14話 不吉な影と寺
俺達がミーティングをしていると、丁度いい具合に奈來が起きて来た。
「おはようリュカ、昨日は遅かった――あ、お前がもうひとり……」
朝から何を寝ぼけたことを――ん?
「やあ、奈來くんだったかな? 我も捜査に加わるのでよろしくな」
そう奈來に笑顔で応えるマスターは、美しいブルーグレーの長い髪に蒼い瞳が艶めかしく、俺の知らないマスターが煌々と変身している。
い、いつの間に……あ、もしかして――
「死神ちんはこの姿で奈來ちんと逢ったのだ、だから驚かないのだー!」
そう俺を小馬鹿にするラパを他所目に、マスターはコーヒーカップの湯気越しに優しく応える。
「リュカよ、これは人間専用の姿だよ、驚かすわけにはいかないからね。フフッ」
ああ、笑顔が眩しい……と感動に震えるも、やっぱりいつものマスターに勝るものはないので、美的センスのかけらもない奈來よとっとと失せろと声を大にして言いたい。
そんな奈來が、
「申し訳ない、リュカとよく似ていたので。捜査に参加して頂けるとは光栄です。で、人間専用とはどういう?」
と、俺の承諾なしにマスターに問い掛ける。愚か者めが、俺より長生きしてから聞け。
ということで、話を逸らそう――
「そ、そそ、そんなことはどうでもいいんだよ、それよりあれだ、お前に聞きたいことがある」
「……なに動揺してんだよ」
しまった、俺としたことがつい……。
「別に動揺なんて……それより、ネットオークションや玩具メーカーについて何かわかったか?」
「ああそれとは別なんだが、きのう県警の知り合いから今日の昼に、喪主の女性がお寺へ法要に行くと情報が入ったんだ」
奈來の話に、マスターはまた腕組みをして何かを考えている様子――
「それは興味深い、では我らも向かうとしよう。奈來くん、ラパをよろしく頼む」
――えっ?!
「ああはい、わかりました。外に部下がおりますので、詳しい話しは部下に聞いてください」
「了解した。ラパ、ここを頼んだよ」
「わかったのだ! 任せるのだー!」
マスターはなぜ急に考えを変えたのか、組織を捜すより女性の行動を優先させる意味とは――
そう悶々としながらエレベーターに乗ると、マスターが俺の肩に手を置いて言う。
「リュカよ、我は確かめたいことがあるのだ。悪いが付き合ってくれ」
「何かあるんだね? うん、わかった」
表に出ると、レオンが満面の笑みで立っていた。
「おはようレオン。あれ、車は?」
「おはようございますリュカさん。車は少し離れた場所に停めてあります――そちらの方は?」
「ああ、紹介しよう、俺の上司のマスターだ。今後は一緒に行動することになる」
上司と聞いて察したのか、緊張した面持ちで挨拶をする。
「あっ、えっと、リュカさんにはお世話になっております! 依澄レオンと言います!」
「おはようレオンくん、そう緊張せずフラットにいこう。では案内をよろしく」
マスターの大きさに一歩後退するレオン。スケルトンの姿でさえ俺も見上げるんだ、肉が着けばそれなりに……どうでもいいか。
「慣れだよ、慣れ」
「いや……そういうこっちゃないっすよ……リュカさんに負けじ劣らず美しい……」
あからさまに好意の眼差し、そっちか。
そんな不埒なレオンの後に付いて、少し歩いた街路樹の脇に、いつもとは違う、大きめで黒いスモークが貼ってあるワゴン車が見えてきた。
レオンの話だと、謎の女性に車の中で詳しい話を聞き出すためだとか。
軍警は管轄外、なら警備を名目に家まで送るとでも言えば、仕方なく同乗するだろう。
それはそれで、俺達も協力しなければならない、奈來もよく考えたものだ。
車に着いて、レオンが後部座席のドアを開けて俺達を促す。しかしマスターは助手席のドアを開けてさっさと座る。流石に狭いだろ、と思いながらも俺は黙って後部座席に座る。
レオンはそれはもう満面の笑みでハンドルを握る、浮かれて事故るなよ。
レオンは黙って車を出発させる、どうやら目的地を知っているようだ。
しばらく走ったころ、沈黙していたマスターがレオンに話し掛けた。
「なあレオンくん、君は運転が得意か?」
「はい、それなりに――このままで?」
「うん、任せるよ」
その後の言葉は無かった。
俺はバックミラーでしばらく後方を見ていると、同じ車種の車が変わることなく付いてくる。道は空いているのにも関わらずだ。
付けられているのか、だとして、軍のレオンが何も気付かないはずがない。マスターは気づいているかレオンに確認した、ならここは様子見だな。
賑わう都会の街中を抜け、山をひとつ越えた辺りに、瓦礫と鉄くずが散乱する物静かな平地で車は止まった。
殺風景な景色にぽつりと古い建物が目に止まる。あれはこの国でいう寺院ではないだろうか、歴史ある門構えが物語っている。
俺は車から降りて辺りを見回すと、後方にいた車の姿はもうなかった。マスターが降りて、レオンが車に鍵を掛けた、手に花束を抱えて。
俺とマスターが歩き出すと、レオンが間に入り、小声で話し始めた。
『この寺は安穏寺と言って、不慮の事故で亡くなった者や無縁仏しか入れない、特別な寺なんです。それと、調べてわかったんですが、佐伯の両親もこの寺に眠っています』
『佐伯の両親が? なら事故死か――』
『はい。住職にも確認したので間違いないかと』
マスターが質問をする――
『ふむ、では人形を供養する場所はあるか?』
マスターの言葉に俺とレオンは顔を見合わす。
『ああはい、確か本堂の横に供養専用の建物があったと思います』
『ならば我はそちらを見張るとしよう。リュカよ、そっちは頼んだぞ』
俺はマスターの確かめたいことの意図を、レオンは見張るという意味を、それぞれが察した――




