544 少年たちの事情
子どもたちが目を覚ましたのは、東の空にお日様が顔を出してすぐのことだった。
随分と早いように思えるが、〔生活魔法〕があるとはいえ夜の明かりは貴重であるらしく、大きな街を除いては基本的には朝日と共に起き出して日の入りと共に眠りに就く、というのがこの世界の人々の一般的な生活リズムであるそうな。
「さてさて。それでは君たちの事情を説明してもらおうかな。昨晩はどうして子どもだけであんな場所にいたの?」
パンとソイソース仕立てのスープで子どもたちに朝食を取らせてから、夜中の街道にいた経緯を尋ねる。
ちなみにボクたちは食べていません。交代で仮眠を取ったとはいえ、一晩中寝ずの番をしていたからね。お腹が膨れると眠くなってしまいそうなので。
「俺たちだって好きであんな場所にいたんじゃない」
若干不貞腐れ気味に口を開いたのは、五人のリーダーなのだろう一号君でした。
その話によると、彼らの住む村が数か月前に魔物に襲われてしまったらしい。死人こそ出ることはなかったのだけれど、魔物を撃退する過程で多くの男性が後遺症の残るレベルでの怪我を負ってしまったのだとか。
「あー……、何となく理解できたかも。つまり君たちは、大人の男の人たちの代わりに迷宮に連れて行かれる途中だった、ということで合ってるかな?」
「うん」
その割に護衛というか連行役の人がいなかったのは……。
「依頼を受けた冒険者なのか、それともアホ領主の手下なのか。まあ、どっちにしても大差はないからそれはどうでもいいとして。あの魔物の鳴き声を聞いて逃げたんだね、君たちを見捨てて」
ボクの言葉に五人は怒りに顔を歪ませながら首を縦に振っていた。
もしかすると、同じ村出身の相手だったのかもしれない。だとすれば領主の手下というよりは冒険者だと考える方が妥当かな。
日頃から子どもたちに、自分たちの戦果や経歴を大幅に誇張して話していたのかもしれない。一号君たちからしてみれば、憧れの存在だったのかもね。そんな連中が護衛対象を放り出して尻尾をまいて逃げ出したりしたのだ。
ボクたちが遭遇したのはその直後のことだったのだろう。
道理で「逃げる」という行為に過剰に拒否反応を示した訳だわ……。
「まあ、だからと言って勝てるかどうか以前に正体すら分からない敵に挑もうとするのは、勇敢どころか無謀でおバカな行為でしかないけどね」
ピシャリと言い放つと、さすがに震えて怯えるしかできなかったことが堪えていたのか、少年たちはしょんぼりと項垂れてしまう。
年下の男の子にキュン(はぁと)となってしまう人であれば、思わず甘やかしたり抱きしめたりしちゃったかもしれないです。
ボクたちの好みにはかすりもしなかったけれどねー。
出現した鵺が夢幻夜鳥による幻だったから何とかなったものの、あれが実物であれば間違いなく全滅していた。同行するつもりであるならボクたちの指示には従ってもらわないといけないから、その事にはちゃんと釘を刺しておく必要があったのです。
それにしても余所者のボクが「アホ領主」なんて言ったというのに何の反応も見られないとか、色々と末期だなと思うよ……。
「大人の代わりに子どもを徴収して、しかも魔物が出没する場所に放置していくなんて、ね……」
ボクが想像していた中でも最悪の展開だった。本気でここのアホ領主はプチッとやってしまった方がいいのかもしれない。
だけど、そうしたところで平和になるという確たる証拠はない。精々が近隣の貴族たちによって併呑されてしまうだけだろう。その連中がアホ領主よりマシだと言い切れない以上、下手な行いは内乱の火に薪をくべることになりかねない。
第一、世直しなんて柄じゃないし、『火卿帝国』を立て直すことも新たな国を興すことも身に余るのだ。
「やれやれ。リアルよりは力があるとはいっても、ボクなんてただの小娘でしかないんだけどなあ……」
それでも、何とかしなくてはいけないのではないか?何かできることを探すべきではないか?といった焦燥感に駆られてしまうのだった。
「いけない、いけない。分をわきまえないと自滅しちゃうわ」
今でさえ空飛ぶ島のあれこれに、おじいちゃんたちの消息の確認とやらなくてはいけないことが山積みになっているのだ。これ以上手を伸ばしたところで全てが中途半端になってしまう未来しか見えない。
あれ?
よくよく考えてみると、消息不明状態なのはボクたちも同じなのでは?
再三述べているように、この『火卿エリア』では『冒険者協会』は同名の別組織だと言っても過言ではないほど――悪い方に――変化してしまっているし、もう一つの国際的な組織である『七神教』もほとんど撤退してしまっている状態だ。
つまりエリア外に出るどころか、連絡を取る手段すらなくなってしまっているのだ。
お、おおう!そうなると良くて消息不明、悪ければ地下洞窟の崩落に巻き込まれて死亡扱い、なんてことになっているかもしれない。
まずいね……。ボクやネイトはともかく、ミルファはれっきとしたクンビーラ公主一族の血統だ。情報が錯綜して大騒ぎになっているかもしれない。
どうしてもっと早くにその事に気が付かなかったのかー!
はい。現状の把握にそれどころではなかったからですね。
「リュカリュカ?急に顔色が悪くなってようですが大丈夫ですの?」
当のミルファ本人すら、大事になっている可能性に思い至っていないみたいだし……。「ボクの顔色が悪くなっているのは君のせいだよ!」と言いたくなってしまったが、完全に八つ当たりなのでそこはグッとのみ込んで「大丈夫だよ」と答える。
こんなことで仲間と喧嘩をしてる場合ではないからね。引くべきところは引きますとも。
それにしても、「やらなくてはいけないこと」にまた一つ項目が追加されてしまった。しかも優先度合いは高めときている。
まあ、いずれにしても人が集まっていて魔物に対する安全は確保できるだろう迷宮へと辿り着くことが直近の目的であることに変わりはない。
そのためにも、
「出発前に少しでも体を休めよう」
少年たちに見張りをお願いして、二時間だけ仮眠を取ることにする。
子どもを働かせるだなんて酷い?
ノンノン。世話になりっぱなしだと感じると委縮してしまうかもしれないからね。対等とまではいかなくても、適度に仕事を割り振ってあげた方が意見や要望などを言いやすくなって良いのです。
そして捨てる神あれば拾う神もある、ということなのだろうか。
この選択が思わぬ出会いを引き寄せることになる。




