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26/35

一進一退

 あれから10分が経過した。仙台育米はボールを支配しながら攻める機会を待っている。そしてチャンスが来た。

 九狼は永見からのパスを綺麗にトラップして、シザースフェイントで相手ボランチを一人抜き、左バイタルエリアに突入した。


「ヘイパス! 九狼」 

「了解。行くで、吉城!」


 ワタルはすかさず九狼をインナーラップで追い抜かしフワリとしたラストパスを要求する。


「通させるものか!」


 愛媛古田の背番号4番、迫平は九狼とワタルのホットラインに割り込み、伸ばした足で九狼のパスをギリギリ触る。


「チッ、防がれたんか?」

「DF、クリアしろ!」


 迫平が触った事でボールの勢いが弱くなり、ガイドラインが消えた。しかし、再びボールを視認すると軌道更新されたガイドラインが現れる。予定よりだいぶ後方に落ちるが問題無い。


「座標セット」

【後方:1.245m 右方:0.227m 高さ:0.542m 0.963秒】


 ワタルは後方の座標を見ながら、芝生の地面に向かって大きくヘッドダイビングし、タイミングに合わせて右膝を勢い良く曲げる。ボールの芯は曲げたヒールに当たり、反応出来ないキーパーを抜いて一点返す。1-1の同点に戻した。


「ウオォォォォォォ!!! イヤッホゥ!!!

 吉城また意味不明なシュート決めてるやん!!

 なんや今の? ヘッドダイビングスコーピオンキックシュートか? 名前長過ぎんねん」


(よし、これで落ちた士気は取り戻せたかな?)


 落ち込んだDF陣を励ますかのように、大喜びで走り回る九狼を見てワタルは思った。それに応えるかのように皆はワタルのスーパーゴールに盛り上がってくれたようだ。

 こう言う時にムードメーカーの九狼は重宝するな。流れは引き戻せた。


「ナイスゴール、ワタル」


 後ろから香熊が自分からハイタッチを求めてきた。


(香熊が自らハイタッチ……だと?)


 昨日とは打って変わり、いつも浮かれずワタルに当たりが厳しいはずの香熊の態度に違和感を感じながらも、ハイタッチに応じた。


「点は俺が取るから守備は頼んだぞ!」

「……あ、ああ」


 ぎこち無い声で香熊は絞り出すように言う。

 ワタルはリスタートに間に合うようにポジションに移動しながら、相手を分析する。


 確かに【メッシの加護】の飯山はかなり強い。だが、今の攻防で愛媛古田の守備はそこまで強く無いというのが分かった。強いて言えばワタルとマッチアップしてる迫平が少し優秀だが、香熊や岩倉に比べると結構見劣りがすると思う。

 あと2、3点は取れる自信がある。


 問題は愛媛古田の攻撃力だ。正直飯山以外の攻撃陣の個々の能力もそこまで高くない。インターハイ初出場校なのも、夢の中の白い空間で飯山が神様に自分のチームが弱いから不公平だと言ったのも頷けるレベルだ。

 しかし――


「行け、リオン!!」


 愛媛古田の11番がボールを奪うとすかさず飯山にパスをし、振り向きざまにマークの和泉を躱す。そのままスピードにのり、再び一切無駄のないドリブルで永見をアンクルブレイクさせて抜き、ボールとお散歩するように最終防衛線の岩倉の決死のスライディングを悠々と飛び越えてシュート。あっという間に2点目を決められリードを許してしまった。


「お前らぁ!! 俺は、誰だぁ!?」

「「「メッシ! メッシ! メッシ山 リオン!」」」

「Yes,I'am!!!」


 愛媛古田の攻撃方法は単純だ。ボールを奪うとすぐに飯山に渡す。マークが有ろうが、コースが無かろうがだ。他の選手は全て飯山のサポート役に徹している。まさしくこれは戦術飯山だ。 

 分かっていても止められない、シンプル故に止められない。ホントに厄介だな。

 しかし【ラプラスの魔眼】もワタルの能力も守備向きでは無いので、結局ワタルができる事は点を取ることだけだ。


「なんだあのドリブル……スゲェ……」


 九狼はマジマジと食い入るように飯山を見ている。


「オイ、落ち込んでる暇はない! オレがすぐに点を取ってやる!! 行くぞ九狼!」

「おう、誰が落ち込むか! ワシも試してみたい技があるんや!」


 リスタートしてすぐ九狼は高速ドリブルで1人躱し、左バイタルエリアにカットインして相手SBの迫平を抜く――


「逃がすかよ!」

「いってぇ!!」


 抜かれた迫平は強引にスライディングをしかけ、あたりに弱い九狼は倒れた。


 ――ピー! ファール


 抜かれた迫平が焦って九狼を斜め後ろから削った事で仙台育米はFK(フリーキック)を得ることができた。


「大丈夫か? 九狼」

「ああ、大丈夫や。飯山のドリブルを真似してみたんやけど上手くいかんな……」

「なぁ、九狼。このFK、俺に向かってシュートしてくれないか?」


 ワタルは悪知恵を思いついた子供のような笑みを浮かべて言う。


「マジかいな……し、知らんで……」


 九狼は少しためらうが、受け入れたようだ。


 ――ピー!


 リスタートの笛が鳴る。ゴールから斜め右30m弱の地点、九狼は大きく助走を付け、一列に並んだ愛媛古田選手達の壁の左側で、ゴールの外側にいるワタルに向かってシュートした。


「ちょっとズレてるけど、このくらいなら誤差範囲だ。座標セット」

【前方:0.5163m 右方:0.863m 高さ1.245m 0.485秒】


 ワタルは右を向き、右から超高速で飛んでくる九狼のシュートを右足でコンパクトに振り抜きダイレクトボレーでシュート。ボールはくの字型の軌道を描き、壁を大きく回り込むようにゴールに吸い込まれた。

 あまりに速すぎる展開からのシュートに、相手キーパーはゴールネットが揺れてから初めて点を取られた事に気づく。

 九狼とワタルの連携プレーで2-2と追いつく事が出来た。


(よし、上手く行った。【ラプラスの魔眼】にかかれば球速なんて関係ない。また新しい得点パターンが出来たぞ! 正確なコントロール能力を持つ九狼をレギュラーに上げて良かった)


「はぁ!? 意味分からねぇ!! シュートをシュートしただとぉ!!!」

「仙台育米……10番――吉城 渡……ありえねぇ、コイツヤバ過ぎる……」


 九狼のシュートから、ワタルゴールまで一秒足らず。あまりに速すぎる出来事に愛媛古田の選手達の士気が下がり始める。


(この試合は得点合戦になるだろう。流れを持っていた方が有利に立ち回れる! このまま俺がスーパーゴールを量産して流れを引き寄せてやる)


「チッ、【ラプラスの魔眼】め……向こうも上手く使いこなしてやがるぜ……俺も本気を出さねばな……

 目覚めろ……俺の中の英雄(メッシ)


 飯山は誰にも聞こえないように小さく呟く。


「オイ、お前ら下を向くなぁ!

 安心しろ、もう大丈夫だぁ! 何故なら……

 ――(メッシ)が来たぁぁぁ!!!」

「「「ウオォォォォォォ!!! メッシ! メッシ! メッシ山 リオン!!!」」」


 しかし、飯山の一言で沈みかけていた愛媛古田はまた活力を取り戻した。まるでさっきのスーパーゴールがなかったかのように大歓声を上げる。


「クソっ、なんやねんコイツら……無敵か!?

 なんでコッチがスーパーゴール決めたのに、向こうのが盛り上がってんねん!」

「あんにゃろ! あの精神異常者には流れとか士気とかそう言った概念は無いのか!?

 たった一声で死にかけのチームが蘇る……これが絶対的エースってやつなのか……?」

※インナーラップ


・ボールを保持しているプレイヤーを後ろの選手が追い越していくプレーのこと

・内側から追い抜くのをインナーラップと呼ぶのに対して、外側から追い抜くのをオーバーラップと呼ぶ



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