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過去(夢)

「蒼井ソウマ。2007年4月5日生まれの19歳、男性。間違いはない?」

目の前の女性が俺の履歴書を見ながら聞く。

「はい、ないです。」

2026年、5月。俺はコンビニでのバイトのための面接に来ていた。

「最初に聞きたいんだけど、少々どころか結構交通の便が不便なこのコンビニに、バイトを決めた理由は?」

「……給料が、良かったからです。」

「本当に……?だって、君、大学生でしょ?もっといいとこがあるはずだよ?」

もちろん、嘘だ。

正直な理由は特にない。強いて言うなら

「親父が、死んで。仕送りを期待できなくなっちゃって。だから少しでも給料の高いとこにしようと思って。」

これは、半(・)分(・)本当だ。

親父が死んだのは事実。ただ、仕送りなど最初からなかった。

あいつらは……俺に仕送りなんか、したこともなかった。

正直、小さい頃から貯めてきた貯金で大学卒業までは生活できる分はある。

ただ、一人暮らしという状況だから、何かあった時用に金は欲しい。

そう。何かあった時用に。


例えば、一人暮らしの学生があ(・)る(・)日(・)急(・)に(・)失(・)踪(・)し(・)た(・)時(・)とか。


もう、どうでも良くなった。

うちの親は、俺が8歳の時離婚した。


母親は、当時5歳の妹を連れて出て行った。

子供の俺には、離婚の原因なんかわからない。

ただ、夜寝るときに、親がよく喧嘩していたのは朧げながら覚えている。


今となっては、妹の顔どころか、名前すら覚えていない。

親父は母と妹に関する情報を全て捨てたらしい。


今になって探しても写真ひとつ見つからない。


……今更、会いたいのかもわからないが。



そして俺が13の時、親父は再婚した。

バーで出会った、若い女性だった。

その人は、高圧的で、家の中ではいつも威張っていた。

親父はもう歳で、逆らう気力がなかったのかもしれない。


俺は俺で、あの人とは上手くいかなかった。

あの人も、俺のことが嫌いだったのだろう。


俺が大学に入ってすぐ、親父は死んだ。

働きすぎによる虚血性心疾患ーーいわゆる過労死だ。


妻とは離婚し、娘とは別れ、再婚した人に振り回され、挙げ句の果てに過労死。

親父は何を考えて生きていたのだろうか。何を考えて死んでいったのだろうか。

今となっては、何もわからない。


親父の死後、葬儀とかは会社の人がやってくれた。

俺は葬儀に出なかった。


もう、関わりたくなかった。

親父は、俺とあの人の関係が悪いことを知っていながら無視をしていた。

そのうち俺も、親父に関わらなくなっていった。

親父のことを、嫌うように、なっていたのかもしれない。


最後の会話さえ、覚えていない。

そもそも、最後に会話したのがいつなのかも、覚えていない。



不思議と、後悔はなかった。

親父が死んで、あの人と二人っきりで取り残された時、俺はただ、「もう、ここにいなくてもいい」と、思った。

しがらみが、全て消えた。


一人暮らしを始めた。

あの人に、最低限のことを書いた手紙を置いて出ていった。

あの人とは一応LINEがつながっているが、連絡が来たことはない。

多分、これからも。ずっと。


マンションを見つけた。築3年、3LDK。

曰く付きで、家賃は月4万。


幽霊は、怖くなかった。

別に、どうでも良かった。


どうでも。


いっそのこと、どこかへ失踪してみようかと思った。

目的地を決めず、ただ自由に進む。


旅先で、野垂れ死ぬもの、悪くないとさえ思った。

ただ、何をするにしてもお金が必要だ。旅行するのも、移動も、食事も、宿泊も、死ぬのも。

だから、給料の高いここに来た。


でも、雇ってもらえるように嘘で固める。

俺のことを嘘で固めた『蒼井ソウマ』は完璧で、善良な人間だ。


そう。本当に。

嫌になるくらい。


「じゃあ、明日から来てもらうっていうことでよろしいですか?とりあえず、現場の動きを見て判断するので。」

「はい、了解しました」

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