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命の際に見せる行動

 両翼が苦戦する中で、中央だけは、ショウが必死に気を吐いて怪物を屠り続けていた。


 合間を見ては、マリーが魔法を放ちやすいように、上手に位置を取っていく。


 そんな中、横を通り過ぎていくボンさんを視界にとらえて、ショウは何か言葉をかけたようだ。


 しかしボンさんは止まらなかった。


 棍棒を振りながら、楽しそうに怪物の群れに突撃していく。


 やがて大量の怪物達に飲み込まれ、姿が見えなくなった。






 一番最初に崩れたのは、やはり右翼であった。


 ライズとセットの剣では、一度に一匹の怪物を仕留めるので精一杯なのだろう。ホワイトは、それでも獅子奮迅の働きを見せているのだが、多勢に無勢、体にまとわり付く怪物の処理に手間取っている様だ。


 ライズとセットをかばいながら、仁王立ちするホワイトであったが、やがて一気に雪狼の群れがなだれ込むと、処理が全く追いつかず、どんどんと怪物の波に飲み込まれていった。


 彼らのいた場所に、怪物達が殺到している。


 体を齧られるのと、棍棒で滅多打ちにされるのとでは、一体どちらが辛いのだろうな、とネイベルは考えていた。


 中央では、ショウが必死に声を張り上げている様だ。右翼側に腕を向けて、マリーへと何やら指示を飛ばしている。


 今までの彼ではあり得なかった光景だ。


 やがて右翼の怪物達をまとめて吹き飛ばす様に、太い水柱が何本も飛び込んでいく。


 恐らく命までは刈り取れていないだろう。しかし、右翼が息を吹き返すには十分な手助けとなったはずだ。


 三人の倒れている場所には、赤い花が咲いていた。


 ネイベルの周りでは、全員が息をのむ様に戦況を見守っている。


「リン、回復魔法はギリギリまで禁止だ」


 いいね? と言って、ネイベルは釘を刺す。


「え、ええ。分かっているわ……」






 左翼では、ジンとアルが背中合わせで戦っている。


 こちらは既に、ジンへの補助魔法を打ち切った様だ。アルは自分へ補助魔法をかけながら、必死になって霊木刀を振っている。


 どうやらジンは、補助魔法があまり上達していないみたいだった。悪い足場を時折気にしている。


 アルと組ませすぎた弊害かもしれない、とネイベルは思った。だとすれば自分の責任だ。


 それでもジンの剣撃は、見るものを魅了するような力強さを発揮し続けている。剛毅な性格も合わさって、すぐに倒れる様な事はないだろう。


 逆に背後のアルは、大きく肩で息をしている。こちらは限界が近いだろう。そもそも両者共に、雪虎の牙が何度も食い込んでいるようだ。真っ白だったはずの足元には、真っ赤な染みが出来ている。


 単体を相手にするのなら、これほど苦戦する事は絶対になかったはずだ。雪虎も、雪狼も、数があまりにも膨大過ぎた。


 それでもジンは、背後のアルに必死に声をかけながら、一刀で命を刈り取り続けていた。自分も相当辛いだろうに、それでも味方を鼓舞し続けるその気概は、深く胸を打つものがある。


 アルもそれに応えようと、なんとか攻撃を繰り出している。気持ちだけで体が動いている様だ。


 そんな時、ただ戦況を眺めていただけの毛むくじゃらが、鼻を天高く伸ばしながら大声で鳴いた。


 雪原を走る重低音が、衝撃を伴ってネイベルの足元まで伝わってくる。


 空気が鋭く鼓膜を貫き、刃となって肌に食い込んで来る様だ。


 穏やかな天候の中、キラキラと輝く雪原の上を、狂気に満ちた怪物達が、一斉に左翼へと駆け出していった。


 ショウが今度は左手を伸ばしながら、必死にマリーへと指示を出している。


 だがしかし、マリーは既に限界を超えているようだった。動きに精彩を欠いているのは明らかだ。


 そして中央の怪物達も、一斉に左翼へと集中していった。






「右翼の三人が動かないのだけれど、だ、大丈夫よね?」


「息はしている様だな」


 リンとカルーダが、心配そうにやり取りをしている。ネイベルも、命が刈り取られる寸前には助ける予定で、既に魔力を這わせている。


「すごい鳴き声がした後の怪物達は、狂気に飲み込まれた様に見えますね」


 カドが手をぎゅっと握り締めながらそう言った。


「やはり、あの怪物達は操られている様ですな」


「動きに知性が感じられたのよね」


「それは俺も思ったな。想像以上に集団行動が取れているよね」


「左翼に畳み掛ける機会を逃さない辺り、相当狩りに慣れている様に感じるわ」


「怪物相手に野生という言葉を使っていいのかは存じませんが、本能がそうさせている部分もあるでしょうな」


 ミネルヴァとロンメルの指摘通り、ネイベルも似たような事を考えていた。


「そろそろ、じゃねぇか?」


 カルーダがネイベルを見据える。


「いや、まだ元気なやつがいるだろ」


 ショウを見ながらネイベルは答える。


「だけどよ、まだ軽く百匹以上はいるぜ。いくらなんでもよ……」


 カルーダは、少しだけ不安そうな顔を見せた。


 スルーレにやられた時の光景を、思い出しているのだろうか。


 あの時のネイベルも、ボロボロにされていた。それを何もせず見ているだけだったカルーダは、相当辛かっただろう。今回も似たような気持ちになっているのかもしれない。


「まだ、彼は本気になっていないよ」


 ネイベルが見てきたショウという人間の本能は、まだまだ眠っているように感じられるのだ。






 左翼へと集中した怪物達は、雪虎も雪狼もごちゃ混ぜになり、大渋滞を巻き起こしていた。


 その中心部では、最後の瞬間まで必死に霊木刀を振るっていたアルが、とうとう倒れ込んでしまったようだ。ジンは彼女の上に飛び乗ってくる怪物達を、ついには左手で直接殴りつけてまで追い払っていた。


 ここからでも、ひと目で分かる位に鬼の様な形相をしている。拳に魔力を纏わせながら、必死に怪物を殴りつけ、右手の刀で命を刈り取り続けていた。自身の背中には、多数の牙が食い込んでいる。


 滴る血が一気に雪原を染めて行く。


 やがて怪物の処理も限界になると、彼は刀を捨てて彼女へと覆いかぶさった。



 ――なんと! 



 ネイベルは、アルを想う彼の気持ちに興奮していた。


 命の際にあって、一体どのような行動を取るのかは、その人間の本質を正確に表していると思う。ジンの行動からは、彼女への深い想いが伝わってきた。


 覆いかぶさったジンの体には、無数の牙が食らい付いているだろう。幾重にも重なる怪物達の下には、赤く染まった舞台が広がり、横たわる王女を守るように、一人の男が命を投げ出しているのだ。


 いよいよネイベルが、体を浮かせて立ち上がろうとすると、マリーの風魔法が左翼の怪物達を薙ぎ払うのが見えた。


 落ち着いて深呼吸をする。ギリギリを見極めるのだ。彼らの為にも、そして自分のためにも。


 ネイベルは、自らの持つ力の大きさを、ようやく理解し始めていた。無闇にふるっていい物ではないと、はっきり感じている。


 何も考えずに力を振るう事は、結果的にその対象を助ける事にはならないはずだ。限界を見極め、正しい所で手を差し伸べる。これが本当の意味での助けになると考えている。






 中央が空になったショウは、全力で左翼へと駆け出していた。


 その背後では、渾身の力を振り絞ったマリーが、音も無く雪原へと体を投げ出している。


 魔法で怪物達を吹き飛ばした跡地から、アルとジンを引っ張り出すと、そのまま二人を担ぎ全力で走りだす。倒れているマリーのそばへ放り投げると、今度は怪物達に向かって再び駆け出していった。


 彼は、天に向かって剣を掲げる。


 魔力が渦を巻きながら、剣へと吸い込まれていくようだ。


「あれは……?」


 誰の口から零れた言葉なのかは分からないが、全員が同じ事を考えていたはずだ。


 やがて吹き飛ばされた怪物達が、再び狂気を纏いながら全力で向かって来る。


 それを受けて立つショウは、背後にいる仲間達を一瞥すると、剣を前方へと振り下ろした。


 すると怪物達の中心部に、大きな竜巻が発生し、雪を巻き込みながら、どんどんと大きくなっていく。


 百匹以上は残っていただろう怪物達だったが、その全てが余すところなくショウの魔法に巻き込まれ、空へと高く打ち上げられながら、中心部に向かって強烈に吸い込まれていった。


「なんと……!」


 ロンメルが目を見開いている。


 再び天へと掲げたショウの剣は、渦を作るように周囲の魔力をかき集め始めた。


 透き通るような青い魔力を纏っている。


 そしてその魔力は大きく膨れ上がり、やがて大地を丸ごと両断するような、巨大な蒼刃となった。


「とても綺麗ね」


 思わず口を付いて出たのだろう。リンの言葉を聞きながら、ネイベルも確かにその通りだと思った。


 全ての怪物達を巻き込んだ状態で、ショウが竜巻を両断するように剣を振りぬくと、断末魔が幾重にも重なって周囲を震わせ、雪原は怪物の骸で埋め尽くされていく。


 天から降り注ぐ血の雨を一身に浴びながら、微動だにしないショウの背中は、見る者を慄かせるに十分で、ネイベルは心の中で喝采が止まらなかった。




読み返してみると、ちょっとくどかったかもしれない。でも仲間の成長も書きたかったんだ。

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