530 積み上げてみました
おばば様を始め同行してくれていた女性たちに迷宮のことを尋ねてみたのだけれど、残念ながら先ほどまでの説明以上の新情報は何もなかったのだった。
……はあ。これは本格的に冒険者協会へ行くしかないかな。
まあ、ふらりと突然立ち寄ったところで入口が封鎖されていて迷宮内に立ち入ることができない、という可能性だってあり得る。スホシ村の冒険者協会に顔を出すことによって、とりあえずの身元の保証と、ついでに迷宮攻略に問題ないだけの能力があるというお墨付きをもらうことができるならば、決して無駄な行動ではないはずだ。
そのためには……、少しもったいない気はするが、さっきのイベントのボスからドロップしたレアアイテムや素材アイテム類を差し出すのが一番有効な手段かな。
「それが一等印象に強く残るやり方でしょうから、仕方がありませんわ」
「幸いと言って良いのかは疑問ですが、貴重品といっても希少価値はそれほどのものでもなかったですからね」
そうなのだ。どうやら畑でのイベントは、敵の数が多くても一体ごとの強さはさほどではない、というものであったようで、その分ドロップアイテムのレア度は控えめとなっていたのだった。
スホシ村に到着する前のファットマウスの群れとの戦いといい、対多数の戦いに妙に縁付いてしまっているみたい。……うん。全然まったくこれっぽっちも嬉しくない縁だわ。
と、このように希少価値は控えめではあっても、ボスクラスの魔物からのドロップ品であることには間違いない。
付随するネームバリューもあることだし、いくらかの効果は見られるはずだ。
「ここさえ切り抜けられれば一段落だし、気合を入れていきますかね」
冒険者協会の支部に挨拶して、迷宮の情報を貰うだけのことなんだけどね。
とはいえ、スホシ村の内情もあらかた分かったことだし、これらのことをまとめてカワセミ君に届けてもらえば、森からの依頼も完了することができるだろう。
……いくら何でも男性陣を助けて連れ戻してこいだなんて無茶は言ってこないよね?
もちろんそうなるように努力はするつもりでいるけれど、安請け合いをするつもりもなければしていいものでもない。
もしもそんな注文を付けてくるようであれば、新しい依頼としてしっかりと対価を請求しなくちゃいけないでしょう。
とか何とか考えている内に、いつものように目的地に到着です。
うーん……。普通は大通りとかの目立つ場所にあってしかるべき施設のはずなのだが、スホシ村の冒険者協会支部は微妙に裏路地の奥、村の外れに近い場所に建っていた。
村人たちに嫌われているということもさることながら、どこか非合法な雰囲気を醸し出しておりまする。実は賭博場だったとか言われても、疑うことなくすんなり信じてしまえそうな気配だわ。
「戦闘開始といきましょうか」
小声で呟いて気合いを入れる。中に入るとがらんとしており、職員なのだろう数人の気配が感じられるだけだった。
カウンターよりもこちら側には誰もいない。その上依頼が張り出されているのだろう場所にはすっかり色あせてしまった紙が数枚貼られているだけという有り様だった。
が、これはボクたち以外に宿泊者がいないことからあらかじめ予想できていたことでもあるので気にしない。
カウンターどころか建物内に美人なお姉さんが一人もいないのがある意味新鮮だね。
ネタ的にも定番だからもしかすると?と思ったのだけれど、協会職員はセクハラが恒常化しているような連中らしいので好んで居着く女性はいなかったもよう。むしろ無理矢理働かされているような女性がいなかっただけ良かったのかもね。
「あらあら。これ見よがしな態度ですわね」
ミルファさんや、そんな好戦的なお顔で笑うものじゃありませんよ。
まあ、気持ちはとってもよく分かるけれどさ。ボクたちが入ってきたにもかかわらず、誰一人として席から立ってカウンターへと近付こうとする者がいないのだから。
ほうほう。そういう態度に出るというのであれば、こちらにも考えがあるよ。
「リュカリュカ……。とっても悪い顔をしていますけど、自覚はあります?」
あれ?なんだか誰かに向けて思ったのことと似たような台詞を言われてしまった?
……コホン!ともかく、さっそくやらかしましょうか!
「買い取りのカウンターは……、あ、こっちだね」
てくてくと目的の場所へと進むと、ボクはおもむろにアイテムボックスからドロップアイテムの数々を取り出して並べ始めたのだった。
「これにそれにあれと、こっちのもそうだし、ああ、この辺もだねえ」
どんどんと取り出してはカウンターに並べていき、一杯になったら今度はその上へどどどんと積み重ねていきます。
さあて、どこまでいけるかなあっと。
畑でのイベントで出現した魔物の数は多かったから、その分ドロップアイテムも大量になっているのよねー。
「な、なにをしている!?」
耐え切れずにあちらの誰かが声を掛けてきた頃には、買い取りカウンターの上は魔物素材で一杯、どころか山積みで向かいに立ったとしてもその姿が見えないまでになっていた。
「あと、すこし……。よし!乗った!」
ボクが背伸びをしながら手を伸ばしてギリギリで天辺に届くというところだから、床からの高さでいえば二メートル半程度にはなっていただろうね。
ゲーム内のバランス補正が働いていたのか、多様な形の物ばかりだったのに、思った以上に積み上げることができたぜい。
「うむ。余は満足じゃ」
「満足だじゃねえよ!お前一体何やってくれちゃってる訳!?」
ほほう。人気最悪、評判最低な冒険者協会職員の割には、なかなかキレのあるツッコミをするではないですか。
「でも初動が遅かったよね。せめて二段目を並べ始めたくらいで最初の突っ込みを入れないと。もっとボケを活かすために精進あるのみですぞ」
「あ、はい。ご指導ありがとうございます。って言うとでも思ったか!」
「おお!ここにきてまさかのノリツッコミとは!くっ。こやつ、やりおる……」
「話聞けよ!それと俺を芸人扱いすんな!」
「あっはっは。何をおっしゃいますやら。あれだけのやり取りができることこそ芸人の証ってやつですよ」
「もうヤダこいつー!」
半泣きになって叫ぶ職員その一さんです。
声から察するに、いい年したおじさんのようだから可愛くも可哀想でもなかったけれど。
ふっ。一回戦はこちらの圧勝のようだね!




