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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
五章 セラフィナとベルンハルト公爵領

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5.ラファエル、十九歳

 季節は春になっていた。

 春にはラファエルお兄様とアルベルト様のお誕生日がある。

 二人は従兄弟同士で、長子で、ほぼ同じ時期に生まれたということになる。

 ルクレール公爵家のユリウス様も同じ年なので、ラファエルお兄様は二人の従兄弟と同じ年に生まれたのだ。

 わたくしは同じ年に生まれたのはリヴィア嬢とセリーヌ嬢くらいしか知らないが、従兄弟同士でこんな風に同じ年に三人も生まれるのは珍しいのではないだろうか。

 アルベルト様よりも少し早いラファエルお兄様のお誕生日には、わたくしはマーガレットの花束を用意した。真っ白なマーガレットはかわいくて、お兄様にプレゼントしたかったのだ。

 ラファエルお兄様のお誕生日のお茶会には、ミカはまだ出席できなかったけれど、ミカも初夏にはお誕生日が来て、そこで初めてのお茶会に出る。そのときには演奏会もするのでその練習に夢中になっていて、わたくしたちが羨ましがられることはなかった。

 ラファエルお兄様は成人して、結婚もしているので、お茶会だけでなく晩餐会も夜会も開催されてもおかしくはないのだが、学生の身だからとラファエルお兄様は遠慮してお茶会だけ開催することになっていた。

 お茶会の当日、わたくしはラファエルお兄様の部屋に花束を届けに行った。

 真っ白なマーガレットを渡すと、ラファエルお兄様が微笑んで受け取ってくれる。


「今年はマーガレットなのだね。嬉しいよ」

「お兄様、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう、セラフィナ」


 マーガレットはラファエルお兄様が部屋に飾ってくれた。

 わたくしはマーガレットを渡すと、自分の部屋に戻ってお茶会の仕度をしようとしたのだが、ミカが駆け込んできてわたくしの手を掴む。


「お兄様、お誕生日のお祝いに、一曲歌わせてください」

「ミカエルが歌ってくれるの?」

「はい、練習しました。お誕生日の歌です。お姉様も聞いていて」

「はい」


 ラファエルお兄様と一緒にミカの歌声を聞く。

 ミカは堂々とお誕生日を祝う歌を歌いあげた。伴奏もなく、一緒に歌う相手がいなくても、ミカは一人で歌えてしまうのだ。

 歌い終わって頬を薔薇色に染めたミカに、ラファエルお兄様とわたくしは拍手をした。


「とても上手だったよ。お祝いの歌をありがとう」

「ミカ、素敵でしたよ」

「どういたしまして、お兄様。オトテール先生とこっそり練習した甲斐がありました!」


 誇らしく胸を張ってラファエルお兄様の部屋を出て行くミカに続いて、わたくしも部屋を出て自分の部屋に向かう。途中でミカに声をかけられた。


「お姉様、アルベルトお兄様のお誕生日にも歌って差し上げたいのです」

「今日の帰りにアルベルト様にミカの部屋に寄ってくださるようにお願いしましょうか。少し早いけれどお祝いができるでしょう」

「お願いします」


 ミカはアルベルト様のお誕生日も歌で祝う気満々だった。

 ミカの堂々とした歌に胸がほっこりしていると、マティルダさんがわたくしの着替えを手伝ってくれる。

 わたくしのドレスは一人で着るには背中で留めるタイプのものなので、少し難しかった。

 わたくしがドレスを着せてもらっていると、お母様が部屋にやってきて、わたくしを呼ぶ。ドレスを着せてもらったわたくしが部屋の鏡の前に座ると、お母様は櫛でわたくしの髪を梳いて、前髪を三つ編みにして横に流してくれる。


「後ろはどうしますか?」

「後ろはこのまま流しておきたいのですが、子どもっぽいですか?」

「セラフィナは髪が長いのでハーフアップにするのはどうでしょう?」

「リボンをつけてくれますか?」

「はい。リボンで結びましょう」


 髪型をお母様が整えてくれて、わたくしはラファエルお兄様のお誕生日のお茶会に参加した。

 わたくしの席は、アルベルト様の横で、ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様は主催として別のテーブルに移ってしまったけれど、アルベルト様がいるので寂しくはなかった。

 それに、同じテーブルにリヴィア嬢とセリーヌ嬢もいる。


「ラファエル殿下のお誕生日、本当におめでたいですね」

「お姉様と仲睦まじい様子で安心しました」


 セリーヌ嬢とリヴィア嬢の言葉に、わたくしはラファエルお兄様の方を見る。ラファエルお兄様はアンリエットお義姉様と一緒に挨拶をしていた。


「わたしの十九歳の誕生日にお集まりくださり本当にありがとうございます。わたしは現在、妻のアンリエットと共にアカデミーで学んでいます。将来この国のためになるように、しっかりと学び、来る日にはアンリエットと共にこの国を治められるようになりたいと思っています。今後ともよろしくお願いします」

「我が夫、ラファエル様の誕生日のお茶会に皆様参加くださりありがとうございます。わたくしは結婚してまでアカデミーに進学できるとは思っていませんでした。それも皇帝陛下と皇后陛下がわたくしたちに期待をしているからだと受け止めています。その期待にこたえられるように勉学に励んでいきたいと思います」


 寄り添う二人は幸せそうで、わたくしはそんな様子が羨ましくなってしまう。

 アルベルト様の方をちらりと見ると、微笑んで拍手をしていた。

 皇女セラフィナとして出会ってから、アルベルト様は年々表情が柔らかくなり、態度も穏やかになってきたと思う。それがアルベルト様の本来の姿なのだろう。

 わたくしが生まれたときにはクラリッサをなくして失意の底にいたアルベルト様。今はクラリッサのことをわたくしに話せるようになり、心の中ではひと段落着いたのだろう。


「セラフィナ、リヴィア嬢、セリーヌ嬢、歌劇のチケットが取れたという話は聞きましたか?」

「取れたのですか?」

「わたくしは姉から聞いております」

「わたくしは今知りました」


 喜びの声をあげてしまったわたくしと、落ち着いて返事をするリヴィア嬢と、わたくしと同じく喜びで声が弾んでいるセリーヌ嬢。

 どうやらアンリエットお義姉様は歌劇団のチケットを確保してくれたようだ。


「ボックス席が二つ取れたそうです。どういう風に分かれて座るのか、話し合って決めなければいけませんね」

「お兄様とアンリエットお義姉様は二人きりにして差し上げたい気がします」

「分かります。新婚ですからね」

「そうなると、もう一つのボックス席に、わたくしとリヴィア嬢とセリーヌ嬢とミカとアルベルト様が入ることになりますね」

「ボックス席は六人まで座れるので大丈夫でしょう」


 アルベルト様の提案に、わたくしとリヴィア嬢とセリーヌ嬢で話し合っていく。

 ボックス席で見られるのは嬉しいし、わたくしたちはまだ小さいので、六人が座れるボックス席ならば、ゆっくりと観劇できるだろう。


「その話、わたしの方からラファエルとアンリエット皇太子妃殿下にお伝えしましょう」

「お願いします、アルベルト様」


 申し出てくれたアルベルト様に、わたくしはお願いすることにした。


 春なのでまだ苺がギリギリ残っている。

 春の苺を集めたお茶菓子は、とても美味しかった。


 お茶会がお開きになるころに、わたくしはアルベルト様を誘っていた。


「ミカがアルベルト様にお誕生日お祝いの歌を歌いたいと言っていたのです。少し早いですが、受け取ってくれますか?」

「ミカエルが。それは嬉しいよ。喜んで行かせてもらうよ」


 お茶会の会場から抜け出して、わたくしとアルベルト様はミカの部屋まで行った。

 ミカは部屋でお茶を飲んでいたが、アルベルト様とわたくしが来たのに気付いて、ソファから立ち上がって背筋を伸ばした。


「アルベルトお兄様、少し早いけれど、お祝いの歌を聞いてください」

「聞かせてもらうよ」


 アルベルト様が頷くと、ミカは息を吸い込んで歌い出した。

 それはラファエルお兄様に歌ったのと同じ曲だったが、アルベルト様は初めて聞くのでとても嬉しそうにしていた。

 歌い終わってミカが一礼する。


「アルベルトお兄様、お誕生日おめでとうございます、少し早いけど」

「ありがとう、ミカエル。とても素晴らしい歌声だったよ」

「お兄様とアルベルトお兄様に聞かせるために練習したのです」

「そうだったんだね。とても嬉しいよ」


 惜しみない拍手をミカに贈るアルベルト様に、ミカは誇らしそうな顔で胸を張っている。ミカのそばにはローランが控えていた。


「君がミカエルの従者のローランかな?」

「はい、ローラン・アゼマと申します」

「ミカエルが学園に進学するときに、従者を連れて行ってもおかしくはない。そのときに、ローランも学園に入学できるといいね」

「わたしが学園に入学できるのですか!?」

「できると思うよ。皇帝陛下も皇后陛下も、ミカエルがお願いすれば断らないだろう」


 七年遅れて学園に入学することをローランがどう思うか分からないが、わたくしはアルベルト様がローランに話しているのをじっと聞いている。


「う、嬉しいです……。わたしに学園で学べる機会が与えられるだなんて」


 クラリッサだったころのわたくしと同じく、ローランは何歳になってもいいから学園で学びたい気持ちがあったようだった。


「学園の入学に問題がないように、ミカエルの家庭教師から一緒に勉強を習えるように、皇帝陛下と皇后陛下に口添えしておこう」

「ありがとうございます!」


 喜びに声を震わせていたローランは、アルベルト様に深く頭を下げていた。

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