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急談

壁ドンとは本来男性が女性に対し使用する、

女心をわしづかみにするための手法である。

女性を壁に寄せ、男性は片手または両手で強く、

しかし、女性を傷つけないように包み込むような形で女性が寄りかかっている後ろの壁を叩く。この時に生じるドンッと壁を叩く音がすることから通称、

壁ドンと呼ばれ――


「君はなぜ…ヤツを覚えている!?」


だが、壁ドンをしたのは情けないことに僕ではなく

甘寺菫さんだった。


「…?」


疑問符を頭の上で浮かばせながら少し考える僕。

質問の意図がよくわからない。

ヤツとは、まぁ佐百合のことだろう。

僕が佐百合のことを覚えているのは、どこか変だろうか。


確かに佐百合なんて存在を、

僕はいつの間にか当たり前のように、もっと言えば

小学校からの友達として当然のごとく認識してしまっていたけれども…


それは間違った認識であり、誤った記憶であり、

佐百合という存在を覚えているもなにもない。

最初から佐百合なんて子はいなかった。

少しの間だけ騙されていた感覚。


つまり、僕が覚えている佐百合は、

先程まで僕の隣にいて舌打ち交じりに姿を消した佐百合ということになる。


だから――


「…だって、さっきまで隣りに居たじゃないですか」


――だからそう答えた。

小学校からの友達という設定の佐百合に対する認識と記憶は、ここではっきりと嘘だと断定して、

今まで居た…そして消えた佐百合自体を指して僕は言葉を紡いだ。


「…いや、そうではない」


「え?」


僕の答えに否定をする甘寺さん。


「ヤツを追い払った時点で君の記憶からは、

昔は勿論、今のヤツの記憶もないはずなのだが」


呪縛を解いたのだから、と続ける甘寺さん。

そこで、またも頭の上で疑問符を浮かべる僕。


「……よし、詳しく説明するから一緒に教室に来てくれないか?君の身に起きた出来事を整理しよう」












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