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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
四章 セラフィナと音楽

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12.ラファエルの卒業後の話

 新年のパーティーではわたくしは冬用のドレスを着て、毛皮の肩掛けをかけて参加することになった。

 ドレスは新調しなければいけなかったが、肩掛けは去年のものをそのまま使うことができた。


 これまでドレスといえば薄茶色か菫色だったのが、今回のドレスは別の色に挑戦してみることにした。

 上品で温かみのある臙脂色のドレスを誂えてもらって、胸や袖口や裾には金糸で刺繍が施してある。

 わたくしの年齢にしては落ち着いたドレスだったが、わたくしは既にアルベルト様の学園の卒業式のパーティーを意識し始めていた。

 七歳で学園の卒業式のパーティーに参加するのだ。せめて服装だけでも浮かないようにしたいものである。


 わたくしとアルベルト様の婚約は国中に知られているので、アルベルト様も他の相手をパートナーにすることはできないのだろう。

 七歳の幼い婚約者を連れて行ってアルベルト様が悪く言われないか心配ではあるのだが、ラファエルお兄様もアンリエットお義姉様もユリウス様もレティシア嬢も一緒なので何とかなるだろう。何とかなると思いたい。

 わたくしは不安をそうやって抑えていた。


 新年のパーティーの日の朝、わたくしとお父様とお母様とラファエルお兄様は着替えた後でミカに挨拶に行った。ミカも新年なのできれいな格好はしているが、まだ四歳で新年のパーティーには参加できない。


「ミカ、新年おめでとうございます」

「ミカエル、今年もよろしく」

「ミカエル、今年も元気いっぱいで過ごしてくださいね」

「ミカエル、新年おめでとう」


 わたくしとお父様とお母様とラファエルお兄様に挨拶されて、ミカはちょっと拗ねていた様子だったが、エリカに抱き着きながら小さな声で挨拶を返してくれた。


「しんねん、おめでとうございます。わたし、まってるから、おちゃはごいっしょしましょうね」

「ごめんなさい、ミカ。新年のパーティーはお茶会まであるのです」

「だめなの!? ゆうしょくは?」

「夕食はわたくしは晩餐会に出られないので一緒に食べられますよ」

「おねえさまだけ?」

「わたくしだけですね」

「それなら、おねえさまをまってるから、はやくかえってきてね」


 家族で一人だけ新年のパーティーに出られないミカは不安もあるのだろう。

 エリカにぎゅっと抱き着いてわたくしたちを見送ってくれた。


 新年のパーティーは昼食会から始まる。

 わたくしはアルベルト様とリヴィア嬢とセリーヌ嬢の近くの席で、正面にはラファエルお兄様とアンリエットお義姉様が座っている。

 お父様とお母様は奥のテーブルに座っていた。


「今年の冬は特に積雪が多く、寒くなっている。こういうときは冷夏になることがあるので、それぞれの領地で備えてほしい。今年も無事に過ごせるように願っている。新年に乾杯」


 お父様の挨拶に、わたくしは「冷夏」という単語を聞いてアルベルト様の顔を見た。グラスを持ち上げて乾杯をしながら、アルベルト様はわたくしが自分の顔を見たのに気付いたようだった。


「セラフィナ、どうしたの?」

「冷夏ってお父様は仰いました。冷夏とは、気温がなかなか上がらない夏のことですよね」

「そうだね。普段の夏と違って、気温が上がらなくて、作物や果物の育ちが悪くなるよ」

「今年は冷夏なのですか?」


 冬に雪が多いと冷夏になるだなんて知らなかったし、わたくしは冷夏についてよく分かっていない。学ぶ機会がなかったし、冷夏に関係なく、クラリッサだったころは食事はいつも足りなくて飢えていた。ベルンハルト公爵家に雇われてから三年はそんなことがなかったけれど、その間に冷夏だったということは聞かなかった気がする。


「帝国には気象を研究している研究所があって、毎年の積雪量や雨量を測って記録しているんだ。長年の研究と記録の中で、冷夏になりやすい年があるという研究結果が出ていて、その年には皇帝陛下に報せが行って、各領地の領主が冷夏に備えることで国民を飢えさせないように気を付けているんだよ」


 気象を研究している研究所の話も、わたくしは初耳だった。

 そんな研究機関があるのか。


「気象を研究している研究所があるだなんて初めて知りました」

「他にも、歴史を研究している研究機関や、動物を研究している研究機関や、薬剤を研究している研究機関……色んな研究機関があるよ」

「そういう研究機関ではどんな方が働いているのですか?」

「平民の研究者も多いけれど、アカデミーを卒業していたり、平民向けの高等学校を卒業していたり、高度な専門教育を受けた研究者が多いよ」

「アルベルトお兄様も、アカデミーに進学するのですよね? 研究者になるのですか?」

「わたしは、医者として実務に就こうかと思っているよ」


 高度な教育を受けても、研究者にならず実務をする方もいるようだ。

 わたくしにとっては全く想像のつかない世界なので、アルベルト様が教えてくれてとても勉強になった。


 昼食会が終わると、休憩を挟んでお茶会が開かれる。

 休憩時間にはわたくしは部屋に戻ってソファに座って寛いでいた。

 貴族たちにも宮殿の中の控室が解放されているはずだ。


 アルベルト様はベルンハルト公爵家の叔父様と叔母様と控室で過ごすのではなくて、わたくしの部屋に来ていた。

 アルベルト様はわたくしの正面のソファに座っている。


「アルベルトお兄様はラファエルお兄様と過ごさなくていいのですか?」

「ラファエルはアンリエット嬢とユリウス様とレティシア嬢と過ごすと言っていたよ。わたしがいたら、セラフィナは休めない?」

「いいえ、アルベルトお兄様と過ごすのは嬉しいです」


 それでも、わたくしの心に小さくあったのは、アルベルト様の卒業式のパーティーのことだった。多少年の離れた婚約者がいる卒業生もいるかもしれないが、恐らく、わたくしが最年少であることは間違いないだろう。

 浮かない表情のわたくしに気付いたのか、アルベルト様が声をかけてくださる。


「セラフィナはなにか不安なことがあるの?」


 どうしようか迷ったが、わたくしは正直にアルベルト様に相談することにした。


「わたくし、先日お兄様から学園の卒業式のパーティーのことを聞きました。学園の卒業式のパーティーにはパートナーを伴って行くのですね。わたくし、アルベルトお兄様に誘われたら、もちろん参加するつもりですが、あまりに幼いので、浮いてしまうのではないかと思って……」

「そんなことを心配していたの?」

「はい」


 わたくしが正直に打ち明けると、アルベルト様は少し考える様子を見せた。


「セラフィナがわたしの婚約者なのは国中に知られているし、わたしがセラフィナ以外の相手をパートナーとして連れて行くことは、セラフィナに対しても、皇帝陛下に対しても大変失礼なことになってしまうね」

「でも、わたくし、アルベルトお兄様の卒業のときにはお誕生日前で、七歳なのです」

「確かにセラフィナは幼いかもしれないけれど、わたしはそんなことは気にしていないよ。セラフィナを笑うような相手はいないだろうし、もしいたら、わたしもラファエルも許さないと思う。セラフィナはわたしが守るよ」


 真摯に告げられて、わたくしは胸の中に凝っている不安が溶けていくような気がしていた。

 わたくしのことはアルベルト様が守ってくださる。アルベルト様はわたくしの騎士のようだった。


 休憩が終わってお茶会の時間になると、アルベルト様はわたくしの手を取って会場までエスコートしてくださった。

 お茶会の会場は整えられていて、席順も決まっている。

 わたくしはアルベルト様の婚約者なので、アルベルト様の横に座ることができる。


「アンリエット嬢と話をしたんだけど、わたしもアンリエット嬢も学園を卒業したらアカデミーに進学することが決まっているだろう?」

「そうだね、ラファエル」

「アカデミーに進学することはアルマンドール公爵も許してくださったようなのだけれど、やはり結婚は学園を卒業したときにしておくように言われたんだ」


 正面に座っているラファエルお兄様の言葉に、わたくしははっとする。

 ラファエルお兄様も結婚するような年齢になっているのだ。


「それは盛大に祝わないといけないね」

「お兄様、アンリエットお義姉様、おめでとうございます」

「ありがとう、アルベルト、セラフィナ。わたしたちが結婚しないと、ユリウスとレティシア嬢も結婚できないと言われたので、学園を卒業後にアンリエット嬢と結婚することを決めたよ」

「結婚したら、わたくしも宮殿に住むようになります。セラフィナ殿下、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします、アンリエットお義姉様」


 ラファエルお兄様が結婚すればアンリエットお義姉様がラファエルお兄様と一緒に暮らすようになるのか。

 きっとラファエルお兄様は今の部屋を出て、アンリエットお義姉様と二人で暮らせる離れかどこかに移るのだろう。そうなると、食事もなかなかご一緒できなくなるかもしれない。


 少し寂しいような気もするが、ラファエルお兄様にとってはとてもおめでたいことなので、わたくしはラファエルお兄様をお祝いすることにした。


読んでいただきありがとうございました。

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