545 ゲームは便利
いくらボクでも仮眠中までログインしておくつもりはない。という訳で時間をすっ飛ばして再開です。
いやはや、ゲームって便利だ。
仲間たちを起こさないようにごそごそとテントから抜け出す。
そんなボクの姿を見て、あからさまにホッとした態度を見せる少年たち。
「問題なかった?」
「な、何も起きてねえよ」
他の少年たちの手前強がろうとしていた――リーダーは大変だね――みたいだが、緊張しているのか一号君の声は震えてしまっていた。
明るく見通しも良い街道沿いの場所とはいえ、魔物が出現することに違いはない。不安と恐怖とついでに責任感とに押しつぶされそうな気分だったのではないかな。
厳しい?ボクもそう思う。
でも、本来は守護者とならなければいけない領主や貴族がアレだからね。生き残るための術は少しでも多い方がいい。そのための経験なのだ。
あ、もちろん少年たちに全てを任せきりにしていた訳ではないよ。出会ったばかりということもあるし、感情に任せた反抗的な態度も取られている。
まあ、後半についてはお子ちゃま相手にそこまで求めるのは少々酷かとも思うけれど、一つ何かが違っていれば全滅していたかもしれないので。
そうしたこともあって完全な信頼には至っていないというのが、お互いの本音のところだろう。
そしてボクたちが取っていた対策が、眠っているテントの中にこっそりとチーミルとリーネイを呼び出しておくことだった。
どうしてテントの中だったのか?五人組の成長を促すためと、五人組がテントに押し入って来ないよう警戒するためです。
一つ目はそのままの意味だね。自分たちしかいない状況に比べて、他にも誰かがいる状況ではどうしてもそちらを当てにしてしまい手を抜きがちになってしまう。
しかもこれ、基本的に無意識にやってしまうから困ったものなのだよね。
うあー……。自覚があると言いますか、身に覚えがあり過ぎて辛い。ボクの精神が保てなくなる可能性があるので詳しい説明は省くけれど、すぐ側に里っちゃんなんていう超絶万能美少女が居たりしますとですね、ついつい彼女に甘えてしまったり依存しそうになってしまったりする訳なのですよ。
いや、もう、ホントこれ以上は勘弁して。
話を戻そうか。二つ目についてですが……、こちらはあくまでも保険という意味合いが強かった。
この通り『火卿エリア』では社会状況自体が混沌とした様相となっていたからね。世紀末でヒャッハー!な人たちや、パリピでウェーイ!な人たち……、は違うか。とにかく短絡的思考で勢いと人数差に任せて自分たちの言うことをきかせよう、等と少年たちが考えないとは言い切れなかったためだ。
この辺りの理由は先述した通りだね。
いずれにしても特に何事もなかったようなので一安心というところかな。
ただ、これが後数日間続くと考えると、少々憂鬱な気分になってしまいそうだけれど。
ボクたちの朝食を作るついでに、改めて五人にもご飯を食べさせる。
子どもたちの負担を軽くしたかったのか、それともこうなることを予想していたのか、彼らの護衛兼連行役だった冒険者たちは全ての食糧を自分たちで運んでいたらしい。
「もしも君たちが言うことをきかなかったら、ご飯を食べさせないとかして無理矢理従わせるつもりだったのかもね」
いくら何でも子ども相手にそんな無体なことはしないと思いたい。が、そういう可能性がある以上、話しておく必要はあると思う。
案の定、そんなことを考えてすらいなかった少年たちはすっかり青ざめてしまっていた。
迷宮で働かせる予定――この時点で既にツッコミどころが満載だわ――だから暴力をふるって怪我をさせるようなことはできない。リアルの空腹もキツイけれど、こちらの飢餓状態も相当辛いものがあるからね。食べ物を使って立場を理解させるというのは、えげつないけれど有効な手ではあるのだろう。
「まあ、食事については心配しなくてもいいよ。たんまりとは言えないけれど、数日分くらいなら十分な量を持ってきているから」
そう言うと少年たちもホッと安堵の息を吐いていた。
さほど余裕があるという訳ではなかったはずなのに、「旅の最中には何があるか分からないから」と言って多めに食べ物を持たせてくれたスホシ村の人たちに感謝だね。お陰でこうして子どもと一緒になって飢える心配をしなくて済んだのだから。
そうこうしている間にミルファとネイトが起き出してきた。ご飯を食べるついでに子どもたちのお守りをお願いして、ボクは撤収の準備に取り掛かります。
まずはテントの中でうちの子たちのメンバーチェンジ。『ファーム』に戻るチーミルとリーネイにお礼を言うのも忘れませんよ。
「本当はみんな呼び出してあげたいんだけど」
「気にすることはありませんわ。わたくしたちには本体もいますもの」
「チーミルの言う通りです。それに、子どもたちに姿を見せていないのは私たちだけですから」
「そう!いわばわたくしたちは秘密兵器!奥の手にして最強の切り札なのですわ!」
おおう!仮眠中の警戒という重要任務を与えられていたからなのか、チーミルがすっかりハイテンションだ!?
当人が苦痛に思っていないのであれば良かった、のかな?
そんな二人の代わりに呼び出したエッ君とリーヴの三人で寝袋などをアイテムボックスへと片付けていく。
この『OAW』では調薬セットなどの一部アイテムを除いては、中に別の物が入った状態ではアイテムボックスへ収納できないようになっている。そのためか、テントも解体した形でないとお片付けできないのだ。
まあ、組み立ても解体も掛け声一つでできちゃったりするのだけれど。
「テント解体。それでもってアイテムボックスに収納」
あっという間に片付け完了。やっぱりゲームって便利だ。あとにはテントがあったとは思えない広々した空間が広がっていた。
おっと、トレアも呼んであげないと。これでパーティーメンバーも揃い踏みだ。
「こちらも出発する準備はできていましてよ」
チーミルたちとの会話で思っていた以上に時間が経っていたらしく、ミルファたちの方もご飯や焚火の始末が終わっていた。
「よし。それじゃあ、今日は日暮れまで頑張って歩きま――」
「待ってください!街道の後方から何かが接近してきます!」
ものの見事に出発の号令を中止させられました。
狙ったようなタイミングにずっこけそうになってしまったわよ。
が、すぐに気を引き締め直して〔警戒〕技能を使用する。ボクの熟練度でもギリギリそれを察知できる範囲内だ。
ミニマップに投影されたマーカーは緑。中立を示す色だから、魔物ということではないみたいだね。




