14.ルクレール公爵家の祖父母
春になるとラファエルお兄様もアルベルト様も十八歳になる。
ラファエルお兄様は皇太子で、アルベルト様も皇族だ。皇族の成人の儀式は盛大になるとわたくしは聞いていた。
わたくしに皇族の成人の儀式を教えてくれたのはバロワン先生だった。
「ラファエル殿下とアルベルト様は誕生日が近いので、一緒に皇族の成人の儀式を受けられます」
「皇族の成人の儀式とはどのようなものですか?」
「他の貴族たちは誕生日の際に成人の儀式を行うのですが、皇族は皇帝陛下と皇后陛下との食事会の後で、皇帝陛下と皇后陛下に成人の宣誓を行い、宮殿のバルコニーに出て国民に手を振るのです」
「わたくしも成人の折にはそのようなことをしますか?」
「セラフィナ殿下も皇族なので同じことをなさいますよ」
皇族のことはよく分かっていなかったのでバロワン先生に教えてもらってわたくしはそのことをよく覚えていた。
ラファエルお兄様とアルベルト様の成人の儀式には、わたくしとミカも参列するようだった。
「セラフィナ殿下とミカエル殿下は食事会には参加致しませんが、成人を認められたラファエル殿下とアルベルト様がバルコニーで手を振った後に貴族たちにお披露目をする場面には参加されることと思います」
「ミカもですか?」
「はい。皇族の全員が参加することになっています」
「皇族の全員ということは、ベルンハルト公爵家の叔父様もですよね」
「そうなりますね」
お父様には血縁はベルンハルト家の叔父様とアルベルト様が主なメンバーだ。お祖父様とお祖母様も生きているはずなのだが、政略結婚で不仲で、お父様が成人するとすぐに皇帝位を譲って、今は自由に暮らしているというので、ラファエルお兄様とアルベルト様の成人の儀式にも参加はされないだろう。
ラファエルお兄様もアルベルト様もお祖父様とお祖母様の孫であることは間違いないのに、政略結婚で愛していない相手との間に作った子どもに愛情はなく、孫にも愛情がないようだった。
「先代の皇帝陛下はどのような方でしたか?」
「政治は義務としてこなしておりましたが、それほど熱心な方ではない印象でした」
「正直に教えてください。先代の皇帝陛下はどのように評価されていましたか?」
わたくしはお父様からもお祖父様とお祖母様の話は少ししか聞いていない。聞いてしまうとお父様が悲しい思いをしそうな気がしたのだ。
バロワン先生に疑問をぶつけてみると、少し逡巡した後でバロワン先生は答えてくれた。
「今の皇帝陛下のような意欲的な方ではありませんでした。政治に関しても、議会の提出した書類にサインをするだけ……。本当は皇帝になりたくなかったのだと言われていました」
「皇帝にはなりたくなかったと」
「はい。セラフィナ殿下も大きくなられたのでお話ししますが、先代の皇帝陛下には優秀な弟君がいました。その弟君と比べられて、後に妃殿下となられた婚約者も先代の皇帝陛下の弟君のことを慕っていらっしゃったという噂です」
「お祖母様は、大叔父様を慕ってらっしゃったのですか!?」
「はい。家柄のいい方だったので、先々代の皇帝陛下から命じられて先代の皇帝陛下と結婚なさいましたが、心は先代の皇帝陛下にはなかったと言われています」
自分よりも優秀な弟がいて、婚約者は弟のことが好きで、お祖父様は苦しんだのかもしれない。
わたくしは話の先を促す。
「先代の皇帝陛下は義務としてお子を二人作ると、妃殿下とはほとんど交流をなくして、妃殿下は宮殿の離れで別居状態でした。先代の皇帝陛下は早く皇帝位を譲りたくて、今の皇帝陛下が成人されたらすぐに皇帝位を譲って、隠居されてしまいました」
「大叔父様は?」
「先代の皇帝陛下の弟君は……先代の皇帝陛下に疎まれて、カラステア王国の貴族のもとに婿入りして国には戻っていません」
カラステア王国の貴族のもとに大叔父様がいるというのもわたくしは初めて聞いた。
大叔父様の存在ですら、わたくしは知らなかったのだ。
「先代の妃殿下は?」
「先代の皇帝陛下とは別の場所で、ひっそりと暮らしていると聞いています」
そんな環境だったからこそ、お父様はお母様を皇帝と同じ地位を持つ皇后にして、子どもたちもかわいがってくれているのだと痛感する。お父様の寂しさはお母様と出会ったことで薄れたのかもしれないが、お父様がお祖父様やお祖母様と和解することはないだろうというのはわたくしにも分かった。
「わたくしがお祖父様とお祖母様に会ったことがないのは、そういう理由だったのですね」
「セラフィナ殿下、先代皇帝陛下と先代妃殿下に会うのは難しいかもしれませんが、ルクレール公爵家の前当主様とご夫人には会えるかもしれません」
「え!? お母様の方のお祖父様とお祖母様はご存命なのですか?」
わたくしは生まれてから一度もお母様の方のお祖父様とお祖母様と会ったことはなかったが、ご存命と知って驚く。お母様の方のお祖父様とお祖母様がどんな方なのか知りたい気持ちはあった。
「お二人はどんな方なのですか?」
「ルクレール公爵家の前当主は体の弱い方でした。現ルクレール公爵家の当主が成人されたときに、静養のために当主を譲り、田舎で静かに暮らしていると聞いています」
「お二人の仲は良かったのですか?」
「はい。大変仲睦まじいご夫婦で、二人で支え合ってルクレール公爵家を運営していました。皇后陛下のこともルクレール公爵閣下のことも大変愛していたと聞いていますよ」
わたくしは父方のお祖父様とお祖母様には愛されていないかもしれないが、母方のお祖父様とお祖母様には愛される可能性がある。
わたくしは胸がどきどきしてきた。
「お二人に会えるでしょうか?」
「静養している土地が遠いのと、先代のご当主が体が弱いので帝都まで出てくることは難しいかもしれませんが、セラフィナ殿下の方から会いに行ってみれば歓迎されると思いますよ」
その話を聞いて、わたくしはお母様に話してみようと思っていた。
夕食の席でわたくしはさっそくお母様に話をしてみた。
「ルクレール公爵家のお祖父様とお祖母様に会うことはできませんか?」
わたくしの提案にお母様がお父様をちらりと見る。お父様は少し困ったような顔をしていた。
「ラファエルが生まれたころはまだ義父上も元気だったのだが、最近は体の調子がよくないと聞いている」
「ラファエルお兄様とは会ったことがあるのですか?」
「ラファエルが小さなころは何度も会いに来てくれていました」
ラファエルお兄様が会ったことがあるのならば、わたくしにも会ってくださる可能性はあるということだ。
「わたくし、お祖父様のお見舞いに行きたいです。わたくしが生まれたことをお祖父様とお祖母様に知ってほしいのです」
前世でクラリッサだったころは祖父母のことなど全く知らなかった。それでも、学校で会う子どもが祖父母に迎えに来てもらって甘えていたり、かわいがられていたりするのを見て、憧れてはいた。
「そうですね、ミカエルも四歳になりましたし、セラフィナとミカエルをお父様とお母様に会わせたいですわ」
「こちらからお見舞いに行くというのは考えたことがなかったな。そうだね、日程を調整してみよう」
わたくしの提案に、お父様もお母様も賛成してくれているようだった。
話を聞いていたミカが金色のお目目を丸くして首を傾げる。
「おかあさまの、おとうさまとおかあさま?」
「はい。あなたにとってはお祖父様とお祖母様です」
「おじいさまと、おばあさま……わたし、えほんでよんだことがあるよ。おじいさまとおばあさまは、まごをかわいがるんでしょう?」
「わたくしのお父様とお母様は、きっとミカエルとかわいがってくれます」
お父様の方のお祖父様とお祖母様の件はミカには知らせない方がいいかもしれない。わたくしが黙っていると、お父様もお母様も特にその話題は出さなかった。
「おじいさまとおばあさま、あいたいなぁ」
「わたしもずっと会っていないからお会いしたいです」
ラファエルお兄様もお祖父様とお祖母様に会うのに乗り気のようだった。
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