第四十九話【ピピル・マ・ピピルのいつもの日】
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◇◇◇◇第四十九話【ピピル・マ・ピピルのいつもの日】◇◇◇◇
いつものように光の四刻に目を覚まし、顔を洗ってエーリュシエルからタオルを受け取ります。
昨日の晩に手入れした武具を身にまとい、厩舎に向かいました。
ダブーも随分と大人に近い体になってと思ったら、まだまだ子供で肩の高さは今のわたくし程になるそうです。
まぁわたくしもまだまだ成長期ですから早々抜かれないとは思いますがどうでしょうか。
ダブーに跨がって厩舎の近くを走り回ります。
騎乗にも慣れたものでダブーを走らせながら老師直伝の馬上の形をこなしていきます。
ヴェルガも一緒になって走ってくれます。
昨夜はわたくしたちの銀級冒険者昇進祝いの、ささやかな宴が催されました。
館の主だったもの全員と、クラン『羽ばたく燕』のほぼ全員が招待されました。
ダビド以外はみんな初めての貴族の館、といっても寮ですが、に目を輝かせてくれました。
最近銅級冒険者パーティになったクリストたちも来てくれて、
「ほんとに貴族だったんだなぁピピル……」
などと失礼な感想を言うジャックスがレピに膝蹴りを入れられて悶絶させられていましたわ、いい気味ですこと。
晩餐会には学生会の方々も顔を出してくださり、わたくし達の銀級昇級を祝ってくださいました。
「いやぁ早いなぁ、この間銅級に上がったばかりでもう銀級かぁ、これは僕たちも頑張らなくては……」
ミロル会長がそういうと、
「あなたは高位貴族なのだからギルド冒険者の地位にこだわらなくていいんじゃないの?
じゃなくて。
おめでとうピピルちゃん、っと会長の呼び方が移ってしまいましたわ、それに変な言い方になってしまいましたわね。
申し訳ありません」
「構いません、親しくされてくれる方で口調も砕けた言葉でお話しできる方は数少ないのですもの。
どうかソフィアさんにはそのままでいただけると嬉しいですわ。」
「ありがとう、ま、格式が必要の時には改めるとして、いつもはこんな感じでお話しさせていただくわ、と言っておきます」
「ええ、ぜひそうしてくださいソフィアさん」
会長達も相変わらずで安心しましたわ。
「さぁ、スープが冷めないうちに席へどうぞ」
と案内して、お兄様の簡単な挨拶の後、料理を味わいました。
『羽ばたく燕亭』のマスターもいらっしゃっていて、娘さんと語らいながら食事されているのを見てちょっと安心したものですわ。
一番お料理のことに詳しそうですしね。
宴もたけなわとなり、余興でわたくしとお兄様がダンスを披露して喝采を浴びたりしているうちにお兄様には、
「お兄様、もうそろそろよろしくてよ」
と囁きます。
「わかった。
ではテルベルトは引き上げさせよう」
お兄様がわたくしのことを心配して近くにテルベルトを護衛に立てていたのは分かっておりました。
しかしわたくしが銀級冒険者の資格を取ったことで、そう簡単に手を出せる腕前ではないということを内外に示しました。
おかげで最近感じられるのは、我が家の影共の他には、ヤンマ国の隠密とあと数か国でしょうか、直接の手出しや敵対する意思は無さそうなので放っておいていますが。
わたくしたちを監視しているものがめっきり減り、陰から手を出してくることはないだろうという判断です。
まぁ四六時中つきまといがひどいのでダンジョンに行く時間を増やした側面もあるのですが。
あそこなら少なくともまともな兵を差し向けない限り、わたくし達をどうこうできませんから。
そのあとのしばしの談笑でクリストに
「あなたもダンスの一つも覚えておいたほうがよろしくてよ。
将来必要になるかもしれませんからね。
よろしければこちらに練習しにおいでなさい」
と言うと。
「わかった、教えてもらえるなら望むところだ」
と答えました。
他は分かりませんが、クリストはダンスを覚えておいた方がよいと思うのです。
と思いだしているうちにダブーとの騎乗訓練を終え、今度は力勝負の時間です。
サクラさんからお国の格闘技の話題になった時、素手でぶつかり合って足裏以外が地に着いたら負け、という非常にシンプルな『相撲』という格闘技のことを聞いたのです。
膝を緩め両手を前にかざし腰の座りを良くします。
そうして突撃してくるダブーの体を受け止めます。
今日は一本目から双角の両方を捕らえることができました。
受け止められないと弾き飛ばされてしまうので、自然と自分の身体を固くしたり動かないようにしたりする術の鍛錬にもなりますわ。
さて、ダブーの突進は完全に止まりましたが、首の力だけでわたくしを放り上げようと力をみなぎらせます。
そのタブーの上にかちあげようとする力をうまくそらし、投げに持っていきます。
「ブギィィーー」
よし、うまく投げられました。
十番ほどのぶつかり稽古を済ませます。
八勝二敗、今日はなかなか調子が良かったようですわ。
今度は素振り用の道具をを構え、素振りを始めます。
「今日もやっているな、結構結構」
「あら老師、珍しい、朝の稽古に顔を出すなんて」
いつもは夜の立ち合い稽古にしか出てこない老師が顔を出してきました。
「あぁ、昨日の夜にした稽古の時大分『弾き』も型にはまってきたように思えてな」
「そうでしょうか、わたくしもっと上に行けそうなのですが」
「そうだな、お前の『弾き』はもっと上に行けるだろう。
だが昨夜の稽古を見て、そろそろ上に行くための道具に替えるのも手かなと思った訳さ。
というわけでお前に新しい剣を授けようと思ってな」
「ありがとうございます老師」
「次にお前が使う道具はこいつだ。
銘を『プレスラッシャー』。
また腕が一段上がったら新しい剣を授ける。
精進しろよ」
ちょっと老師、今どこから出しましたのその大剣。
と心の中で突っ込みつつ、
「はい、ありがとうございます。
老師」
まぁ老師のすることをいちいち気にしていたらきりがありませんからねぇ。
その剣はわたくしの手のひらほどの幅の、わたくしの背丈ほどの鉄板に柄を備えた片刃拵えの直剣で、先端を切り落としたような四角い恰好をしたものでした。
「これは大きな剣……というか鉈……?」
「まぁ見た感じはでかい鉈だな。
これをしばらく使ってみろ。
「わかりました、励みます」
「夜の稽古では新しい技を一つ教えてやるから楽しみにしてなぁ」
「はい!」
こうしてわたくしは見習い冒険者を卒業し、銀級冒険者としての道を歩き始めたのです。
第二章 新米冒険者ピピル了
少しお時間をいただきます。
読んでくれた方に感謝を込めて。