飯山 理音
次の日、少し早めに試合会場入りした仙台育米は、インターハイ2回戦目に備えてウォーミングアップをしている。
対戦相手は愛媛古田高校だ。皆は相手がインターハイ初出場校だから余裕と思っているようだが、ワタルだけは楽観視出来なかった。
なぜなら同じインターハイ・デスゲームの参加者がいるからだ。相手はワタルと同じチートスキル持ちなのでこれまでのとは格が違う。
「愛媛古田高校、飯山 理音……
奴は一体どのスキルを選んだんだ?」
改めて考えるとマワル君の罠にハマったせいで、ワタルだけスキルが全員にバレてるのは本当に痛い。こっちは誰がどのスキルを選んだのか全く分からないままなのに……
本当はチームの皆に飯山君は強いから警戒しろと言い回って危機感をもたせたかったのだが、これが原因でスキルの事がバレて失格になるのを恐れて結局話すのはやめた。
「それじゃあ俺が頑張って点を取るしかないな……」
トイレで用を足し終わり手を洗いながら、鏡に映る自分の目を見てワタルは言う。
「おやおや、そこにいるのは【ラプラスの魔眼】の持ち主――吉城 渡君じゃないか?」
ワタルはトイレに入って来た少年に目をやる。身長は170cmほどでワタルより少し小さい。だがガッチリとした力強そうな太腿を持っている。
「初めまして……で良いのかな? 飯山 理音君」
そこには次の対戦相手、飯山君がいた。謎の空間で会った事はあるが、喋るのは初めてだ。
「ああ、確かに初めましてだな、吉城君。でも覚えなくて良いよ。どうせこの後僕に負けて、【ラプラスの魔眼】と共に、今話したこの記憶も没収されるんだからな」
飯山君はそうワタルに挑発して来る。
「その言葉そっくりそのまま返してやるよ」
一触即発の雰囲気が二人を包み、ワタルの頬に冷や汗が伝う。
「フンッ、自信だけはあるようだな。でも君は俺がどのスキルを選んだのか知らないだろう?」
クソっ、このアドバンテージはデカい……一体お前は何のスキルを選んだんだ?
「オ〜イ、リオーン? どこだ?」
その時トイレの外から飯山君を呼ぶ声がした。多分彼のチームメイトだろうか?
その声に反応して飯山君は一瞬ビクッと焦った気がした。
「メッシ〜、飯山リオーン」
「「……」」
その気の抜けた声に互いに気まずい空気になった。
「……お前……まさか」
「いや、違うぞ! 俺は【メッシの加護】じゃあないぞ!断じて違うぞ!
たまたま名字がメシヤマと読めるからあだ名がメッシ山なだけで……」
コイツ絶対【メッシの加護】を選んだな。
「おー、いたいた我が校のメッシ。そろそろウォーミングアップはじめるぞ……ってお相手さんのエースの吉城君じゃないか……
まさかリオンちゃん、またお得意のメッシトークをしてたの?」
トイレに同じ愛媛古田のユニフォームを来た少年が入って来た。
メッシトークってなんだ? とにかくこれは情報収集のチャンスだ。飯山、お前がどんなプレイヤーか暴いてやる。
「ああ、コイツ普段からこんな感じなのか?」
「そうなんだよ〜、聞いてくれよ。リオンちゃんは超がつく程のメッシの大ファンで、待ち受けもメッシだし、私服もメッシのユニフォームなんだ。
未だに口癖のように僕はメッシの生まれ変わりだって平気で言い続けてるし……」
「や、やめろよ迫平……」
(いや、メッシは死んでねーよ。今も現役バリバリだよ)
迫平と呼ばれる愛媛古田の選手はまるで飯山を自慢の息子のように紹介するが、当の本人は思春期の息子のように恥ずかしがっている。でも迫平の自慢は止まらない。
「まぁ、リオンちゃんは自分の事をメッシだと思い込んでいる精神異常者だが、実力は本物だ。幼馴染みの僕が保証する。
小学校の頃からメッシに憧れてプレースタイルを真似る努力を続け、先月ようやくその才能が花開いたんだ。
愛媛古田のエースとして、昨日の試合なんかはハットトリックをしてくれた」
なるほど。では元々メッシの大ファンの飯山は【メッシの加護】にしたのか。恐らく一切悩まずにノータイムで【メッシの加護】を選んだんだろうな。まぁ、俺にも憧れの選手がいるから、その気持ちは分からんでもない。
メッシのドリブルをして来る強敵か……相手にとって不足なし!
「ああ、紹介が遅れたね、吉城君。僕の名前は迫平、愛媛古田のCBでキャプテンだ。君のマッチアップ担当だ。負ける気は一切ない。良い試合にしよう」
そう言い、迫平は握手を求めてきた。
「そうだな。良い試合にしよう……」




