第一章19 『畑を荒らす者4』
「やっとこいつの仲間のお出ましか。勇者よ、仲間に6時間放置された気分はどうだ?」
「泣きたい」
足を大きな石でつぶされたユウが言った。なんか魔族のノリにしっかり乗っているのが面白い。
「だとよ!仲間割れお疲れだな」
その魔族には犬の耳がついている。予想通り狼男だ。
「その石乗せるときってちゃんと装備外させました?」
「ああ?これか?返すよ。この装備を脱いでなんとか抜け出せましたとかになったら、笑い事じゃあ済まないからな」
狼男は投げてよこした。
「ああ、それです。ありがとうございます。それごと潰されてたら、買い直すところでしたから」
投げ渡されたユウの足につける鎧は壊れていなかった。
壊れていたりしたら買い直すことになってしまう。それだけでもまあまあ出費だ。
「そんなの返したとしても、お前は屍になるんだがな」
「じゃあ、装備を返してもらったので、帰ります」
狼男に背を向ける。攻撃はしてこない。
「え?勇者?あいつらって仲間だよな?」
狼男と勇者は顔を見合わせた。
「違うかもしれない」
「だよな?お前、本当に勇者か?勇者だったとしても、少し哀れに思ってきたぞ?」
魔物から哀れに思われた人など数えられるほどしかいないだろう。なんとも、勇者なのに不名誉なことだ。
「へっへっへ。狼男さん。仲間にしてよ。あいつら一緒にやろうぜ」
ユウが言った。芝居が上手いのか、単純に楽しんでしまっているのか、その勇者らしからぬ言葉は本気なのか分からない。
普段の生活を見ていてわかるが、芝居は結構上手いのだろう。
「そうか、勇者が闇落ちとは。見過ごせないな。相手になってやるよ。2対2だ。狼男、早くその勇者に乗っている石をどけてやれ」
あらら。ノールさんも乗ってしまった。これは想定外。
そしてユウが受けて立つというふうにいう。
「やってやるよ。狩人」
もうこれじゃあ、どっちが悪者かわからない。
セリフからしたらどちらも悪者だ。
「分かった。勇者。石をどけてやる」
狼男はそう言った割に一歩も動かない。
「……ってなるわけないよな?お前ら、……変わってるよ。人間なんて、みんなを仇を取るみたいなことを言いながら切り掛かってくるのしか知らねえよ」
「結構、魔族ってノリがいいの知ってるからね」
マイは前回戦った魔族を思い出しながらいう。
それはただ馬鹿にしていただけだとユウが思っているのは、誰も知らない。
「久しぶりの話し相手、楽しかったよ」
雲が晴れて月が出てきた。今日は満月だ。
「あー。これ戦わなきゃいけないやつ?」
僕が言うと、ノールさんはスナイパーのスコープを外したものを構えた。
事前に近距離じゃないと当てられないからって、外していたのだ。
「ここまできて戦う気がなかったのは驚きなんだが?人間」
「殺れー!その猫耳を殺せ!」
ユウが狼男の言葉を遮って言う。まだそんな元気があることが驚きだ。
そんなんなら自分で抜け出してくれないかな。
「ちょっと、勇者?静かにできないの?というか、俺は猫耳じゃねぇ」
狼男は少しイライラしてきたようだ。そして、僕は思ったことをそのまま口にする。
「どっちでもいいね」
「ああ、そうだよ。どっちでもいいよ。そろそろその口を閉じさせてもらうぜ」
背中に走る冷たいもの。
確実な殺意。
ローブの魔法陣を最大まで起動する。
その瞬間、防御が深く抉れた。反撃魔法も自動的に発動。炎系魔法陣や雷系魔法陣も展開される。
使われた武器は流石に弾き飛ばされただろうと思ったが、相手は全く武器を持っていなかった。
「いてえな。脱臼するかと思った。そのローブは危険ということだな」
納得。こいつの戦い方が分かった。鋭い爪と目にも見えない俊足で相手を切り裂くのがこいつの戦い方みたいだ。
その上、魔法にかなりの耐性を持っているらしい。
僕のスキル『魔法全貫通』があるが、魔法陣からの魔法には適用されない。
研究しとけばよかったと、後悔しても今からでは遅い。
「丈夫みたいだね」
でも、僕が唱える魔法なら、確実にダメージを与えることができる。
「通常攻撃魔法」
逃げ道を塞いで、逃げ場を無くそう。そう思ったのだが、俊足で避けられてしまった。
魔法を撃ち続けるが、全く当たらない。
「結界」
目の前に結界を張る。
切り裂きにかかってきた狼男の爪が結界に刺さった。
狼男が来ると分かったのは、ただの偶然だ
結界を消して業火の呪文を唱える。焼き尽くされたように思えた狼男はそれさえも避けた。
腹部に重い衝撃。
1度目に切り掛かってきた時から、常時ローブに魔力を流し込んでおいてよかった。
今回も防御魔法陣の表面を削られただけのようだ。反撃魔法陣は発動したが、全く効いていない。
では全く追えないため、魔力がどのように移動しているかに集中する。空間が色のある景色ではなく、モヤのある白と黒のような、世界になった。
目の前の魔力が揺らぐ。
その魔力が狼男のものだろう。
ゆらりと震えてこちらに迫ってきた。その狼男と同じ揺らぎを自分で作り出す。ローブに与え、魔法陣を発動。
右の横腹を抉り取るように爪が伸びてきた。
右手に持った鉄製の棒を回して、狼男のその爪に突き刺す。
ノールさんにさっき教わった、瞬時にバタフライナイフを出す技だ。
「やっぱり。防御魔法を全身に纏ってるから物理が効かないと思ったら、その俊足も所詮魔力か。その俊足に魔法も攻撃も当てられる奴がいるとは思えない。だからと言って、まさか移動中は移動力上昇魔法に全振りするとは思わなかった」
狼男はニヤリと笑って、さっき僕がつけた傷から出てくる血を舐めた。
「確かにユウとは相性が悪い」
狼男が目の前に立っている。さっきまで後ろにいたはずなのに。油断したわけではない。
魔力を追う集中力を切らしたのは問題だったかもしれない。
「そっちも、攻略法がわかったみたいだが、こっちの方が早かったみたいだ。ローブの間」
狼男はニヤニヤ笑っている。
「硬い防御魔法、そして早すぎる。ユウが倒せないはずだよ」
僕も同じようにニヤリと笑う。
腹が熱い。見ると狼男の腕が腹に突き刺さっていた。
視界が悪くなる。
ローブは前を閉められない。ローブの間を狙ってくると思っていなかった。
「今から魔法撃ってもよけられるんだろうね」
自分の目を抑える。
そして、少しノールさんの方を見た。
「油断した」
狼男は一匹と言いながら腕を引き抜いた。足の力が抜けて崩れ落ちる。
ばれないくらいに回復魔法を唱えて、生命線を張る。
まさか、こうなることを予想していないわけではない。
あとはノールさんに回復魔法を最大限でかけ続けるだけ。
それだけで、状況は逆転する。
「次はお前だ」
ノールさんは銃を構え続けていた。狼男がノールさんの前に立つ。やはり移動する瞬間は分からなかった。
しかし、問題はない。
狼男の腕はノールさんの腹にささっている。
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