表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/49

第9話【お兄様との再会】

◇◇◇◇第九話【お兄様との再会】◇◇◇◇


ベマヌでの夜、旅の商人エドアルド・ハロが泣き濡れて、白髪がどっと増えた日から数日。

わたくしたちの馬車はようやく学園都市に到着しました。

ヴィクシア連合王国の寮に到着すると、お兄様を筆頭に今この学園の都市にあるヴィクセン関係者総出で出迎えてくださいました。


「こんな盛大にお出迎え頂かなくても。

 わたくしはお兄様が出迎えてくれたことで十分感激しておりますのよ」


「あぁ、ピピル、わが妹よ。

 僕も二人で再会を喜びたいところだが国としての威儀もある。

 豪華に暮らすことも王族の義務なのだよ」


「そういうものなのですね。

 コラードも似たようなことを言っていたと思います」


確か、雇用が賃金を産み、賃金が消費を産む。

流れを滞らせては国家の危機を招くでしょう。

そう申しておりましたわね。


「そうか、留守はコラードに任せきりになってしまうが、彼ならば十分にやってくれるだろう。

 そう思うだろう、カスパー?」


「はい、アルガ様。

 わが父は身命を賭して努める覚悟といっておりました。

 任せてよろしいかと」


コラード伯の長男、カスパー・バルト-ン。

成人後はお兄様の側近として政務を差配する予定の有能な若者と聞いております。

若干陰のあるその立ち居は裏の裏まで知り尽くしたものとしての立場を目指す者の決意と自覚の表れでしょうか。


「ピピルとともに来た皆もはるばる苦労を掛けた。

 今日はゆっくりと休んで後のことは明日以降にすればいい」


お兄様から一歩下がった位置にいる背の高い筋肉質の若者がわたくしに話しかけてきます。

わざわざ自分の体を誇示するように薄着で、素肌が見えているところが多いです。


「よぉ姫様、お待ちしておりましたよ、アルもこれで到着までせわしなくしていてな、よっぽど楽しみだったらしいぜ」


「テル、余計なことはいうな。

 まぁピピルがここに来るというのに平静でいるのも無理な話だがな」


カスパーが陰だとするならば三位将軍ブルクハルト ・ バルツァーの長子、テルベルトは限りなく陽の人物でしょう。

性格は豪快にして、その武はすでに一個の兵を超えて将の域にありとのこと。

戦略も直感で鋭いところを突いてくると評判です。

三人だけの時やそれに近い状態のときはそれぞれ愛称で呼び合っているとのこと、うらやましいですわ。


この二人がお兄様の将来の両輪と期待されている、ヴィクシア連合王国の誇る次世代の俊英です。


「おっと、余計なことを口走ったらしい、どうかご内聞に。」


ご内聞も何も当人のお兄様が目の前にいらっしゃいますが……


「まったく図々しいというか図太いというか……

 まぁいい、湯あみの支度をさせておいた。

 旅塵を落としてさっぱりしたら皆で晩餐にしよう。

 老師も親方もそれでよろしいか?

 エーリュシエルも今日はもてなされる側だ、一緒にさっぱりしてこい」


老師と親方は、


「風呂上がりによく冷えた酒が飲めるということより楽しみがあろうか」


とか言いながら案内されていきました。


そうしてようやくわたくしの足の後ろにすがってこちらを見ている小さなゴブリンにお兄様が気が付きました。


「ん?見慣れないゴブリンの子供だな。

 この子はなんだい、ピピル?」


「ここまで来る途中でわたくしの臣下になりましたの、名はヴェルガ。

 わたくしが名付けましたのよ?」


「ほう、それはそれは」


そういうとお兄様はヴェルガの目の高さにしゃがむと、


「我が名はアルガ、ヴィクシア連合王国の王太子だ。

 妹の臣下となったこと誠に喜ばしい。

 よろしく励んでくれ」


こう言われました。

もしお兄様から真正面の視線を受けたのが王家に仕える若い女官だったら、彼女は赤面して腰砕けになっていたでしょう。

現に周りから女の声で短い悲鳴が聞こえます。

でもヴェルガは勇気を出してわたくしのかげから出てきました。


「オニィサマ?、 ナニ?

 同ジ親、先ニウマレタオス?

 イモウト?

 同ジ親、後ニウマレタメス?

 カゾク?

 アダ、カゾク、シラナイ。

 ゴスジン、カゾクダイジ、アダ、ゴスジン大事」


「うむ、一番大事なところさえ間違えなければ問題あるまい。

 ピピルもせっかくの臣下、大事にするように」


「もちろんですわ、お兄様 

 わたくしが名付けたわたくしの一の家臣。

 一生一緒にいる覚悟ですもの」


「そうか、ではピピル用の使用人の部屋に必要なものを運び込ませよう。

 だれかあるか」


「ハッ」


短く返事をして使用人の一人が場を離れていきます。


こうしてわたくしの旅は終わり、学園の生徒としての生活が始まるのですわ。


晩餐では久々にお兄様の隣でおいしいヴィクシア料理を堪能いたしました。

エーリュシエルとヴェルガは末席ではありますが、わたくしと変わらぬお料理の数々を堪能したようでした。

ただヴェルガは、


「アツイ湯デ煮ラレタ、クワレル、アダクワレル……」


と半目になっていましたが……

あれでお料理のお味が分かったのでしょうか?

エーリュシエルがせっせと口に放り込む料理を自動的にかみ砕いて飲み込んでいましたが……

あれはほぼ意識がないのではないかしら?


しかし今日からは毎日お兄様と晩餐が頂けるなんて本当に夢のようですわ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ