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19話 たいこうせん

 試合当日。


 巨大な闘技場の観覧席で、今大会の主催者、次期帝王候補セイレス姫は、四国の出場選手表を見て、舌打ちをした。


「4人中3人が女?私をなめているのかか?」


 セイレス姫は、帝王を継ぐための実績を欲していた。しかし戦や飢饉など、解決すべき問題はこの時代には存在せず、平和が故に有能を証明することが難しかった。


 そこでセイレスは、今回の国対抗模擬戦の開催をもって、自らの命令で各国の巨大戦力は動かせるのだぞ、ということを国民に示そうとしたのである。



 それなのに、四国が代表として選出したのは、筋骨隆々の武芸者ではなく、しなやかな女性たちばかり。唯一の男の出場者、西の国代表のリベンジJr.も見るからに弱そうな痩せ型で、鎧も着ているというより着られてるといった様子だった。


 苛立ちを隠せないセイレスに、マルティーンは提言する。


「そんなことはありませんわ、セイレス姫。各国の選手は、その名を轟かす強兵ばかりです」


 マルティーンは選手を紹介する。


「まずは北の国。(ノーム )ドワーフ族代表。クリス」


 工房の作業服を着た赤髪の女性、クリス。肩には身の丈ほどある巨大なハンマーを担いでおり、彼女が尋常でない膂力を秘めることがわかる。


「北の国の主力産業は工業と医業。彼女は国一番の技術を誇る製鉄工房の技術者ですわ」



「なに?本職の戦士ですらないのか?」


 眉をピクリと動かすセイレス。マルティーンは動じない。



「その通りです。しかし本職の戦士ですらないのに、この場に連れてこられたのです……もちろん、弱いはずもありません。彼女の持つ伝説をひとつご紹介しましょう。

2年前、北の国で古の魔物「飛龍ザビドラ」が、街に現れ、たくさんの工房を襲った件はご存知でしょう」



 セイレスは頷く。2年前受けた被害報告は、忘れるはずもない。毎日のように、建物が破壊され、人々が怪我をした話が入ってきた。


「飛龍退治には国軍が向けられましたが、討伐は難航。むしろ被害は増える一方。解決の糸口が掴めない日々が過ぎていく……しかしある朝。


町の広場に、頭蓋のひしゃげた飛龍が、横たわっていたというのです」



「それをしたのが、あの女というわけか?」


 疑わしげな表情を浮かべるセイレス。マルティーンはふふ、と笑った。



「本人が黙秘していたので、正式な報告には上がってません。ですが、その日彼女の自室には真っ赤に染まった服とハンマーがあったそうですよ」



 クリスは、あくびとともにハンマーをくるりと回した。


 総重量500キロのハンマーを、片手で。




「続いては、南の国、ウンディーネ族代表 フィッシャーボルト」


 フィッシャーボルトは、質素な布切れを着た貧相な少女であった。

 生業は、漁師であるという。



「なんだと?あのナリで船に乗っているというのか?揺れる船で立っていることもままならなそうだが?」


 セイレスの疑問に、マルティーンは待ってましたとばかりに答える。


「ええ、彼女は根っからの虚弱体質です。船酔いへの耐性もなく、船乗りにはまったくもって向いていません」


「……?それなのに、漁師だと?」



「ええ彼女は船には乗らない漁師なのです。


 彼女は、海上を飛び、鳥のように魚を狩るのです」



 南の国は漁業が盛んであった。海流の影響で、海岸に豊富な海の幸が集まるのである。


 

 そんな南の国の名産品が「跳魚 チョウビ」である。


 魚でありながら、海上から飛び出て、虫などを食べる不思議な生き物、チョウビ。


 チョウビの漁は、簡単なようで難しい。


 海上に飛び出たところを網で捕まえるのは、ピンポイントに出現場所がわかっていないと難しい。また、捕らえたと思っても、チョウビの推進力は凄まじく、時には網を破ってしまうのだ。


 しかし、その分筋肉があり、身が引き締まっており、刺身にすると絶品。


 この国を訪れた旅行客は必ず食べていくという。


 需要があるのに、供給が難しい魚は、自然と高級品になる。


 しかし、ある年、チョウビに価格破壊が起こった。


 フィッシャーボルトが、漁場のチョウビを大量に狩ったのだ。



「彼女は魔力を針状にし、海面に柱のように突き刺すことで、空を飛ぶことができます。

そして、海上を見渡し、チョウビが跳ね上がった瞬間、魔力の針を飛ばし、一本釣りにする。


これが、彼女の確立した漁法「フィッシャーボルト漁」です」



 セイレスは、唸る。


「ううむ……偉業は理解したが、しかしこれは戦いだぞ?ただの漁師が戦えるのか?」



 マルティーンは、肩を竦めた。


「さすがにこれは未知数ですね。ですが、魔力の針の危険性はたしか。地元の漁師たちは、彼女と喧嘩になることを避けていると聞きました」




 次に紹介されたのは、東の国サラマンダー族代表、ドコモだった。


 華やかな民族衣装を着て、顔にはタトゥーの入った女、ドコモ。


 手に持つのは無骨な一本槍。


 これまでの代表者とは異なり、本職の戦士であることは明らかだった。



 マルティーンは解説する。



「東の国のドコモといえば有名ですね。魔王城のある山に住む、奇特な山岳民族ジャギの戦闘部隊の少女です。

国とは盟約を交わしているため、今回出場を、打診することができたそうです」



「……ジャギは、魔物との混血という噂を聞いたが?」



「魔力の強力さが生んだ噂です。交流が生まれる前は、かなり閉鎖的な民族でしたからね」



「ふん……まあ強ければいい」



「そして西の(シルフ)エルフ代表は、リベンジJr.。彼はかの英雄、騎士団長リベンジの御子息です」



「魔王殺しのリベンジか!」



 セイレスは目を輝かせる。西の国の魔王城を制圧した男、リベンジの伝説は王国まで届いていた。


 その息子というのだから、期待できる。セイレスの心は踊った。



 実情を知るマルティーンは多くは語らず、にっこりと笑った。




「そして、帝国アルケミスト族代表は、ご存知、転生者ニャンコロピーです」



 フード服を着た気怠けな少女、ニャンコロピー。彼女は『異世界』から転生してきた少女である。


 転生者とは、ごく稀に現れる前世の別世界の記憶を持つ者。


 彼らは共通して、「大きなことをやらかす」と言われている。


 それが利益に繋がるか、不利益に繋がるか……それは時代による。



 セイレスは、ニャンコロピーが王女になるために必要な駒だと見ていた。



 帝国代表が優勝すれば、選出したセイレスの眼も信用されるというものだ。




 そう、実のところ決勝はニャンコロピーが勝つ八百長試合が決定している。



 この御前試合は、一から十まで、セイレスに箔をつけるための自作自演なのである。



 それなのに、各国の選手に文句を言うセイレスに、先ほどからマルティーンは解説しながら、内心舌打ちをしていたのであった。





 控え室でリベンジJr.は、重い鎧によろよろしながら、時を待っていた。



 カリエスは、リベンジJr.に尋ねる。



「どう?勝てそう?」



 リベンジJr.は、へっ!と笑い飛ばす。


「当たり前ですよ!カリエスさま。なんせ相手は女ばかりですよ!ここで勝てなきゃ男が廃るってもんです!」



 フラグを立てまくるJr.に、騎士団長ルーズベルトは不安を抱く。



「あの……カリエスさま、本当に大丈夫でしょうか?いまからでも、私かマリスに交代しても」


「ルーズベルト、カリエスさまの采配に疑いを持つか?」



 マリスがルーズベルトを鋭い目で牽制する。マリスは、気に食わない同僚が恥をかくことには、大賛成なのだった。



「大丈夫よ、Jr.。あなたならできるわ」



 カリエスも太鼓判を押す。Jr.はおうよ!と元気よく親指を立てるが、ルーズベルトには溶鉱炉に突き落とされる最期の姿に見えた。




「じゃあ!行ってくるぜ!!!」



 闘技場へ足を踏み出すリベンジJr.。



 漢リベンジJr.の物語はここから始まる……!




 西の国代表リベンジJr.。


 対戦者は北の国代表、ハンマー使いのクリス。



 試合にハンマーを用いられず、開始10秒、デコピン一発で終了したという。



 沈む意識のなか、クリスの声が鮮明に耳に残った。



『あなたのいるべき場所はここじゃない』


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