第14話 落第騎士は正義の味方になりたい
夜の闇も降りてきた山間の村に、四人の女冒険者が一人の少女を後ろに連れてやってきていた。
彼女たち四人は真っ当な冒険者ではない。
それぞれに事情があり、違法スレスレの冒険者家業を営んで各国のギルドを転々とするはぐれ冒険者――それが彼女たちだ。
今も密入国をするべく南へと歩みを進めている最中だ。
「――頼もう! 森の少女を連れて来たぞ!」
先頭の剣士、カルティアが声を上げた。
彼女は遠く東の国で貴族として生まれながらも、地元では負け無しの剣士だった。
貴族の力を使い騎士となるも、その性別と厄介な性格から迫害され騎士団を飛び出し今に至る。
カルティナの声に反応して、家の扉が開いた。
奥から一人の老人が出てきて、その姿を確認する。
「……ああ、連れて来られたのですね」
老人は少し落胆の色を見せながら、カルティアと少女の顔を確認した。
そして目を見開く。
すかさず、横から魔術師の少女――マリーナが声をあげた。
彼女もまた禁呪使いとして魔術師ギルドを破門された流れ物の魔術師である。
「ちょっとちょっと、依頼を達成したんだからもっと嬉しそうにしなさいよ。もう外だって暗くなってるし、当然泊めてくれるわよね?」
そう言ってずかずかと家の中へ入ろうとする。
すると中から、別の屈強な男が姿を見せた。
「――用が済んだなら出ていってもらおうか」
家の中だというのに軽鎧に身を包んだ男が姿を見せる。
腰に差した剣の存在感を主張しながら、顎髭の男は少女たちにそう言った。
マリーナはため息をつきつつ、声を荒げる。
「はいそーですか、ってわけにゃいかないでしょ! 依頼量金貨100枚、耳を揃ってきっちり払ってもらいますから」
「ひゃ、100枚……!? そんな大金を約束した覚えは……」
彼女たちに依頼をした老人が、困った顔をして口を出す。
顎髭の男は老人を突き飛ばして、マリーナの前に出た。
「っひい!」
老人が床に尻を打ち付ける。
男は老人の代わりに、マリーナに答えた。
「そんな法外な値段払えるか。女を置いて立ち去れ、そうでないなら……」
男は腰元の剣に手をかけて、それを抜いた。
マリーナはそれに怯まず口を開く。
「あんたは関係ないでしょ!? っていうかあんた誰よ!」
「――冒険者風情が調子に乗るな。我々はラインケイル騎士団だ。故あって人捜しをしている。村人たちは我々に協力していたに過ぎない」
マリーナの言葉に、男はそう答えた。
隣で聞いていたカルティアが眉をひそめる。
男はそれに気付かず言葉を続けた。
「わかったらさっさと――」
「――確認するが、お前たちは騎士なんだな?」
言葉を遮ったカルティアに、男は頷く。
「ああそうだ」
「……わかった。争うつもりはない。だが既に夜だ。せめて宿は借せ」
カルディナは連れて来た少女を、男に引き渡す。
男は少女を家の中に引き入れた。
「――チッ、まあそれぐらいならいいだろう。おい、誰かこいつらへ適当な寝床を貸してやれ!」
男が声を上げると、奥から男と仲間とみられる男たちが顔を見せた。
カルティアは睨み付けるような視線を男たちに向けつつ、男たちの言葉に従うのだった。
* * *
夜がさらに更ける。
指定された村外れの納屋の中で、四人は息を潜めていた。
――そして、時が訪れた。
「――起きろ! 起きろお前ら!」
それは見張りに立っていた、騎士と名乗る男たちの声。
家の中で待機していた仲間がのっそりと出てくる。
――まさか村の中でそんな言葉を聞くと、おそらく彼らは思っていなかったはずだ。
「起きろ! ――敵襲だっ!!」
見張りの言葉に起こされて、さすが騎士と言ったところか、夜中にも関わらず家の中からぞろぞろと男たちが出てくる。
事態を聞きつけて出て来たリーダー格の顎髭の男が声を上げた。
「敵襲だと!? こんな村の中で、いったい何が!」
「それが――ゴブリンです! ゴブリンの群れが!」
「ゴブリン……!? こ、こんなタイミングで……!?」
見張りの言葉に、男は部下たちを集めながら状況を確認する。
「む、村を囲まれています! 最低でも50……いや100体ほど……! 今はジリジリと包囲を縮めているようです!」
「奴ら松明を持っていて……!」
「松明……!? 火を付ける気か!?」
「も、もしそうなれば火に巻かれる可能性も……」
部下の言葉に顎髭の男は考え込む。
そこに先ほどの老人が家から出てきて、地面に膝を着いて声を上げた。
「――騎士様! どうかお助け下さい! 村の物は何を持っていっても構いません! 村民の命だけは――!」
老人の言葉に、男は大きく顔を歪めた。
その表情からは、迷いと、そして焦りが見える。
「……く、おいお前たち! 荷物をまとめろ!」
「騎士様! わたしたちを見捨てるのですか!?」
老人の言葉に男は怒りの表情を浮かべた。
「――うるさぁい!」
剣を抜き、男は老人へと斬りかかる。
しかしキン、と金属音が鳴って、その刃は防がれた。
「お、お前は……さっきの冒険者……!」
老人の前にはカルティアが立ちはだかり、その剣を抜いていた。
その眼光は真っ直ぐと騎士の男を見据えている。
「――度し難い」
低く唸るようなその言葉に、騎士は怯むように「ひっ」と声を上げた。
男が剣を引くと、カルティアはその剣を収める。
「貴様、騎士だというのに罪無き民草に手をかけるというなら――このボクが相手になろう」
彼女の言葉に、男は冷や汗を浮かべつつも笑った。
「お、女剣士一人に何ができる! こちらは配下の騎士が大勢いることを忘れるな!」
「くっ――!」
カルティアは男を睨み付ける。
しかしその後ろから、三人の少女が間に割り行った。
「――はいはーい、争う気はありませーん。ただうちのリーダーがこう言っておりますので、わたしたちは村の人担当ってことでどうよ?」
「……どちらにせよ、既に村はゴブリン包囲されている。お前たちにも逃げ場はない」
「戦うのであればー、村の人たちは任せてくださいー、って感じでー、役割分担?」
冒険者の少女たちに威圧されて、騎士の男は奥歯を噛みしめた。
「……フン、小娘が……! まあいい! 村人は戦いの邪魔になる! そこまで言うならそいつらに面倒を見させてやれ!」
騎士は部下たちに向かってそう声を上げた。
「――おい何をやってる! 早く兵を集めろ! よく考えれば相手はたかがゴブリンだ! 蹴散らして追い払えばいいだけだろう!」
「で、ですが相手の数が多くて、このままでは……」
「数の差があるなら壁を作り籠城だ! 相手は策を考える頭もない、雑兵以下のゴブリン! いくら数がいようが、恐れる必要はない!!」
苛立ち混じりの騎士の声が響く中、カルティアたちははぐれる村人が出ないよう注意しつつ、村人たちを村の一角へと誘導するのだった。
* * *
ほどなくして、戦いが始まった。
極限まで縮まった包囲網が決壊するように、ゴブリンたちが村へとなだれ込んでいく。
「――だ、ダメです! 抑えきれません!」
「何をやっている! 相手はゴブリンだぞ! それでも貴様らは精鋭騎士か!」
リーダーの男の言葉に、部下は答える。
「そ、それが、ゴブリンではない奴が先頭にいて――!」
何人かの騎士がなぎ倒され、その場に倒れる。
その最前線の場所に、騎士たちの壁を崩す一人の男がいた。
「奴は――何者だっ!」
その声に呼応するように、その男は口を開く。
それは一振りの細剣を振るい、魔法を操り、騎士たちを倒していく一つの影。
「――余は歴代最強の魔王にしてゴブリン精鋭部隊が頭首!」
その影は剣を掲げ、松明の明かりを背に月夜に吠えた。
「リンド・リバルザイン三世! 何人も余の前にひれ伏し、恐れ戦くがいい!」




