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20話 であい

 リベンジJr.の気絶退場後、白熱した試合が進行した。


 そして、遂に決勝、東の国のドラコと帝国代表ニャンコロピーの試合は壮絶なる激闘のすえ、ニャンコロピーが勝利し、御前試合は幕を閉じたのだった。





 そしてすべてが終わったあと、ベッドの上で目を覚ましたリベンジJr.は、見慣れぬ天井から悟った。



「…………」



 ああ、俺は本当に。




 人生をやり直さなければ、ダメになる。




 窓から降り注ぐ月光に、リベンジJr.人生最期の涙が輝いた。





 翌日、騎士団長ルーズベルトから、治療室からリベンジJr.が失踪したと聞いたカリエスは、そう、とだけ呟いた。



 彼が身分に縛られず、自由に生きることができたら……コンプレックスから解き放たれたら……。



「まあそれが吉と出るか凶と出るかはあいつ次第ね。野垂れ死なないことを祈るわ」






 帝国周辺の森で、リベンジJr.は野宿をしていた。


 先日の屈辱的敗北の記憶を振り払うように、力強く刀で素振りをする。



「くそっ……!くそっ!」



 だが、腕の細いJr.は、すぐに疲れて刀を置いてしまう。


 息も上がり、したたる汗が焦燥感を強める。


 静かな森。風が木の葉を揺らす音だけが響く。



 誰もいない孤独な世界に腰を下ろし、彼はため息をつく。



 情けない自分にいい加減嫌気がさして飛び出してきたものの、なにか計画があるわけでもなかった。


 騎士として挫折したなら、はぐれ冒険者にでもなるか?いやそもそも弱いから逃げ出したのだ。やっていけるわけがない。



 商人になろうにも、コネもなければ学もない。正直手詰まりだった。



 どこかの農村にでも転がり込んで、クワでも奮って生きていくかと項垂れていると、目の前を小動物が横切った。



 ただのウサギであった。



 魔物ですらない、なんの変哲もない白いウサギ。ぴょんぴよんと無防備にJr.の前を跳ねていく。



 巨大な鳥には餌に見られ、小動物には害のない生き物とスルーされる。


 

 人間社会で受け入れられなかった者が自然界で受け入れられるはずもなかったのだ。



 Jr.は目の前のウサギを狩ることなく、その日の夕食はその辺に生えていた木の実を齧った。


 熟れていない木の実はしぶく、食えたものではなかった。




 次の朝、池のほとりで服を洗っていると、向こう岸の木陰でガサゴソと物音がした。


 

 動物か魔物でも現れたか、と咄嗟に手元の剣を構えるJr.だったが、ひょっこりと頭を出したのは、人間の女の子であった。



 歳は十代半ばあたりだろうか。赤髪の少女であった。


 帝国から、薪でも拾いにやってきたのだろうかとJr.は考えたが、それにしても少女は軽装すぎた。


 真っ白なワンピースを着て、白い肌を剥き出しにしている。木の枝に引っ掻かれて傷でもできないか、見ていて心配になるほどのラフなスタイルである。



 抜け出してきたとはいえ、Jr.も元騎士。身の安全を案じて、少女に声をかけることにした。



「おーい、そこの君。こんなところにひとりで来て、大丈夫なのかい?」



 声を張ると、少女はJr.に向かって叫び返した。



「大丈夫です!いまからそちらの岸に行くので、そこで待っていてくれませんか?


少しお話ししましょう!」




 その返答に、Jr.はポカンとする。森の中で会った男に、無用心に近寄ってこようとするとは。危機感がなさすぎるのではないか。



 少女はてってって、とほとりを走り、Jr.の前に来る。


「こんにちは!」


 無邪気な笑顔を向けられ、Jr.はどきりとする。打算のない感情に当てられるのは久々だったのだ。



「あ、ああおはよう。君は帝国のひとかい?」



 赤髪の少女は、Jr.の問いに対して、はい、とうなずくと、おもむろに手のひらをJr.に向けた。



「……?なんだい?」



「ちょっと気絶してください」



「え……?」



 その瞬間、Jr.の腹部に圧力がかかる。



 胴体に穴が開くかのような感覚に、思考の全てが奪われる。暑すぎるぬくもりが全身に満たされて、鈍い痛みが襲ってくる。


 そして、やがて事切れたかのように意識が遮断される。



 少女は握りしめた拳を開くと倒れ込むJr.を優しく受け止めた。



「この感覚を忘れないでください」


 

 優しい声だった。





「私の名前はホミン。先日あなたが戦った、クリスの妹です」



 吐瀉物塗れの顔で目を覚ましたJr.に、水筒を差し出す少女。Jr.は、目の前の水筒を、自然に一口飲んだ。



 寝起き一番の自己紹介は、なんの情報よりもすっと頭の中に入った。


 この女の子の名前はホミン。しっかりと記憶に定着した。



 Jr.は起き上がろうとするが、腹部の激痛に、すぐに倒れ込む。腹筋がバラバラに切り裂かれたかのようだった。



 空を見渡すとすでに星が出ていた。最後の記憶は、すがすがしい朝のはずだったのだが、池のほとりで何時間も気絶していたらしい。


 

 Jr.はなぜ気を失っていたのかを考える。そして思い出す。ホミンを名乗るこの少女に、腹を殴られたのだった。



 ホミンは、岩の上に座って星を眺めていた。その横顔は、たしかに御前試合で戦った……もとい、Jr.を一方的にのした、北の国のクリスに瓜二つであった。



「ホミンちゃん、とやら。状況があまり飲み込めないんだけど、いったいどうして君は突然俺を殴ったんだい?」



 優しく聞くJr.。すると、ホミンはんー、と頬に指を当てながら答えた。



「あなたに、強くなってもらいたかったからですかね。一度魔力をからだに流し込まれる感覚を味わっておくと、この後の修行もスムーズにいきますから」



「は?……修行?なんだと?」



 要領の得ないホミンの言葉に、Jr.は困惑する。この子はなにを言っているのだろう。



 ホミンは岩の上から降り、地に伏すJr.の横に座り込むと、端的に自らの目的を伝えた。




「私は、姉のクリスを倒してくれる人間を探しているのです。そこで、あなたに協力してもらいたいのです」



 ホミンの宝石のような丸い瞳が、Jr.を飲み込んだ。

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