対談
「…チッ」
佐百合がそんなふうに舌打ちしたのかと思い、
佐百合の方を振り向けば、
消えた扉同様、佐百合の姿はどこにもいなかった。
いや、そもそも佐百合なんて小学校からの友達は
この世のどこにもいなかったのだろう。
冷静に記憶を探れば佐百合という名前にすら
違和感を覚えるほどだ。
「おい、大丈夫か」
大声の主、そして、僕を助けてくれた (?) 人は
僕の安否を確認するように話しかけてきた。
そこで気づく僕。
驚いたことにその人は女の子だった。
黒髪ロングで身長は僕より少しばかり小さい女の子だった。
一括の一喝で僕を正気に戻した人が
まさか、女の子だという事実に冷静になりかけた
頭がまた混乱する。
緊張の最中いきなり他人の大声で性別を
判別するなんて僕には出来なかった。
「…あ、えっと…だ、大丈夫です」
慌てながら、焦りながら、僕は応答する。
学校指定の女子の制服にはリボンがついている。
そのリボンの色で学年を把握する。
赤いリボン…この人は三年生か。
ならば、敬語を使うべきだろう。
「そうか、いきなりですまなかったな。私は甘寺菫という、…君は?」
「僕は…月夜見真っていいます」
第四話にして初めてこの物語の主人公の名前が作中に出てくるという不思議体験をした読者の皆様、
一番の不思議体験をしているのは悪いがこの僕だ。
頭の中が真っ白になるという表現の次は
狐につままれるという表現だ。
とりあえず、この甘寺さんは何かしら知っているのではないのだろうか。だとしたら、僕はこの人から事情を聞かねばなるまい。一刻も早く状況を理解し納得して家に帰って落ち着きたい。
「えっとだな…君は少し疲れているようだ」
ふむふむ。
「もう下校時間のようだし、今すぐ家に帰りたまえ」
…あれぇ?なんか違うぞ。
こっちからアプローチするべきかな。
「…あの、佐百合って――」
次の瞬間、壁ドンされた。
第四話になります。