。
やれることはやっておきたいと思ってしまうのだ。
「あれ?何やワイのこと忘れられてへんか?」
そんなボクたちに向けて発せられる声が一つ。
何をおっしゃいますやら。
「いやだなあ。お兄さんのような濃ゆい人を早々忘れられるはずがないじゃないですか」
「……それはそれで素直には喜び難い評価やな」
だろうね。こちらとしても褒めているつもりはないもの。
どういう意図で、そしてどういう方法でもってかは分からないけれど、彼はボクたちがこの階層へとやってきたことを知って接触を図ってきたのだ。用心をするのに越したことはない。
「それで、お兄さんは一体何の用があってボクたちを呼びつけたのかな?」
「いきなり「何の用」ときたか。普通そこは何者か尋ねるところやろ」
「ちゃんと答えてくれるなら聞くけど?」
というボクの返しに、男性は肩をすくめてみせただけだった。
つまりは、話せることはない、ということなのだろう。
ちなみ、にどこの誰かはさておき彼の立場としては、『火卿帝国』内のどこかの勢力に雇われたスパイのようなものではないかとにらんでいます。
「ほほう。ワイが雇われやと思った理由は?」
「一番は長寿なエルフ種だからだね。何代もの同じ家や国の主人に仕えるということもあるだろうけれど、多分仕えられる側が耐えられないと思う」
自分たち以上に自分たちのことを、時には表沙汰にはできないものまで含めて知っているのだ。頼もしいよりも、疎ましく思ったり恐ろしく感じたりする人の方が多いのではないかな。
さらには、昔の御先祖様を引き合いに出して発破を掛けられたり期待されたりすることだってあるかもしれない。
親兄弟のような近しい存在であっても比較されると反発を覚えてしまうものなのだ。何代も前の顔も見たこともない先祖と比較なんてされたら、これまたやる気を出すよりもうんざりしてしまう人の方が多いと思う。
「あり得へん、とは言えん話やなあ……」
「異なる時間の流れを生きている」というおじいちゃんの言葉は、あながち大袈裟でも何でもないのかもしれないね。
「以上のことから、基本的にはフリーランスで腕の立つ雇われ者だと推測されます」
なんの腕かって?
それは言わぬが花というものです。
「ワイのことを凄腕やと見切るとは、嬢ちゃんもなかなか見る目があるようやな」
凄腕とまでは言っていませんが!?
一瞬で評価を下方修正したくなってしまったよ。
「嬢ちゃんの想像通り、今のワイはこの国のとある貴族様の雇われや。詳しくどこの誰かいうんまでは勘弁な。先に言うとくと、あんたらが一緒になったあの人たちとは別口やで」
リシウさんとは無関係、ということか。まあ、彼らの関係者であれば、ここまでまどろっこしいやり方でもって接触する必要性がないからね。
「それで、肝心の用件やけどな。嬢ちゃんたち、ワイと取引せんか?」
エルフの彼から持ち掛けられた内容は、少しばかり予想外なもので、しかし、とても納得いくものでもあった。
異なる時間云々は、31話目のディランの台詞となります。
カンサイ弁を話すエルフだなんて、一体どこのエルちゃんなんだ……。
一カ月って長いですね。営業努力月間継続中。
宣伝等がお嫌いな方もいるかと思いますが、ご容赦のほどよろしくお願いします。
作者のモチベーション維持のためにも、可能な限りで結構ですのでブックマークや評価を入れてくださいますよう、よろしくお願い致します。
もちろん、感想や一言もお待ちしています。
更に、本作以外にもヒューマンドラマっぽいものや近未来のSF風味なもの等々、いくつか書いております。(未完もありますが、完結しているものもありますので……)
他の作品もぜひぜひ覗いてみてもらえればと思っています。よろしくお願いします。




